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そだ☆シス  作者: Mie
帰郷してきた編
144/744

127 甘味料は含まれておりません?

挿絵(By みてみん)





 今年は寒波が来ているようで、降った雪が翌日にカチカチになったりもするんだけど。

 セーレたんが暖炉の魔力補充係になって、家の中がずいぶん暖かくなった。

 これでもう一つある小型の暖炉も長時間動かせるようになったと、メイドちゃんズと親父に凄く感謝されている。 なんでももう一つの方は、一階のメイドちゃんズの部屋と二階の親父の書斎用らしい。


「わたし、朝が弱いので本当に助かりますよー!」


 チャロちゃんはリビングのテーブルに並べる料理の皿を渡しながら、もう何度目か分からない感謝を妹様に捧げている。 使った魔力は回復するとはいっても、ゲームみたいに一晩寝れば全回復なんて都合のいいものじゃないしな。

 それに魔力は生命力にも関わっているようで、特定の色を使いすぎるとオドの成分バランスが崩れて身体の調子がおかしくなったり気を失ったりすることがあるらしい。 もちろん、まんべんなく使っても危険域(イエローライン)を超えると同様だ。

 セーレたんは、今まで疲れを知らなかったほどの魔力量を持ってるけど精製速度も相当なので、イエローラインを知っておかないと一気に魔力を使う恐れがあるからな……。


「うんしょ」


「ジャスさまはこっちをお願いしますねー」


「はーい」


 取り皿をテーブルに乗っけているハニーを見ながら、俺はキッチンでスープの入った皿を受け取る。 触手をお盆にして、三枚同時に運ぶ。

 ちなみに俺も、風呂の水張りと沸かすので貢献してるよ? 高いところの掃除とマッサージにいたっては専売特許だし。

 あまり汚れているように見えない天井も、拭いてみると色が変わった。 年末の大掃除として十分な成果だと思う。



「は~い、あ~ん♪」


「うー? ……あむ」


 夕食に親父がいないのは珍しいことじゃないけど、今日からお袋に連れられて新しいメンバーが参加することになった。

 お袋の膝の上で、おっかなびっくりな顔をして離乳食を口に入れられているのは、当然ながら我らの弟くんである。 お袋のお手製らしいよだれかけに刺しゅうされたニコちゃんマークが面白い。 ……大王じゃないぞ?

 ……こうして傍から見ると、離乳食ってあんまり美味しそうじゃないよね。 当時は普通に食べられたけど、今食べたらどうなんだろう?


「あら、もういいのかしら~」


「んあーっ!」


 初めての離乳食ということもあって、リソ君は二回ほど口に含んだだけであとはツーンと首を横に向けていた。 飲み込んだだけでも万々歳だ。



「……ねーママ。 それ、食べてみてもいい?」


 数年振りにちょっと興味が出たので、自分で食べようとしていたお袋にねだってみる。


「あらあら~、うふふふふ♪ こっちにいらっしゃ~い」


「どうぞジャス様、こちらへ」


 お袋の隣に座っていたマールちゃんと席を譲ってもらって、お袋の方へイスを寄せて座る。 正面にチャロちゃんがいるというのは、ちょっと新鮮な感じがするな。

 立ったついでと、マールちゃんがまだ中身の残っている皿を動かしてくれる。 余計な手間をかけちゃったな……ん?


「おにぃ、セーレも~っ!」


 イスを動かしてできた右側のスペースに、セーレたんもイスを引きずってやって来た。 ぴったりくっつけて隣に座るけど、右隣なので落ち着かないご様子。 そわそわしてるのがちょっと可愛らしい。

 そんなセーレたんの頭をなで―― あれ、俺もなでにくいわ―― なでて、お袋の膝に乗っているリソ君にご挨拶。


「おっす、ゴハンもらうね」


「……」


「もーらーうーぞー!」


「んうーっ」


 いつも通りの無表情なほっぺを、両手でむにむにしてやったらタコみたいな顔になった。 おもしれー。


「うふふふふ……さあジャスちゃん、食べましょうね~」


「おっと。 はーい」


 目の前に置かれた乳鉢のような器に目を移すけど……スプーンがないよ?

 んで、なんかお袋が俺に向かってスプーンを差し出していますよ?


「はい、あ~ん♪」


「……」


 まじっすかー。 俺も一瞬無表情になっちゃったよ。


「うふふふふ……あ~~ん♪」


「えっと」


「あ~~~~~ん♪」


「……」


 楽しくって仕方がないわ~♪ という表情なお袋。 目線でご容赦を訴えたけど、華麗に却下された。 ……回避不可らしい。

 周りを見渡すと、マールちゃんとチャロちゃんも素晴らしい笑顔で俺のことを見ている。 その一方で、俺の両隣の幼児と乳児が無表情なのが怖い。


「あ~~~ん」


「……あーん」


 観念して、スプーンの中の白いモノを口に入れてもらう。 じっと目を見つめられて、けっこう恥ずかしい。 目を逸らすとくすりと笑われた。

 舌触りの良いとろとろは冷たい一歩手前まで冷めてしまっていて、わずかに口の中に絡みつくような液体は――。


「どう~?」


「…………ほとんど味がない」


 ほんのり砂糖が入ってるかな? という感じだが、味らしい味はほとんどしなかった。 うぇー。


「うふふふふ。 でも、ジャスちゃんもこれを食べてたのよ~」


 うん、覚えてるよ。

 俺も微妙な表情の仲間入りを果たしていると、右側からセーレたんの声が聞こえてきた。 やっぱり左じゃないのは、イヤホンをつけ間違えたみたいで違和感あるわ……。



「おにぃ、セーレも~」


「あんまりおいしくないよ?」


「た~べ~る~ぅ」


「はいはい」


 なんでか知らないけど、やたら欲しがるセーレたん。 お袋からスプーンを受け取ると、俺は白い液体をすくい取って妹の口内に差し入れた。


「あーん」


「あ~ん♪」


 笑顔でぱくんとスプーンを咥える。 閉じた唇からゆっくりと抜き取ると、妹様はもごもごと時間をかけて味わってから目を閉じて飲み込んだ。

 そんなに美味しいものとは思えないんだけど、まるで甘い水飴をなめているかのような表情には一片の曇りもない。


「……どう?」


「おいしい~っ♪」


 聞いてみると、にっこり笑顔に(たが)わない好意的なお返事が。 セーレたんって典型的な甘い物好きだけど、こんなわずかな甘みでも美味しく感じるんだろうか? 敏感な舌だなぁ。


「そっかー」


「うんっ!」


 まあ、本人が美味しいって言うんだからいっか。

 俺は更に欲しがるセーレたんを不思議に思いつつも、乳鉢の中身を全部飲ませてあげるのだった。



「はい、セーレちゃん」


「あ~ん……むふふ~♪」





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