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第9話 防衛戦

書くの、間に合わない……

短い……

「何が起きている! 報告しろ」

 城壁の回廊にあがるなりロアノスはそれぞれの部隊の隊長を集めた。

 城砦のすぐ近くで戦闘が行われているようで矢が空を裂く音が聞こえる。

「偵察隊の報告によりますと、索敵ルート上で武装したジェエラ軍と思われる集団を発見。帰還しようとしたところ別動隊から奇襲を受けた模様

「その偵察部隊は?」

「やむなく交戦しながら砦まで後退しております。武装集団とは現在砦の駐屯部隊が交戦しています」

「敵の規模と所属の確認を急げ。それと、ルノス。第1師団がら極小規模の偵察隊を高原各方面へ放て。駐屯部隊は交戦続行。あくまで引かせることが目的だ。深追いはするな。現場の指揮は任せる。偵察隊以外の協会騎士第1師団は再編成し遊撃隊として動け。以上だ」

 戦場となった高原は闇に包まれている。

 新月ほどの暗闇とはいかなくとも、曇って視界の悪いこの日を狙ってきたのは敵ながらいい判断だ。しかしこちらも備えていないわけではない。

 追加の指示を出そうと振り返ったロアノスに向けて一人の若い騎士が息を切らしつつ駆け寄ってくる。ふと、血の匂いが鼻をついてその姿をまじまじと見つめると彼の騎士装はぼろぼろにやぶれてれていた。

「ロアノス教会騎士団長……!」

「どうかしたのか?」

「私はアーロン城砦駐屯部隊所属のセネルと申します。先ほどまで偵察に出て武装集団と戦闘になった偵察隊の隊長をしています」

「……その様子だと、相当手こずったようだな。なるべく詳細に手短にまとめろ。場合によっては、今のままでは落とされるだろうな」

 背後に控えていたルノスが身じろぐ。

「は。武装集団は『突如として現れた』のです。アロア高原はご存知の通り開けた草原です。いくら月明かりの弱い夜と言えど動くものがあればすぐに発見できます。ですが、我々が敵影を発見してから襲撃されるまで30秒もかかりませんでした。……それも正面から斬りこまれたのです」

「死傷者は?」

「幸い死者はいませんが、現状偵察隊で動けるのは半数ほどかと」

「報告ご苦労。……ルノス! 戦線を後退させ王都へ伝令を走らせろ!」

「後退ですか!?」

「砦ギリギリまで下げて構わん。砦と交戦部隊との間に大きな隙間をつくらせるな。ただし、そこからは絶対に踏み込ませるな。常に周囲を警戒し少しでも異常があればすぐに報告をあげろ」

「は!」

 今の報告で少々戦略を変えねばいけなくなってしまった。

(突如として現れた、か)

 開けた高原でそんなことをしようとすれば穴を掘るか、上空から攻めるしかない。しかしアロア高原の地盤は固く削ることはほぼ不可能。その証拠に背の高い木は根を張れずに育てない。上空から攻めるという手は空が飛べるなら、という夢物語のような話だ。鳥でもなければ無理だろう。

 ロアノスは後退を始めた部隊の様子を見る。

 部隊の横幅も、厚さも十分。数ではジェエラ軍のほうが多いだろうが、これくらいならば押し切られることはない。

 いつも通り、現状得られている情報が正しければ。

「セネル、この城砦には詳しいか?」

「は、はい。多少は……」

「ついてこい」

 要塞内へ移動するとロアノスは要塞の見取り図を机の上に広げる。その横には高原の地図も広げる。

 長い間丸まったままだったのかすぐに元に戻ろうとする四隅を適当な物でおさえると地図がよく見えるように灯りを強める。

「まず最初に、確認だが脱出経路はこの裏門1つのみか?」

「いえ、確かこの地下牢から隠し通路があったはずです。……あ、ですが、どうしてもあかない扉がありまして」

「それについては問題ない。昨夜見つけてある。その地下道は軍人でなくとも安全そうか?」

「以前、外側から扉まで辿ってみたのですが問題なさそうです。高原外れの森林地帯へ通じています」

「アルガデシア側の、あの森か。魔物にさえ気を付ければ退路も十分か。……よし」

 ロアノスは白い槍を持つと部屋を出る。

 慌てて後を追いかけたセネルが彼に追いついたのは厩舎だった。手際よく自分の馬に蔵を取り付けるロアノスを見て、さすがの彼も何をしようとしているのか察した。

 口を開きかけたセネルにロアノスは人差し指を立て口にあてると馬にとび乗る。

「偵察部隊には頼みたいことがある。いいか」




「ロアノス様、戦線の後退及び王都への伝令の……って、あれ」

 地図が広げられた部屋には彼の姿はない。

 代わりにいるのは偵察隊の隊長と名乗っていた男だ。セネルは気まずそうな顔でルノスに向き合う。

「……まさかとは思いますけど」

「……すみません、ルノスさん」

 セネルが頭を下げるのと同時に戦場から歓声が聞こえてきた。




「この場にいる教会騎士団第1部隊は私に続け! 一気に押し戻すぞ!」

 脚のみで器用に馬を操りロアノスは右手に持った槍を掲げる。

「おおぉぉぉ!」

 暗闇で視界は悪いがそれは敵も同じだ。これまで侵入を許したことのない自陣深くまで入れてしまえば地の利は完全にこちらのモノ。駐屯隊ともなればくぼみや微かな段差さえ覚えている人員がいてもおかしくはない。

 何より支援がしやすい。

(だが……)

 敵の勢いはそれだというのに衰えない。

 微かな違和感だがソレが命取りとなることもある。

 先陣を切りながら、暗闇に目を凝らす。

「…………」

 そこそこの規模のはずなのだが戦闘の音は聞こえるが、姿は見えない。

 わざわざ窪地から攻め入ってきた理由はなんだというのだろうか。こちらの弓兵が有利にはたらくだけだというのに。

 胸騒ぎがした。

 だからこそルノスとの約束を破って前線へ出てきた。

(何もなければいいのだが……)

「このまま敵陣横に突撃する! 何度も言うが深追いはするな!」



 ルノスは馬にまたがり城砦を飛び出す。

(どうして、自ら……!)

 戦況が悪くなれば言っても聞かないだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く出るとは。戦況も悪くはない。押し返すのも時間の問題だろう。

「ああ、もう……!」

 セネルから渡されたロアノスからの伝言は索敵部隊の報告によって行動を変えろというものだった。それまでは何があってもその場でとどまれという命令だったが、つい先ほどその索敵部隊から報告が上がってきたのだ。

 その報告から取るべき行動はロアノスへ伝えに走ること。

 そして城砦内に残る騎士団所属の戦闘員以外を後方へ退避させること。

「ロアノス様……!」

 剣を抜き放ち、ルノスは戦場を駆けた。




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