9.オークトレインをゴブリン砦にぶつけてみた
ゴブリンの巣を潰した。あとは報告だけだ。
依頼達成の大銀貨6枚に加えて、32匹の討伐で小銀貨16枚。合計、大銀貨9枚と小銀貨1枚。(大銀貨=小銀貨x5)の報酬になるはずだ。
ゴブリンだと魔石は出たり出なかったりするらしい。そこは角ウサギに劣るな。
紅茶も飲んでないのに、スコップでウラーーーってどうなんだ?
これでも21世紀の日本人だぞ。今どき銃剣突撃みたいな真似をするのは紅茶の国だけだ。
まあ、あれはあれで燃えるけど。
..またやりたいかも。
今から真っすぐ街へ戻れば日が沈む頃には到着するはず。
だが、ここでオレは一つ提案をした。
「暗くなってからなら便利な移動手段があるぞ。歩かずに済む。まだ日が高いし、もうちょっとこの辺りを探索してみないか?」
「おっ、また新しい秘密の道具か」
「ひみつ道具言うな!」
アイテムボックスと四次元ポケットは違う。違うよな?
ロンセルが提案する。
「それなら、少し山を下ってから、もう少し先まで行けば遺跡がある」
オレ 「おっ、それいいな」
アドル「まあ、何でもいい。付き合おう」
ザック「そろそろオークも出るし、ゴブリンの巣が他にもあるぞ。
この先は遭遇する確率が上がるからな」
少し下って、また上ると木と木の間に石壁と建築物が見えてきた。
「こういう場所には大抵何か住み着いている。慎重に進むぞ」
「よし、それならこれを使おう」
オレはドローンを出した。青狸の声真似はしない。
「また出た、秘密道具」
「せめて魔道具と言ってくれ」
「で、何だそりゃ?虫、でもないか」
「見て驚け、こいつはオレが自在に操れるゴーレムだ」
ドローンは4つのローターを回転させて垂直に上昇した。
「おう!」
「おわっ!飛んだ」
「うわっ!やっぱり虫か?」
4つのローターが出す音はけっこうウルサイ。ブウーンではなく、ブワァーンと表現した方が近いような、虫の集団が飛んでいるような音を出す。
これは、今回の目玉アイテムで結構な高級品だ。カメラ付きで20分近く飛べる。
遺跡の上空を旋回させると手元の画面に人型生物が見える。
アドル 「ぬう、これはなんとも。アレの目を通して見ているのか..」
ザック 「おいおい、エドよ。なんだこりゃ。すごいってか、度が過ぎる凄さだな」
ロンセル「....」
オレ 「そんなことより、このデブいのはオークか?」
ザック 「そうだ。オークが9、10くらいか。こりゃ無理だな」
閃いた。
「ゴブリンの巣が近いんだよな?」
「ああ、オレ達が調査した大きめの巣がある」
オレはニヤリとして言った。
「そこにオークをぶつけようぜ」
まず、オークがいる遺跡とゴブリンの巣の位置関係を把握。ドローンを飛ばしやすく、オレが隠れて移動できるコースを選定する。移動に10分はかからないな。
ブワーン、ブワーンと煩いドローンがオークの頭上を低空飛行して挑発する。地面に下してオークが飛びついたら逃げる。おわっ!石斧投げられた。怒ってる、怒ってる。こいつらを引き連れてゴブリンの巣へ向かう。
来た来た、リアル・オークトレインだよ。
オークが列をなし、どすどすとドローンを追いかける。けっこう早い。こりゃ、追われたらヤバいな。飽きて戻ろうとする奴がいれば、そいつの頭をかすめるように飛ばしてさらに怒らせる。オレ達は途中の高台からゴブリンの巣が見えるところまで来た。巣の前には防御陣地が構築されている。ドローンをいったんゴブリン陣地に入れてからフルスピードで飛び去らせる。オークの列はそのまま突っ込んでいく。
突撃するオークの列にゴブリン達が矢を放って応戦する。先頭のオークは矢が刺さるのをものともせず突撃するが、柵を越えようとしたところで数本の槍に突き刺されて倒れた。だが後続のオークが木の柵を力任せに破壊して突入する。柵が破られるとゴブリン達は散り散りに逃げ出し、それを一部のオークが追いかける。巣穴に入ろうとしたオークが倒れた。穴には別のオークが突入し、別の穴からはゴブリンがわらわら逃げ出して来た。
「わはははは!どうだ?見事だろう?」
「あ~、もう、何て言ったらいいか分からん」
「さあ、今のうちに手早く遺跡を見てみようぜ」
遺跡はもぬけの殻だった。オークは見た目通り単純なようだ。遺跡はきれいに成形された石を積み重ねた建築物で、一部には真っ黒で表面がつるつるの素材が使われている。建築物の裏に回ってみると奥でガコンと音がした。
「ブゴッ!」
「あ」
「まだいた」
「お邪魔してます。お気になさらず」
分厚い石建築の中までは探知できないか。素材のせいもありそうだな。
そいつは他の奴らより一回り大きく、右手に大斧、左手に縦長のでかい金属製タワーシールドを持っている。
ボス豚だな。
油断していたわけではない。皆即座に戦闘態勢を取った。
ストーンバレット詠唱開始。収束モードだ。一発で仕留める。
ザックの矢がシールドで隠しきれない巨体の右肩に刺さった。
アドルのファイヤーボールがボヒュッと音をたてて飛んだが、シールドで受けられた。着弾と同時に激しく光と熱を発する。かなり威力が上がっている。新しい杖は高性能だな。
ボスオークが火花を浴びて顔をしかめた。貫通したようだ。光が収まると赤熱している部分の真ん中には、指が通りそうな穴が開いていた。
オレはストーンバレットが詠唱完了する直前に、シールドにできた赤熱する点を注視した。安物のメロンくらいの石弾が飛び、赤熱する点に命中した。バガン!と音をたて、シールドはべっこりくの字に折れ曲がった。シールドはそのままデブった腹に押し付けられ、シールドを半分貫通した石弾が腹にめり込む。ボスオークは2歩、3歩とヨタって後ろに倒れた。
収束モードのストーンバレットはスラッグ弾だ。
散弾とは訳が違うのだよ。散弾とは。
追撃で矢とファイヤーボールが飛ぶ。ロンセルも大剣を振り上げて走り寄る。
むくりと起き上がったボスオークの胸に矢が刺さった。ファイヤボールは顔面に命中する直前に躱された。
ボスオークがニヤリと笑う。案外表情が分かるもんだな..。
お前、やせ我慢してるだろ。地面に左手を付いて、イテッって反応したの見たぞ。シールドをへし折られた時に痛めたな。
ロンセルが上から大剣を叩きつけるが、斧の柄で止められた。切り替えして右上からもう一撃。これも止められた。ボスオークはそのまま斧を振り払ってロンセルを弾き飛ばすと立ち上がってしまった。
こりゃ、イカン。馬力が違いすぎる。
オレは禁断の魔法の封印を解くことにした。
ぷよぷよと波打つ水球がすい~っと飛び、ボスオークの頭上を飛び越える。外れたと思わせて視界の外からぶつける作戦だ。豚面は水球で覆われた。そいつは水を吸い込むと、口と豚鼻からゴボボッっと空気を吐いて、水を払おうともがきだした。倒れなかったのは褒めてやる。
もがくボスオークの首すじにアドルとザックが剣を突き刺す。ロンセルが大剣で頭を叩き割った。
死んだオークはただの豚だ。肉塊と斧と盾をアイテムボックスに収納した。戦闘開始からわずか15秒ほど。
「いい斧だ」
「中を探索するのは無理か」
「戻ってきたオークに囲まれるかもしれんな」
「よし、撤収しよう」
オレ 「あはははは!楽しいぜ。オレ達冒険してるよな」
ザック 「まあな。大冒険だぜ」
ロンセル「想像もしなかったことが続くが、楽しいな」
アドル 「俺ももう、いろいろどうでもよくなってきたぞ」
アドルの笑いがやけっぱちだ。
さっきのボスオークと戦った感触だと、普通のオーク1体なら大して怖くないな。おっと、一体戻って来たようだ。オレのマップに、接近してくる赤い点が出た。
「1匹戻ってくる。初撃はオレにやらせてくれ」
外壁の裏に隠れて敵の接近を待つ。赤い点がゆっくり接近する。もう鬼ごっこに飽きたのか。
あと数メートル。
ファイヤーボール詠唱開始。収束モード。
イチ、ゼロ
詠唱が完了する直前に、オレは敵の目前に飛び出した。
ボヒュッ!
野球ボールより小さく圧縮された火の玉が豚面に命中した。光と高熱を発して、ジュウジュウと肉を焼きながらめり込んでいく。
ジュウーーーーーーーーーーッ、ボフッ!
「うわっちちちち!」
頭蓋が水蒸気圧ではじけた。飛び散った汁が熱い。
着弾から2秒程度で光が収まると頭の上半分が無くなっていた。脂が燃える炎が上がり、水分が沸騰して湯気が立ち昇っている。ただの豚になったそいつはゆっくりその場に倒れた。焼肉の臭いだ。今夜は焼肉のたれも出すか。
「むう..まだエドには及ばないか。この杖は金貨8枚もしたんだがな」
「あっはっは、まあ気にすんな。その代わり、アドルの魔法は一瞬で発動するじゃないか。で、その杖の性能って?」
「火属性なら倍の威力になる。それ以外は1.5倍といったところか」
杖の先には小さな赤い石が付いていた。
「そりゃすげーな。後でオレにも貸してくれ」
「ああ、もちろんだ。それより、なんでお前は普通の魔法を使えないんだ?お前なら使えないはずがない。それにさっきのでかい石は何だ?その杖では、そこまでの収束は効かないはずだ」
「そうなるようにイメージして圧縮してるんだよ」
「うん?」
「え?」
なんだ?話の前提が食い違ってる気がする。
ここまでの戦果
川サハギン
ゴブリンの巣
ゴブリン32匹
ボスオーク 大斧 曲がった盾
普通のオーク
山の中では、まだゴブリンとオークの鬼ごっこが続いているようだ。
山を下ると誰か戦っているのが見えた。双眼鏡で見ると昨日の女剣士と耳長さん達4人組だった。道のない山中だが、できるだけ急いで加勢に走る。
彼女らはゴブリン達に囲まれないように移動しながら戦っている。2人の魔法使いがストーンバレットを連射して、大粒の散弾が次々とゴブリンをなぎ倒していく。剣士と槍使いも無双している。大丈夫そうだ。
ザックが説明する。
「エリカ達なら俺らより強いぞ。いや、強かった。エドが入るまではな」
見ていると少し離れたところにいたゴブリンが1匹、木影から現れた大男に倒された。それに加えて後ろから4人の男達が出てきた。ゴブリンは全滅したようだ。
「何だあいつら?なんだかガラの悪い連中だ、な、え?」
マップ上でそいつらを示す点は赤だった。
大男 「おう、姉さんたち、危なかったな。俺達が来たからもう大丈夫だ」
女剣士「あ、ありがとう。助かったわ」
大男 「いやいや、礼には及ばんさ。でも、どうしてもって言うんなら、受け取るのはやぶさかじゃないぜ」
そう言いながら男達が近寄っていく。大男はエルフの隣に付き、肩を抱き寄せた。他の男たちもそれぞれ気に入った相手の横に付く。男5人対女4人で、1人余る。余った男は弓を持ち、少し離れている。
オレ 「なあ、あいつらもしかして..」
ザック 「冒険者にしちゃ、ちょっとガラが悪すぎるな」
アドル 「ここは山の中だしな。まあ、お決まりの展開だろう」
ロンセル「ただの野盗、というより冒険者崩れか。それなりに強そうだぞ」
女剣士「ちょっ!触るな!!たった1匹倒しただけだろ。お前らの助けなんて要らなかったんだよ!」
ザック 「よし、助けに入るぞ」
ザック 「おいおい、待ちなっておっさん達、嫌われてるじゃねーか。
雑魚一匹倒しただけで、でかい顔しすぎじゃねーか」
大男 「あん?冒険者か。俺たちゃお嬢さん方を助けてやっただけだぜ。
礼を言われて仲良くしてるところだ。邪魔しないでくれねーか」
手下と思われる3人がこっちへ来た。締まらない口元に、目つきは据わっている。間違いなくチンピラ、ヤクザの類だ。
オレは戦闘を想定してどう動くかイメージした。対人戦闘だ。これまでとは違った緊張感に心拍数が上がる。落ち着け、斧オークに比べたら雑魚だ。
3人はオレ達の目の前まで来て、その中の1人がニヤつきながら言った。
手下A「なあ、兄さんたち、焼きもちはみっともないぜ」
言い終わるのと同時に、ヒュンッと手慣れた動きで抜かれたナイフがオレの首筋にピタッと当てられた。血の気が引く。こいつらの方が強そうだ。手下B、Cもすでに短剣を抜いている。
イテッ、切られた。マジやべえ。これが本当のガクブルか。
ヘタに動くと死ぬ。いや、動かないと確実に死ぬ。
オレ的交戦規程クリア。
殺る。
ゆっくり軸足を左から右に替えて、さりげなく目の前の男とその後方いる大男を射線に入れた。
「オラ、なんか言ってみろよ」
ウインドカッター詠唱開始。
「はあ?」
そいつはオレが何を言っているか分からず怪訝な顔をした。
ウインドカッターが飛び、怪訝な顔は地面に転がった。その隣にいた男は首から血を吹き出した。ほぼ同時に後ろの大男も崩れ落ちた。
弓
大男
ABC
オレ
それを見た手下Cと弓持ちは、びっくり顔で口が半開きになった。こっちの3人も一瞬固まったようだが、敵より先に動き出した。ザックが、血を吹く手下Bにトドメを刺す。アドルが手下Cの短剣を持った腕を押さえながら鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。そっちは任せても大丈夫そうだ。
「虚空抜刀術・一ノ太刀」
対人戦闘を想定した技だ。癖で動けるくらいには練習している。
5m以上の距離を越えて弓持ちの目の前に刃先が突き付けられた。さっきからびっくり顔のそいつはさらに混乱して弓を引きかけた力が緩む。オレは虚空から取り出した長さ5m55cmの手製槍に体重をかけて一歩踏み込む。槍先が敵の喉から後頭部まで貫通した。ほぼ同時にエルフが飛ばしたウインドカッターも命中して槍が刺さったままの首が落ちる。
手下Cもアドルとロンセルの2人がかりで瞬殺だったようだ。敵は殲滅した。
あ~、くそ。目に焼き付いた。同じ殺るにしてもスプラッタは見たくなかった。
人間もマップに赤で出たらゴブリンと同じ扱いでよさそうだが..さっきは完全に後れを取った。人間は殺意を隠して近づくからな。対処方法をもっと考えないと。
アドルが感心している。
「驚いたぞ。エドの呪文にあんな使い道があったとはなあ」
「オレも今とっさに思いついたんだよ」
ということにしておく。
「でもこれ、どうするよ?」
「装備をはぎ取ったら転がしとけばいい。翌朝までには獣やゴブリンが片付けてくれる」
「そんな装備欲しくないぞ」
「装備をゴブリンやオークに渡すわけにはいかない」
「なるほど。ギルドへの報告は?」
「一応しとくか。報奨金が出るかもしれないが、それには首がいる..」
「..運びたくないな。そうだ。オレの魔道具を使おう」
スマホをとり出した。
「また出たな。新しい秘密道具」
「だから、ひみつ道具じゃなくて。見てろ。こうやってな、見たまんまの絵を作れるんだ」
ザックめ、秘密道具って言いたいんだろ。どういう道具か見せてやるからな。
ザックの写真を撮った。
「おい、まさかこれ~」
何故かザックの顔が青ざめている
アドルとロンセルは他人事のように感心している。
「これはまた、すごいな。本物そっくりだ」
「絵もすごいが、その道具もなんだか空恐ろしいな。呪術師が使えばさぞかし..」
ザック 「なあ、オレの魂...」
オレ 「んな訳あるか」
魔法がある世界だし、気持ちはわかる。
写真が証拠として認められるかどうかだが、大丈夫な気がする。顔のアップと全身写真。転がった頭は胴体にくっつけて押さえていてもらう。うぷっ、こりゃキツイ。撮影が終わってから真っ青な顔で茂みに駆け込んだ。
オロロロロロ~
女剣士達4人組に礼を言われた。
「ありがとう。助かったよ。本当に危ないところだった」
「ありがとうございます。助かりました」
「「ありがとう。助かりました」」
さすが冒険者。賊をスプラッタした後なのにすでに平常運転だ。自分を襲ってきた連中だし、同情なんて欠片もないのだろう。
「首から血が」
耳長さんがオレの首筋に両手を当てる。顔が近い。
呪文を唱え始めた。
ヒールは一言じゃ発動しないんだな..。とか考えながらオレは彼女の顔に見とれていた。こんなことされたら惚れてしまう。
「はい、治りました」
「ありがとう..」
オレは彼女の両手に自分の手を重ねて礼を言った。
間近で目と目が合って心臓がどきどき鳴っている。
バシッ!
また女剣士にはたかれた。
「またあんたは。いつまで見つめ合ってるつもり?」
「はっ。いや、あんまり綺麗だから..」
「また、そういうこと言う。口説くんなら、ちゃんと口説いて玉砕しなさいよ」
「玉砕前提かよ」
はたかれて現実に引き戻された。間近で見つめ合って、オレの意識は彼女の目に吸い込まれるように夢の彼方だった。もう地球へ帰れなくなってもかまわない。
彼女達4人は、そこら中に散らばるゴブリンの死体から左耳を切り取る作業中だ。実に手際がいい上に、なんかニコニコしてないか。
女剣士「突然現れてびっくりしたけど、美味しいお小遣い稼ぎだったわ」
槍使い「うん。統率の取れてないゴブリンなんて銀貨にしか見えないわね」
エルフ「その通りですねえ。いったいどうしたのかしら?
普段はもっと狡猾な連中なのに」
ザック「ああ、それな。この上にゴブリン砦があるだろ。
そこに俺達がオークの集団をぶつけたんだ」
エルフ「なんとまあ。山が騒がしいと思ったら」
ザック「このタイミングで8人もいれば殲滅もできると思うが..
散ってしまったしな」
エルフ「面倒くさいですわね」
「「面倒ね」」
俺達は一緒に山を下りることになった。
女剣士のエリカちゃんがそわそわしている。ロンセルに気があるのがバレバレだ。
池での腹いせだ。
「ほ~ん、ロンセルなあ。いいヤツだよな」
「なっ、何のことだ?」
「おや?焦ってる?顔が赤いぞ~」
「余計なこと言うな!」
ズドッ!と肘がめり込む。マジ痛い。
「うがっ!痛い、痛い!ちょっと手加減しろ。何でそんなに強いんだよ?」
「お前が弱すぎるんだろ。それでも男か?」
彼女はオレよりは筋肉が付いてるが、それにしてもちょっと強すぎる。これが異世界標準なのか?うちの3人もだが、どうも見た目以上に強い気がする。
「あれか、やっぱり『自分より強い男じゃなきゃダメ』とか思ってるんだろ?」
「そっ、そんな贅沢言わないし」
「は?贅沢、なのかそれ」
エリカちゃんは脳筋気味だ。脳筋女にロンセルをやっていいものか。
「乱暴者にうちのロンセルはやれません!あいつの好みはなあ..」
もう1人がぴくっと反応した。
おおっ、槍使いのケイトもロンセル狙いか。たぶん間違いない。
エリカちゃんが声を潜める。
「好みは、何なんだよ。言いかけたことは最後まで言え」
「う~ん、知らないし」
ズドッ!
「おごっ!」
こんな奴、絶対ロンセルの好みじゃねー。
空が赤くなり、地表は薄暗くなってきた。
オレ達は山の麓の開けた場所まで出ると、夕飯の支度を始めた。