ドブリンたちのザーグ戦術3
とりあえず、アロッホとエトルアはカエル部屋の外まで下がった。
『ガウ、ガゥ……』
ドラゴン状態のエトルアは力尽きたように転がった。
赤かった皮膚の色が紫色に変わっている。
変色の範囲は、矢が刺さった部分が特にひどいように見えた。
毒矢だ。
「毒消し、人間用のしかないんだけど、どうする?」
『ギィィィッ』
エトルアは不満そうな声を上げる。
話が違うとでも言っているのか。
しかし、ドラゴン用の毒消しなど用意してあるはずもない。
「もしかして、人間状態になれば、効果があるんじゃないか?」
『ギィ、アゥゥゥ』
エトルアは何か身振りで示そうとしている。
体に刺さった矢を示しているように見えた。
「この矢を抜けばいいのか?」
『ガァァ』
それでいいらしい。
たぶん、矢を抜かないと人間形態に戻った時に不都合があるのだろう。
「今抜くから、動くなよ」
アロッホは、矢を一本ずつ丁寧に抜いていく。
矢の先端は尖った石でつくられた簡単な物だ。
反しがなかったので、引っ張ればすぐ抜けた。
矢を全て抜いたから少し離れると、エトルアの体が光り、人間形態に戻った。
真っ青な顔でガタガタ震えている。
「ううううぅ、もうやだぁ……。頭が痛いし、寒いし、死ぬ……きっと私はこのまま死ぬのよ……」
「ほら、早く毒消しを飲んで」
毒消しのビンを手渡すと、エトルアは震える手でふたを開けて、一気に飲み干した。
そしてせき込む。
「ううう……気持ち悪いのが治らないわ……この毒消し、本当に効果あるの?」
「一時間もすれば毒は中和されるはずだ」
「い、一時間立つ前に、私が死んでたりしない?」
「死なないように頑張れ。とりあえず駅長室まで戻るぞ」
アロッホはエトルアを抱え上げると、駅長室まで連れ帰った。
部屋の隅に寝かせておこうとしたのだが、毛布で包んでいると、エトルアはじたばた暴れだす。
「ドブリン達が何をしているか、見ないと……」
「あとは俺が何とかするから、大人しく寝ていろ」
「ここは、私のダンジョンだもの……私が、守らなきゃ……」
エトルアが必死にそう言うので、アロッホはエトルアを抱えてダンジョン端末の所まで連れて行ってやる。
エトルアが端末を操作すると、カエルの部屋の様子が天井に映し出された。
桟橋は殆ど燃え尽きて、火も消えていた。
水の中に入らずに部屋を通過することはできない。
ではドブリンたちはどう動くのか。
答えは丸太だった。
長さ数メートルはあろうと思われる丸太が何十本も。次々に水の中に放り込まれている。
上の森の木を、切り倒して運び込んでいるようだ。
「あ、あれは何をしたいのかしら? 橋を作る気なの?」
「いや、それには丸太の数が足りないんじゃないか? ロープのような物も用意してないみたいだし……」
見ているとすぐに分かった。
ドブリンたちは丸太の上をぴょんぴょんと渡り、一番こちら側まで近い丸太の上にたどり着くと、水の中に入り、その丸太を押すように泳ぎ始めた。
「なるほど。丸太をつかんで泳いでくる気なのか……」
これなら、泳げないドブリンも溺れたりしない……のだろうか?
丸太一本につき、二十匹ぐらいのドブリンが押し合いへし合いしながら、こちらに近づいてくる。
後続も次々と……いや、進もうとしたドブリンたちが、後ろから放り込まれた丸太に押しつぶされるように水面下に消えた。
ドブリンたちは完璧な連携が取れているわけではない。つまらない失敗で自滅する事も多そうだ。
それでも、かなりの数のドブリンが、こちら側までたどり着いてしまうだろう。
「俺が行くよ」
アロッホは立ち上がる。エトルアが慌ててズボンの裾をつかんでくる。
「一人じゃ危ないわ、私も……」
「大丈夫だから、ここで見ていろ」
「でも……」
「あの数のドブリンたちを一度に全滅させる作戦があるんだ。どうして水場で戦う事を選んだのか、すぐに理解できるさ」
「う……あなたがそういうなら、信じるわ」
正直に言えば、この手だけは使いたくなかったのだが、仕方ない。
アロッホは一人、カエルの部屋まで戻る。
ドブリンたちは、丸太を押して泳ぎながら続々とこちらに近づいていた。
そのドブリンたちの、一番こちら側まで近づいているグループに狙いをつける。
メカアームの左腕から弾丸を撃ち出して、頭を狙撃していく。
『アガッ』『ギボッ?』『ウギッ……』
それぞれ悲鳴を残して水に沈んでいくドブリン達。
水面には丸太だけが残った。
後からやって来たドブリン達は、浮いている丸太にぶつかる。
二本の丸太を押すことになれば速度は半分になる。さらに後ろから来るドブリンたちが追いついてしまう。
渋滞の発生だ。
それでも、ドブリンたちは懸命に前に進み、こちらのすぐ近くまで来る。
その必死な生き様には、種族の違いを超えて哀れみすら感じる。
だが、やらなければ殺されるのはアロッホの方だ。ここで手を抜いてはいけない。
アロッホはヴォルトクラッカーを投げた。
一億ボルトの高電圧がさく裂した。
水は電流を通す。
水中で放出された電流は、周囲五十メートルを泳いでいたドブリンたちに無慈悲に襲い掛かった。
『アババババババババババババ!』
ドブリンたちは感電して、気を失った。
水で広範囲に広がったせいで、ダメージはそれほどでもなかったかもしれない。
だが、丸太をつかんで泳いでいる最中に意識を失ったら、どうなるか。
ドブリンたちが水に沈んでいく。
ほんの一瞬で六百を超えるドブリンが命を失った。
水面に残ったのは、数十本の丸太だけだ。
アロッホは向こう岸を見た。
まだ部屋の外には数百のドブリンが残っているようだが、流石にもう一度攻めてくる気はないようだ。
『ロスゥ……イツカァ……ロスゥ……』
何か恨みがましい鳴き声を上げて、去っていった。
ここで帰ってくれてよかった。
「ヴォルトクラッカー、あと二つしかないんだよな……」
錬金爆弾がなくなったら、あの大軍を押し返すことはできない。
早急に、調合機材を入手しなければならない。アロッホはそう思った。
ダンジョンで水を有効活用するのは、攻めも守りもだいたいヤバい気がする
しかも自然現象なので絶対ナーフされない
みんなもダンジョンで戦う時は、どんどん悪用しよう!
・キルスコア
アロッホ 800
エトルア 120
カエル 20
ナメクジ 3
丸太運搬中の事故死 170
・被害
ナメクジ×300
カエル×1
桟橋
獲得称号《ドブリンの怨念》
取得条件:ダンジョン内で千体のドブリンが死亡する
称号効果:墓地のリストにドブリンゾンビが追加される
(※墓地は未設置です)




