壱
リビングに入ると、父【彩榎】がコーヒーを淹れている所だった。
「あぁ、そうぞ。座って座って」
父に促されながらも、二人は新しい椅子に腰を下ろした。
僕はというと冷蔵庫に直行し、某エナジードリンクを取り出す。中学生の後半くらいだっただろうか、これを初めて飲んだあの日からこれがないと困ってしまうような体になった。.......つまるところカフェイン中毒じゃないかと思ったそこの君。それは気にしてはいけないお約束だ。
「ほら、優希もこっちにおいで」
父の声に意識が引っ張られる。ハッと顔を上げると、僕は慌てて皆が座っている場所へ向かった。
「ふふ、それじゃあ自己紹介でもしましょうか?」
自己紹介、と口の中で呟いてみる。自己紹介と言われても何を話せばいいのか分からない。
「改めて、五月雨菖蒲です。今日から宇都宮になりますね、どうぞよろしくお願いします」
にこりと微笑んだ菖蒲さん。僕はこの人を「お母さん」と呼べる日が来るのだろうか。
「史湊、自己紹介できる?」
「五月雨史湊です、よろしくお願いします」
そう言って彼女は口を閉ざしてしまった。おや、彼女は人見知りなのだろうか。
「ごめんなさいね、この子こういう時があるのよ」
「全然良いんですよ。俺は宇都宮彩榎といいます、良き父になれるようにがんばりますね」
にっこりと笑った父を横目に僕は深呼吸をした。
「宇都宮優希です、よろしくお願いします」
.......なんか、僕も史湊さんと同じ感じになっちゃった。
「姉上」
自室に戻る途中、後ろからのそんな呼びかけに足が止まった。
姉上、姉上........あぁ。
「どうしたの?」
振り向くとそこには史湊さ....いや、史湊ちゃんが立っていた。
そして彼女は、こう言った。
「姉上、隠し事あるでしょう」




