第5話 領主の屋敷で新たな誤解
盗賊団襲撃から数日後。
村は復興の真っ最中だったが、妙な空気も漂っていた。
「悠真さん、英雄って呼ばれてますよ!」(リサ)
「あなたは村の希望なのよ」(セレナ)
「……また偶然で済ませるつもり?」(ミリア)
三人の言葉が突き刺さり、俺の胃はすでに悲鳴をあげていた。
だがさらに追い打ちがかかる。
――ドンッ。
村長が俺の家にやってきて、一通の封筒を置いた。
蝋で封がされた重厚なそれを、俺はおそるおそる開ける。
「……“領主館にて謁見を求む”。」
嫌な予感しかしない。
「……俺、完全にフラグ立ってるよな」
仕方なく、三人に付き添われて領主の屋敷へ向かうことになった。
村人たちの「行ってこい英雄!」「頼むぞ守護者!」という声援を背に。
「やめろぉぉ! 俺はただの脇役だってば!」
屋敷に着くと、豪奢な装飾と広い庭園が広がっていた。
正直、村の掘っ立て小屋暮らしに慣れてる俺からすると、場違い感が半端じゃない。
「ここが……領主様のお屋敷……!」(リサ)
「気を引き締めてね。粗相は許されないわよ」(セレナ)
「……あなたが一番粗相しそうだけど」(ミリア)
やめてくれ、その通りだから返せない。
広間に通され、やがて現れたのは四十代ほどの堂々とした男――この辺りを治める領主、ガルド・フォン・ラグナス卿だった。
「うむ……そなたが村を救ったという若者か」
俺は慌てて頭を下げる。
「い、いえ! 俺はただ……!」
言い訳をしようとしたその時。
領主の目が俺の腰に下げた“村人から借りた古びた剣”に止まった。
「……その剣。まさか、伝承の《蒼紋剣》……!」
「は?」
俺は思わず声をあげる。
いやいや、ただの村の倉庫に眠ってた錆びた剣だぞ?
だが領主は興奮気味に続けた。
「盗賊を一撃で倒したと聞いた! やはり……その剣が選んだのだ!」
「ま、待ってください! 一撃じゃなくて、偶然で――」
俺の必死の否定も虚しく、広間の騎士や侍女たちはざわめき、やがて一斉に俺を“英雄の再来”と称えはじめた。
さらに面倒なことに、領主の娘――クリスティア嬢まで現れた。
金髪碧眼の絵に描いたようなお嬢様で、俺を見るなり両手を合わせて輝く笑顔を浮かべる。
「まあっ……! あなたが私の命の恩人……!」
「えっ? は?」
どうやら以前、盗賊団に狙われた馬車を“誰か”が撃退したらしい。
そしてその“誰か”が俺だと勝手に結論づけられていた。
「いえいえ! 俺そんなことしてませんから!」
必死に否定する俺。
だがクリスティア嬢は熱に浮かされたように言葉を続ける。
「運命ですわね……!」
「いやいやいや! 違う違う違う!」
俺の頭の中でツッコミが止まらない。
だが領主まで頷き、決定的な一言を放った。
「――よし。そなたを、娘の婚約者候補と認めよう!」
「やめろぉぉぉぉ!」
俺の両脇にいたリサとセレナが同時に絶句し、ミリアが眉をひそめる。
「婚約者……!?」(リサ)
「ちょっと待って、それはさすがに……!」(セレナ)
「……ふぅん、やっぱりあなたってトラブルを呼ぶ体質ね」(ミリア)
三人の視線が、さらに鋭さを増す。
いや違う、俺のせいじゃない! 本当に勝手に話が進んでるだけなんだって!
その日の夜。
俺は屋敷の一室に泊められることになった。
ふかふかのベッドに沈みながら、天井を見つめて叫ぶ。
「……なんでこうなるんだよ!」
脇役でいたい。
それだけの願いが、どうしてこうも裏目に出続けるのか。
窓の外には月が浮かんでいた。
まるで俺の混乱を嘲笑うかのように、静かに輝いていた――。




