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結末、あるいは無意味な足の引っ張り合い


そういうわけで、狩猟村へとやって来た一団との戦いに不安はなかった。


全ての準備は終わっている。

ただ決められた手順通りにこなせば終わる作業。

不殺を貫くほどの余裕すらあった。


闇夜に乗じて狩猟村に接近。

フェアリーペスト・ゾンビを大量に飛ばせて注意を引き付け、二手に分かれる。


最初にアロッホが森の中から閃光弾を投げて錬金術師を気絶させる。

直後にウィノーラが反対側から突入して宮廷魔術師を無力化。

そして最後に睡眠ガスだ。


ガス系の攻撃を受けた魔術師は、反射的にヴェンチレイトを発動する。

これは、自分の周囲の空気と、少し離れた場所にある空気を入れ替える事で、毒ガスから逃れる魔術だ。

その効果は換気であり、毒の無効化ではない。


それなら、入れ替える先の空気にも、あらかじめガスを散布しておいたらどうなるか。

魔術を発動した後、換気されて安全になったと思って、ガスを大量に吸い込んでしまうことになるだろう。


アロッホは、事前にかなりの広範囲に睡眠ガスを散布しておいた。

もちろん、アロッホやウィノーラは防毒マスク付きの仮面を装着しているので、ガスの影響を受けない。


全員が倒れてから一分ほど待って、アロッホは姿を現す。


「問題ない、か?」

「みんな寝ちゃってる。後は、これを持っていくだけね」


ウィノーラは、船から下ろされた毒ガスの材料を指さす。

睡眠ガスが風で流れるのを待って、エトルアとドブリンゾンビが来る事になっている。


と、倒れていた人影の中で、一人起き上がる者がいた。


「おい! おまえ、アロッホだろ!」


アストンが立ち上がっていた。

口や鼻のあたりをマスクのような物で覆っている。


毒ガスを撒くために来たのだから、防毒マスクを用意していてもおかしくない。

そういう事態を想定して、最初に閃光弾を使ったのだが、詰めが甘かったようだ。


「アロッホなんて知らないな」


とりあえず嘘をついてみたが、声でバレるのは確実だ。

それに、メルワーレが目を覚まして答え合わせされたら、意味がない。


「誤魔化すのはやめろ! みんなが起きてくる前に話すんだ」

「わかった、認めるよ。俺はアロッホだ。……それで、話すって何を」

「アロッホ……どうして俺たちを襲ったんだ?」


アロッホは答えず、黙っていた。

ウィノーラは他にも起きてくる人がいないか、警戒している。


「聞いてくれ。おまえが王都を追い出された時、俺は何もできなかった……いや、何もしなかったんだ」


それが正解だ。

何かしたら貴族の怒りを買っていただろう。

そのことを恨むつもりはない。


「だからせめて、おまえが生きている事を誰かに教えるつもりはない。おまえが生き延びるために、誰かとどんな取引をしたとしても、それを責めたりはしない」

「……」

「最初は、この樹海が何かの組織の縄張りになっているのではないかと思った。それで排除されるというのなら、まあわかる……、だが、違うんだな? おまえの目的は俺たちの荷物だ、そうなんだろ?」

「荷物を渡すわけにはいかないと?」

「そうだ」

「じゃあどうするんだ? 俺の目の前で燃やすのか?」


アロッホが挑発すると、アストンは首を振る。


「知っているかもしれないが、俺達はキメラアントと戦うためにここに来ている」

「ああ」

「キメラアントを殺す作戦が失敗すれば、大勢の人が死ぬんだ。この毒ガスはそのために必要な物なんだ!」

「知ってるよ」

「それでも、荷物を奪うのか? おまえ、自分が何をしているのかわかってるのか?」

「……」


わかっているつもりだった。


「キメラアントを倒せなければ、王都は滅ぶぞ! 人だってたくさん死ぬ……貴族だけじゃない、むしろ貴族は逃げ出していて、取り残された平民ばかりが死ぬ……」

「ああ」

「ほら、思い出せよ。毎日行ったパン屋、金がない時に古い菜っ葉をくれた八百屋、顔を合わせるたびに愚痴っていた大家、いつも怪しい物ばっかり仕入れてきた薬屋、それから、それから……、みんな死ぬかも知れないんだぞ! 本当にわかってるのか?」

「……わかってるよ」


アストンの言っている事は、まあ、だいたい正しい。

アロッホも、今の計画を放棄しようかと考えそうになる程度には、気後れしていた。

だが、計画を放棄して代わりにどうすればいいのか、というアイディアが、何一つ浮かばない。


「……そもそも意味がないとしたら?」

「は? 何を言っている?」

「巣穴の正確な数、知らないんだろ?」


アロッホの指摘に、アストンは苦々しい顔になる。


「樹海の中の巣穴を全て塞ぐことは無理だろうと言われている。だが、そもそも穴はいくつあるかわからないんだ。もしかしたら二つかも知れない。それなら、予定通りにやれば全部塞いだことになる……」

「俺が言ってるのは、そういう事じゃない」

「じゃあなんなんだ!」

「悪いけど、説明はできない」


むしろ、本当に樹海の中の巣穴の出口が二か所だったら、それこそおしまいだ。


巣穴に毒ガスを流し込めば、全てのキメラアントはエトルアのダンジョンに流れ込む。

そしてダンジョンは壊滅する。

その先に待っているのは何か。

キメラアントは、ダンジョンの中を新しい巣にして繁殖を続け、やがて、ダンジョンの出口から出て行く。


国を横断する長いトンネルの全てがキメラアントの攻撃拠点になりうる。

もう毒ガスも効果がないだろう。

エトルアのダンジョンはかなり広い。

その全てを毒ガスで充満させられるわけがない。


人間の領域を守る気があるなら、最優先で塞がなければいけないのが、ダンジョンに空いた穴だ。

大局的な視点で見れば、それが正しい事がわかるだろう。


だが、その情報をアストンに説明する気はなかったし、わかって欲しいとも思わなかった。

無意味だ。


なんでダンジョンドラゴンがダンジョンを拡張していくのを放置していたんだと指摘されたら、返す言葉がない。


そもそも、ダンジョンドラゴンを前に気の迷いを起こした時点で、この結末は決まっていた。

あるいは、アロッホが魔神のコアを貸したりせず、エトルアが一人でダンジョンを作っていたら、別の展開もあったかもしれない。


アロッホがすべて悪いと言われたら、反論のしようがない。


だが、その一方でエトルアのダンジョンがなかったらどうか。

メルワーレ達は森の中で死に、王都に報告は届かない。

対応が遅れキメラアントとの戦いには負けてしまうだろう。


結局、どのルートを通ったとしても、王都は滅ぶ。

それがアロッホの結論だった。


これは数十年前にキメラアントの絶滅宣言を出した者達の過ちとも言える。

生き残りがいるかもしれないと、真剣に探すべきだった。


アロッホは静かに首を振る。


「人間は、負けたんだよ」

「負けた? 何にだ? おまえにか?」

「自分達の愚かさにだ」

「意味がわからない」

「それが負けたって事だよ」


アロッホの知るアストンは、どんな時だってアロッホより優秀だった。

フェアリー・ペストをおびき寄せる薬を開発したのもアストンだ。

そういう意味では感謝しているし、尊敬している。


けれど、たぶん、アストンは次の時代にはついてこれない。


実力を無視し始めた宮廷魔術師の制度。

ただ権力を得るために権力を振るう貴族。

その貴族の横暴な振舞いに甘んじている平民。


そういう非合理的な物を、当たり前とか仕方ないとか言って受け入れてしまったら、人間は生き物として終わりだ。



アロッホは後ろ手でウィノーラに合図した。

ウィノーラが何か呪文を唱え、アストンは感電して失神した。


ウィノーラが近づいてきて、倒れたアストンをつつく。


「どうするの? 友達だったんじゃないの?」

「予定通りにしよう。遅かれ早かれ俺がここにいるのはバレるんだ」


最初にエトルアと手を組んだ時から、いつかこうなる事は覚悟していた。


「そうだね。私も、実家に死亡届を出しといてもらわないと。キメラアントのせいで死んだとか、そんな感じで」


そう言ってウィノーラは苦笑する。


アロッホは上を見た。

木々の間から星が見える。


風が吹いてがさがさと木が揺れた。

睡眠ガスが散っていく。


エトルアが、ドブリンゾンビの一団を引き連れて近づいてくるのが見えた。


「さあ、ダンジョンに帰ろう」



初期のプロットをだいたい消化したので、ここで完結とさせていただきます

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました



小説家になろうのアカウントを作って、作者をお気に入りユーザーに登録しましょう!

新作の投稿を見逃さなくなりますよ!!


またね!


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