第4話 盗賊団と偶然の英雄
村祭りの翌日。
俺は疲れ果てていた。
リサ、セレナ、ミリア――三人の視線に挟まれ続けたせいで、胃がキリキリ痛む。
俺はただ静かに畑を耕し、パンをかじり、脇役としてのんびり暮らしたいだけなのに。
「……このままじゃ、本当にハーレム主人公みたいになっちまう」
ため息をついて、村外れの草原で寝転がる。
柔らかい草の匂い、青い空、雲の流れ。
こうしてると、少しだけ“脇役としての俺”を取り戻せる気がする。
――だが。
「ぎゃああああっ!」
「助けてくれ!」
村の方から悲鳴が上がった。
俺は顔を覆い、心の底から叫ぶ。
「……やっぱり来たかぁぁぁぁ!」
急いで村に駆け戻ると、そこには数人の盗賊が武器を振り回して暴れていた。
家々から煙が上がり、人々が逃げ惑っている。
「金目のものを出せぇ!」
「女はいただいてくぜ!」
……テンプレみたいな盗賊だ。
いや、異世界テンプレ展開、いらないから!
俺は物陰に隠れ、必死に頭を回す。
剣なんてまともに扱えない。戦う力もない。
俺ができるのは――せいぜい観察することだけだ。
「悠真!」
駆け寄ってきたのはリサとセレナだった。二人とも怯えながら俺に縋りついてくる。
「ど、どうしよう……」
「兵士が来るまで時間がかかるわ!」
「落ち着け……俺に期待するな……!」
本音が漏れた。だが二人は「大丈夫、悠真なら」と瞳を潤ませて見上げてくる。
やめろ。そういう目をするな。俺はただの脇役だ。
盗賊の一人がこちらに気づき、剣を振りかざして突っ込んできた。
「ひぃっ!」(リサ&セレナ)
俺は反射的に後ずさり、足元のバケツを蹴飛ばした。
中身は村人が貯めていた灰。
――ぶわっ!
盗賊の顔に灰が直撃し、男は「ぐわっ、目がぁ!」と叫んで転げ回る。
「……あ、あれ?」
俺の意図しない行動が、敵を一人無力化してしまった。
さらに後退した拍子に物干し竿を倒し、それがドミノのように盗賊たちに次々とぶつかり、三人ほどがまとめて転がった。
「な、なんだこの強運……!」
村人たちが一斉に俺を見つめる。
そして口々に叫んだ。
「悠真が盗賊を倒したぞ!」
「やっぱり彼は村の守り神だ!」
「ち、違うって言ってるだろぉぉぉ!」
俺の絶叫も虚しく、盗賊たちは半分以上が戦意を失い、残りも村人総出で捕縛されてしまった。
戦いのあと。
村長は俺の肩を叩きながら満面の笑みを浮かべていた。
「悠真よ、よくやった! お前のおかげで村は救われた!」
「……いや、俺はただ転んだり、蹴ったりしただけで……」
村長は俺の言葉を聞き流し、大声で宣言した。
「今日より悠真は“村の守護者”と呼ぶ!」
「やめろぉぉぉ!」
周囲は歓声と拍手。
その輪の中で、リサとセレナが俺を見つめ、さらにミリアまで駆けつけてきてこう言った。
「やはり……あなたは特別な人」
「……やめてくれ、本当に俺は脇役なんだ……」
だが少女たちの目には、もう俺の否定など届いていなかった。
夜。
村の宴は、盗賊退治の英雄を祝うものになっていた。
俺は焚き火の端で、一人パンをかじりながら思う。
「……完全に主人公補正が働いてるよな、これ」
空を見上げる。
星が綺麗に瞬いていた。
――俺はただの脇役。
そう言い聞かせても、運命の歯車は否応なく俺を“中心”へと押し上げていくのだった。