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舞踏会(1)

 背中から暖かいものが流れていくのを感じる。

 周囲の悲鳴や怒号が、耳にこびりつく。しかし、今の私は驚くほど冷静で、死へ向かっていっていることも受け入れていた。

 ただ、思う。私の人生って一体何だったのだろう。

 そうこう考えている間にも、私の体の中にあった大量の血液が、どんどんと外に流れ続けていた。

 こうして、夜の仕事の客に逆恨みをされた結果、包丁で刺された私の短き人生は終わりを告げた。


 温かな光を感じる。私は死んだから、ここは死後の世界なのかな。良いことも悪いこともしなかった人生だったけど、行けるんだったら天国がいいな。

 ん?ちょっと光が強いかも。

 私は、目を見開いた。知らない天井を見つめる。

 天国に来る時ってこんな感じなんだ。閻魔様のところで、生前の行いによって天国か地獄を決められるとかあるのかと身構えてたから、何か拍子抜けした。でも、地獄ではなさそうなので安心した。

 しばらく動かずにいた。すると、足音が聞こえてきた。もしかして、ここは待合室だった?この後、天国か地獄の最後の審判的なことをするのかな。

 そんなことを漠然と考えていたら、扉を開ける音がした。首だけを動かす。

 見上げた私と目が合ったのは、西洋風の整った男性の困り顔だった。天界もグローバル化が進んでるみたいだ。

「誰だ?君は」

 男性からの問いかけは、予想外のものだった。

「は?あんたこそ誰?」

 男性の顔が、段々と怪訝なものに変わっていった。

「領地では見かけない顔だな。どこの者だ」

 全然状況が掴めない。

「ここって死後の世界じゃないの?」

「何を言っているのだ。ここは、ザイテ帝国のファングだ」

 聞いたことのない国名と地名だ。現状が全く理解出来ず、脳がショート寸前だった。

「知らないそんな国」

「え?」

 私を見下ろしている彼は、心底驚いた表情をしていた。このままだと危ない予感がしてきた。

「実は何も覚えていないの」

 記憶喪失だということに切り替えた私は、目を潤ませ媚びた目線を送る。

「そうだったのか。驚かせてしまいすまなかったな」

 私の媚びた目線に照れたのか、彼は目を逸らした。しばしの沈黙が、私と彼の間に流れる。

「トビアス、客人がもういらっしゃいますよ」

 朗らかで柔らかい声に、彼は振り向いた。

「母上すみません。今すぐ向かいます」

「話し声が聞こえて来たのですが、誰かとお話していたのですか?」

 そう言って扉の右側から出て来た綺麗なドレスを纏った美しい貴婦人は、彼の母親らしい。

「まぁ!この可愛らしいお嬢さんはどこの御令嬢なの?」

「母上、この方はどうやら今までの記憶がないらしいです」

「そうなんですか?」

 彼の母親の問いに、小さく頷く。そして、彼女は私に近づき、私の手をとった。

「それは、不安でしょう。落ち着くまでここにいたらいいわ」

「ありがとうございます」

 彼女の手の温かさが、伝わってくる。

「そうだわ。これから舞踏会があるのだけど、良かったらあなたも参加しない?」

「舞踏会?」

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