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そだ☆シス  作者: Mie
お受験編
172/744

151 うれしいごほうび

挿絵(By みてみん)





 先日の認定試験に合格した時の、認定証ができたらしい。

 少々肌寒く、曇天からは小雨のぱらつく悪天候ではあるけれど、俺が早く見たいと言うとセラさんはあっさりOKしてくれた。


「ついでに、合格のお祝いに魔導具を買ってあげるわよー♪」


「え、ほんと?」「うわあああ~いっ♪」

「いいなぁ……」


 スリムだけど太っ腹なお姉様が任せなさいと、豊かな胸をぽよんと叩いた。

 セーレたんは俺の横で、何度も跳び上がってバンザイをする。 ロングスカートが傘みたいになってるからやめなさい。  


「エミーちゃんにも、練習用に買ってあげるわね」


「えっ、いいの?」


 この家にある物や、俺と妹様が持っているのを借りて魔導具の練習をやっているエミーちゃんも表情を明るくする。


「じゃあ、役所の帰りに魔導具屋に寄りましょう」


「はーい」「はあ~~いっ!」

「はいっ」


 けっこう高い物だって聞いてるから俺としては腰が引けるんだけど、ここで遠慮するのは野暮というものだろう。

 いろんな魔導具が見られるだろうし、俺も笑顔でうなずいた。




 ――大きくて立派なレンガ造りが並ぶの役所通りは、平日の朝にもかかわらず多くの人で賑わっていた。 色とりどりの傘の花がいっぱい咲いて、通りを忙しなく行き来している。

 建物の中では業務別にずらりと窓口が並び、係の人が対応している様子は前世と何ら変わりがない。 白いブラウスの職員のお姉さんから、俺達は認定証を受け取った。


「はい、これが認定証ね。 まだ小さいのに、凄いわね」


「ありがと」「ありがと~」


 窓口のテーブルにあるイスに座っている俺と妹様。 銅のような明るくて小さい板には、表面に薄く何かがコーティングされているようだ。 セーレたんは何度もカードの表裏を天井の照明にかざし、角度によって変化する光沢を楽しんでいる。

 表面には「魔術技能認定証」という題目で、取得した資格が書かれていた。


「大丈夫だと思うけど、念のため間違いがないかご確認くださいね」


 後ろに立っているセラさんへ向けられた言葉だが、俺もじっくりと見てみる。 上から順番に「精製補助付(準魔術師)」が三級、「精製補助無(魔術師)」が六級と書かれている。 前者は自力で魔力を精製する必要がない魔導具で、後者は精製が必要なものだ。

 どちらもいちばん下の級であり、大部分の人が取得しているらしい。 前世でいうと、車か原付の免許みたいなもんだな。

 これが一つ上の級になると戦闘魔法の認定になり、更に上になると戦闘技術の認定になってくるらしい。 一般に「魔術師」と呼ばれてプロと見なされるのはそこからだ。「準」の方はセミプロだけど。


 そして、今回は受けてないけどもう一つあるのが「魔法陣作成(〈魔導士〉)」という項目。 魔法陣の刻まれた魔導具を使うのではなく、陣そのものを自分で描いて魔術を発動させる技能である。

 戦闘技術はあまり関係なく、魔術研究者や魔導具職人といった研究開発者向けの資格らしい。 興味はあるけど、難しそう……。

 あとは「実績」なんて項目もあるけど、今は関係ないからいいだろう。


「ジャス、わたしも見せて」


「うん」


 窓口のイスが二つしかないため、セラさんと一緒に立っていたエミーちゃんにカードを貸してあげる。 妹様と同じようにキラキラを楽しんだ後、首をかしげながら内容を見ていたので教えてあげた。


「エミーちゃんも魔導具が使えるようになって、勉強を進めたら取れるからねー」


 顔に反射した光を受け、じっーとカードを見つめるエミーちゃん。 頭をなでてあげると、少しはにかんでうなずいた。

 セラさんが俺達のカードの確認をして、忙しそうなお姉さんに手を振って前を早々に立ち去る。 次は魔導具屋だ。





「さ、入りましょうか」


 役場通りから少し歩き、セスルームの中央通りに面する繁華街にそびえるモダンな五階建ての大きな建物、というかビル。 セラさんに連れて行かれたそこは、通りからたくさんの人がひっきりなしに出入りしている。

 前世なら銀座に建っていても違和感のなさそうなコンクリート造りの大きな入口には、うさぎの耳を模したアルファベットの「m」のような、もしくはカモメの絵のようなデザインのマークの横に「ラ・ピーヌ セスルーム支店」とワインレッドで書かれた、オシャレな看板が掲げられていた。


「うわあ~っ、大きいね~♪」

「すごい……」


 純粋に建物の華やかさと人の多さに驚き、目を輝かせる幼女コンビ。

 だけど俺は、違う意味の驚きに言葉を失っていた。


「こ、ここって、まさか……」


 あのマークといい、聞いたことのあるような店名といい……俺の脳裏に、とある男の娘の顔が浮かぶんですけど。


「ジャス君は知ってるのねー。 まあ、魔導具メーカーの最大手の一つだし本店は王都にあるから、知っててもおかしくないけど」


「あー……まあ、ね」


 確かに、魔導具屋をやってるって聞いてたけど……店は店でも、家電量販店レベルだぞ、コレ。

 わたくし、本物のセレブというものを見くびっておりました。


「ほらジャス君、早くいらっしゃーい」


「は、はいーっ」


 入口にいる警備員さんにぎこちなく頭を下げ、俺は大きなマイバッグを持って出てくるお客さんのすき間を縫って、活気あふれる店内へ足を踏み入れた。



 マジックアイテムの店というと、骨董品屋や古本屋のように古くてゴチャゴチャしてて、怪しげな爺さんか婆さんが店主をしてるっていうイメージだったが。

 だけどここは、ビル型の家電量販店の広さと大手書店の比較的静かな雰囲気を併せ持ったような店だった。

 棚には商品がキレイに陳列されているが、置いてあるのはたぶんサンプル。 誰も商品を持ってレジに行ってないから。

 あちこちに立っている店員さんは皆、上は白いYシャツにワインレッドのベストを着て、胸元には蝶ネクタイかリボンをつけて黒いパンツを穿いている。 接客の様子は落ち着いていて、プロフェッショナルな感じだ。

 明るくて見通しのいい店内は各フロアごとに種類が分かれているらしく、一階と二階はは安価な小物や日用品的なもの、三階はちょっとぜいたくな便利器具、四階は大型家電的なもの、そして五階が戦闘用魔導具の売り場になっている。

 ――と、目の前の案内板に書いてあった。


「お兄ちゃんお兄ちゃん! あれ、すっごくかわいいよ~っ♪」

「ジャス……あれ、なんだろう?」


「え、どれ? ……ああ、そうだねー。

 アレはぼくにも分かんないや」


「んー。 どうしようかしらね……」


 幼女コンビが俺の両サイドにやってきて、興味津々な様子でキョロキョロと見回しては事あるごとに手を引っ張ってくる。 そしてセラさんは、あごの下に手を添えてシンキングタイム中。

 ちなみに差してきた傘は、今はセラさんが二本とも手に持っている。 大人用の大きな傘だったけど、幼児三人は身を寄せ合ってギリギリだった。


「うん、先にエミーちゃんのを買ってあげたいんだけど、いいかしら?」


「は~いっ」「うん!」


「じゃ、行きましょ」


 両手の花に続いて俺もうなずき、他の人にぶつからないように気をつけながらセラさんに続いた。


 日常生活で使われる小型の魔導具は、だいたい決まっている。

 照明、加熱、冷却、送風。 水道のポンプや時計なんかは例外だけど、あまり使われない上に魔力を使わなくていい機械仕掛けのものもある。

 更にその四系統の中でも後ろの二つはなくてもガマンできないものではないし、加熱も普通に薪を燃やして火を使えばいい。

 照明も火で代用できなくはないけど、油の値段と安全性、そして明るさを考えると代用しがたいため、照明の重要性がいちばん高いのだ。

 加熱系も油よりは安いけど……薪を割ったり運んだりの辛さや、使用後にスス、灰、炭が出ることを考えると魔導具の方が断然良いんだけどね。 魔力さえあれば。


 ということでエミーちゃんには、妹様お気に入りの光球を打ち上げる魔導具の、精製補助つきのものを買うことになった。

 石だけで済むセーレたんのとは違ってマグカップくらいの大きさになっちゃうけど、それは仕方がない。


「エミーちゃん、これかわいいの~♪」


「ほんとだ……ジャスはどう思う?」


 太いキャンドルに似せて作られた魔導具を、セーレたんが見つけてエミーちゃんに見せている。 置物としても良さそうだ。


「へー、面白いね」


 確かにデザインはいいんだけど、ちょっと大きすぎるような気もするな……ん?


「ねぇ、これなんてどう?」


「どれ?」


 俺はいくつか並んでいるマグカップ型の中から、特に可愛いピンクの花柄のものを手に取った。 これなら片手でも持てるし、少し大人びて見えるエミーちゃんだからこそ、逆にこういうのがいいような気がする。 けっこう可愛い物好きだし。

 エミーちゃんに渡すと、三六〇度回していろんな角度から吟味してくれる。


「かわいい……」


「あっ、それかわいいの~♪」


 見ているうちにだんだん笑顔になっていくエミーちゃん。 ほっとするようなイラスト風味の花柄に、セーレたんも目を輝かせた。


「うんうん、いいじゃない。 ジャス君、なかなかやるわね~」


「い、いや……」


 思った以上に好評で、二人でカップを持ってきゃっきゃと喜んでいる姿がちょっと照れくさい。


「セラさん……わたし、これがいい」


「ん、分かったわ」


 セラさんはすぐ店員を呼んで、お買い上げ決定となった。

 レジで待っている間、エミーちゃんはとっても嬉しそうにしている。 ……セーレたんはうらやましそうに指を咥えてるけど。


「いいなぁ~……」


「まあまあ。 次はぼくらの魔導具を買いに行くからさ」


「うん……」


 攻撃魔術用だからたぶん可愛さは期待できないけど、そこは許してね。

 しばらくなでなでして、セラさんが戻ってきた頃にはなんとかご機嫌を戻すことができた。


「セラさん……ありがとうっ♪」


「ふふふふふ、どういたしましてー♪」


 セラさんに抱きついて喜ぶエミーちゃんが、とても可愛らしかった。

 ちなみに値段は……インテリアとして考えるなら、それなりだと思う。





 長くなってきましたので次回に続きます。

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