152 キケン物がいっぱい!?
エミーちゃんのプレゼントが終わったら、いよいよ俺達の番。
攻撃魔術の練習に入門用の魔導具を見に、最上階まで階段を上がる。 さすがにエレベーターやエスカレーターはないようだ。
「ぶっき~、ぶっき~、ぶきぶっき~♪」
「へへへへへへ♪」
妹様は楽しげに、だけど聞きようによってはちょいと物騒なオリジナルソングを口ずさむ。 そしてエミーちゃんは前を歩くセラさんが肩に掛けているカバンを……正しくはそこに入れた自分のカップ型魔導具をずっと見つめていて、喜びの声が絶えない。
階段をすれ違う他のお客さんが、俺を挟む幼女たちを見てはみんな笑みをこぼしていた。
中には俺の顔見てニヤニヤと意味深な視線を送ってくる人もいて、やや微妙な気持ちになったが。
魅惑の大形家電フロアをスルーして、ついに最上階へやって来た。 これだけ階段を上っても、誰一人息を乱さないのはさすがだな。 ……って、前世の俺の体力がなかっただけか。
ここは下のフロアと違って、少し狭い上に客も少なかった。
まあ、扱ってるのが武器の類だからねぇ。 ここにあるのは入門用か護身レベルのものだけらしいけど、それでも買うためには資格が必要だ。
「いらっしゃいませ。 この階は戦闘用魔導具を取り扱っておりますが……」
フロアに入ってすぐ、近くにいた体格の良い男性店員さんが渋い声で話しかけてきた。 あごのヒゲがダンディーだ。
向こうから話しかけてきたのは、この店に入って初めてだな。
「ええ、こっちの二人に入門用を見に来たのよ。
……ほらジャス君セーレちゃん、カード出して」
「あ、うん」「はいなの」
「ごめんなボク達、見せてもらうよ……」
セラさんに言われて、俺と妹様はもらいたてホヤホヤの認定証をポケットから出した。
すると、店員さんが大きな身体を屈めて俺達に視線を合わせてきたので、カードを渡す。
「ふんふん。 有りと無し、両方持ってるんだね。 ……ところでボク達、いくつ?」
「五歳」「五さいなの」
「ふぉっ」
年齢を答えたら、ダンディーな店員さん奇妙な声が漏れた。
「そ、そうか。 偉いんだね……」
「ンフッ……そ、そうなの?」「にゃ?」
おじ……お兄さんが変な声を出すから、俺もちょっと鼻息が漏れちゃったよ。
「あ、ああ……失礼しました。 どうぞ」
心なしか顔が赤くなった気がする店員さん。 誤魔化すように素早く立ち上がって、俺達を売り場の中へ入れてくれた。
「へー……いろいろあるんだ」
「早くつかってみたいなぁ~」
「なんか、すごそう……」
セラさんが別の女性店員さんと話をしている間、俺達三人は人気の少ない売り場を歩き回ってみる。
一応離れる前に聞いてみたら「あまり遠くに行かなければいいわよー」とのこと。 ちなみに、この売り場の商品は魔石を抜いた展示品らしい。 だから手に取っても大丈夫とも言っていた。
通路の左右の棚には、いろんな形状の魔導具が並んでいる。 中でも特に多いのは、細めの懐中電灯やスタンガンのようなものだ。 グリップ部分についている魔力を注ぐところには、スライド式の安全カバーがついている。
展示品に添えられている手書きのPOPには、発動する魔術の説明や消費するおおよその魔力量が●の数で書いてあって、分かりやすい。
そして値段は……うげぇ。 物価の違いを差し引いても、前世だったらゲーム機が買えるくらいのレベルだ。 精製補助のありなしで、けっこう変わるみたいだけど。
更にそのまま殴ったりできる頑丈なタイプになると、ちょっとした家電さえ買えそうな額になる。 ……こんなの、買ってもらっても本当にいいのか?
つーか、今俺が使ってる木刀も考えてみたら魔導具なんだよな……。
「うへぇ……ん?」
血の気が引いていく小市民な俺。 展示品でさえも手に取るのをためらいながら歩いていると、売り場の端まで来てしまった。 目の前だけは棚がなく「従業員以外立ち入り禁止」と書いてある木のドアがある。
なので角を左に曲がって再び歩き始めると、奥の更に角になっているところに、今度はドアではなく淡い黄色のカーテンで出入口を隠しているところがあった。
「あれ、なんだろうね?」
「わかんな~い」「さあ……」
幼女コンビに聞いても分かるはずもないし、周りには店員さんもいない。 見ていると、奥の角からやって来た男性客がカーテンをかき分けて裏側に消えていった。 俺達も行ってみるか。
近くまで行くと、カーテンの横に何か書いてあるのが見えた。 なになに……?
『この先、未成年の方は立ち入り禁止』
「…………」
ちょっと待て。
こんなコーナーのある店、前世で見たことありますよ……?
「お兄ちゃん、どうしたの~?」
「ジャス?」
「あ、いや……」
あまりの衝撃に立ち尽くしていたら、そのカーテンの中からさっきとは違う男性と女性の客が腕を組んで出てきて、俺達と目が合ってしまった。
「あ……」
「ぬわっ!?」「きゃっ」
思いっきり焦りの表情を浮かべる男性に、だんだん顔が赤くなっていく女性。
俺はその顔を交互に見ているが、カップルらしき二人も俺達幼児三人の顔へ何度も視線を往復させる。
ど、どうしよう。 すっげー気まずい……。
えっと、なんだ、その。
「え、えっと……が、がんばって」
ナニを言ってるんだ俺はああああああああーーーーーっ!?
「ぼ、ボウズこそな……」
「びょ、平等にね?」
「え……」
しかも返すなよあんたらも……。
お互いに口走った内容に気がつき、俺が目線を逸らした隙にカップルもそそくさと立ち去っていった。
「お兄ちゃん、おかお赤いよ~?」
「ジャス、どうしたの?」
「い、いや、なな何でもない……ありがとセーレちゃん」
心配げな表情で俺の顔を覗き込む美幼女コンビ。
俺が汗をかいているのに気づいて、更にセーレたんがすぐにハンカチを出して顔を拭いてくれた。 扇子で扇いでほしかったけど、今日は持ってきていないようだ。
これ以上ここに留まっていてもロクなことになりそうにないので、俺達も早く立ち去ろう。
……と思ったら。
「ね~ね~お兄ちゃん、ここは何があるの~?」
「へっ!? い、いや……えっと」
汚れなき聖天使の笑顔を煌めかせ、可愛らしく問うてくる妹様。
な、なんて答えりゃいいのよーっ!?
「……ぶ、武器、だけど」
つい答えてしまった……。 でも、ある意味間違ってないよね?
はっ、まさか……それでこのフロアにあるんじゃないよな?
「え? ジャス、わたし見てみたい」
ぐはっ!? なんか、エミーちゃんまで興味持っちゃった!
しかも二人とも俺の手を引いて留まり、ここから離れさせてくれない!
「ダメダメダメッ!? ほ、ほら、ここは子供は入っちゃダメだからっ!」
ちょっと礼を失するが、あごと目線でカーテン横の注意書きを指す。
二人にも読める字で書いてあるから、これで大丈夫のハズだ。
「『みせいねんの方は――』……あ、ほんとだ」
「それじゃあ、おとなになったらいいの~?」
「ぶふっ!?」
そ、そう来たかセーレたん……ッ!?
『――ああっ、こんな所にっ』
俺が二時間サスペンスの一時間三〇分過ぎの犯人みたいになっていると、通路の向こうからセラさんと話をしていた店員のお姉さんがやってきた!
「だめよぼく達、ここは入っちゃダメだからね? それと、お母さんが呼んでるから戻りましょうね」
「は、はーいっ!!」
「……はぁい」「……うん」
た、助かったあ……。
俺達は背中を押され、なんとか崖っぷちからの帰還を果たした。
「――あ、戻ってきた。 どこ行ってたのよー」
「ご、ごめんなさーい。 ……あ、これが?」
「ええ、そうよ♪」
セラさんのところに戻ると、すぐ側の小さいテーブルに魔導具のサンプルが何個か置かれていた。 候補を絞ってくれていたようだ。
俺は素直に謝って、本命の魔導具選びへと話の流れを誘導する。 幼女コンビの興味も、今や完全にテーブルの上へと注がれていた。
「いろいろあるね~っ」
「これはなんだろう?」
「間違って身体に当たったら危ないから、リミッター付きなのを選んであるわよ」
「へぇー。 ……お姉さーん、これはなに?」
リミッターとか、そんなのもあるんだ……。
俺も興味を引かれ、手に取って店員のお姉さんにあれこれ聞いてみる。
「これは水の塊を勢いよく飛ばす魔導具ね。 この水は魔術で作るから、しばらくすると消えるの」
「ほー」
水系魔導具!! 確か親父の専門書に『魔術で具現化された物質は時間が経つと消滅する』って書いてあったけど、これがそうなのか。 すっごい興味ある! これほしいな……あ。
じきに消えるとはいっても、もし当たったら一時的に濡れるわけだから、冬には使うと身体が冷えてマズイか?
それに夏場も、薄着を濡らしちゃったらキケンな気がする……。 特に白い生地。
「じゃあ、これは?」
「これはね、目つぶ……光の球を打ち出すものよ。 当たると光が弾けて、すっごく眩しいの」
め、目つぶしっすか。 まあ言い直したってことは、リミッターをかけると少し眩しい程度に収まるんだろう……だったら危険はないか。
そういえば「光の球」っていうのも科学的には謎だよな? プラズマだったら温度がトンデモないだろうし。
――結局いろいろ考えて、買ったのは「眩しい光球」と「風の塊を打ち出す」魔導具の二つ。 どちらも懐中電灯型で、軽くて振り回しやすいけど鈍器には使えない。
ちなみに風の魔導具も、本来は相手を軽く吹っ飛ばす威力があるとのこと。 しかしリミッターをかければ、髪がボサボサになるくらいで済むらしい。 いかにも女性らしい、リアルな例えだね。
今も既にそうしてるけど、訓練の時には髪をくくってスカートも穿かないように注意していればほぼ問題なさそうだ。
この二つの魔導具を俺とセーレたんで共有して使えば、魔術戦闘のいい練習になるだろう。 すぐにでも試してみたいな。
「うふふふふふ~♪」
妹様も最初は水の魔導具にはかなり惹かれていたが、千の言葉を用いてなんとか説得した。 それでも十分に満足してくれたようで何よりだ。
「ふたりとも、いいな……」
「これは使うのに資格がいるからさ。 エミーちゃんも資格取ったら、その時はいっしょにやろうね」
「うんっ」
そう言ってなでなでしたら、拗ね顔が微笑みに変わった。
「お兄ちゃああ~ん、わたしもなでなでして~っ」
「ん。 ……セーレちゃんも、これでいっぱい練習しような」
「はいなの~♪」
「みんな、喜んでくれてよかったわー♪」
俺達がもれなく笑顔になって、セラさんも嬉しそうにしてくれている。 店員のお姉さんも微笑ましそうに俺達を見ている。
かなり散財させちゃったけど……そのお礼はいっぱい活用することで返すことにしよう。
「セラさん、買ってくれてありがとー!」
「ありがと~」「ありがとう、ございます!」
「うん、大事にしてね」
「はーい!」
昼の鐘を聞きながら店を出ると、雨がやんでいた。
雲の隙間から光のカーテンが差し、とても綺麗だった。




