表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/76

トンネル、前編


「籠城、した方がいいのかしら」


オートミール駅の駅長室で、エトルアが思案気に言う。


「ダメ、それは悪手」


ウィノーラが即座に反論した。


「支援が来ない状況で籠城しても、事態は改善しない」

「ならどうするの?」

「今は敵の情報が足りない。偵察を出した方がいいと思う」

「偵察ね……誰が見に行くの?」


長いトンネルを歩いて、直接見に行かなければいけないとしたら、往復で時間がかかりすぎる。

しかも、最悪の場合、偵察役がやられてしまい、留守番役がいつまでも帰ってこない偵察役を待ち続けることになる。


「ここから魔術で探れないのか?」

「綺麗な水と、これぐらいの洗面器があれば……でも、トンネルが長すぎる。ある程度近づかないと様子を見れないと思う」


四人の中で、最大戦力のウィノーラを一人で敵の方に行かせるのはいい判断とは思えない。


「今、戦闘力を分断するのは危険だと思うんだが」


戦闘は、敵戦力を分断して各個撃破するのが基本だ。

わざわざ自分から二手に分かれて、敵の仕事を減らしてあげる必要はない。

動くなら全員で動くべきだ。


だが、それだとカルナを連れて行くのも、置いていくのも悪手になりえる。

今大事なのは、事態の収拾よりも、全員の生存だ。


「俺は、全員で強行突破するのがいいと思う」


アロッホが言うと、エトルアはカルナの方をちらっと見た後、ため息をつく。


「それしかないわね。ちょっと待ってなさい。ここからでもドブリンに指示を出せると思うわ」

「どんな指示を出すんだ?」

「敵の移動先を予測して、そこに防衛ラインを構築するわ」


リアルタイムに支持を出せない状況なら、それしかない


「とりあえず、ブラックフォレスト駅にいたヘビとドブリンゾンビの殆どを、ホーム付近まで降りさせたる。これで、よほどの事がない限り、ブラックフォレスト駅に下から侵入される事はないはずよ」

「それ以降の駅は?」

「ライフレーク駅は水浸しだから、相手も好き勝手出来ないでしょう。カースケイク駅は魔物がいないから放置……デストルパー駅にはカマキリをホームに配置。そこより先まで進める敵がいるとは思えないわ」

「なるほど」

「完璧な布陣ね」


正直に言えば、アロッホは巨大カマキリを信用していなかった。

あれは詰が甘くて、肝心なところで失敗しそうな気がする。

だが、それは今は言わないことにする。



アロッホ達はオートミール駅のホームまで降り、地下鉄に乗り込む。

だが地下鉄が動き出さない。


「何してるの? 早く行くのよ!」


エトルアが叫ぶと、ナメクジ車掌がノソノソと這い出して来る。


『……ムリィ?』

「わかってるわよ。それでも出して! 行ける所まで行くの」

『ホンキィ?』

「本気よ!」

『ムゥ……』


車掌はノソノソと去っていき、やがて地下鉄は動き出した。


30分ほど走った頃、地下鉄が速度を落とし、やがて止まった。

ナメクジ車掌が申し訳なさそうに出てくる。


「どうしたの?」

『ココマデェ……』

「そう……仕方ないわね。」


ウィノーラが、床に洗面器を置いて水を満たし、魔術を発動する。

車両の前方にある扉を開けて、そこから魔術の鳥が飛んでいった。


鳥が見た物が、洗面器の水面に映るらしい。

全員で洗面器を覗く。


暗くてよく見えないが……もう少し進んだところに、何か大きな生き物がいるらしい。


『いぐら、みぐら、そふな、はふな』


節をつけるような奇妙な呪文、そして何かが光ったと思ったら、水面に何も映らなくなった。

ウィノーラが首を振る。


「ダメみたい、撃ち落とされた」

「嘘でしょ……あいつら、絶滅したんじゃなかったの、なんで? なんでこんな所に……」


エトルアはその場に崩れ落ちる。

一方、アロッホとカルナは困惑しか感じなかった。


「今のはなんだったんだ? 昆虫系の魔物だったみたいだけど」

「あんなのじゃ何もわかりませんよ」

「キメラアントよ……」


エトルアが、自分の体を両腕で抱きしめながら言う。

カタカタと震えていた。


「しっかりしてください……そんな強い相手なんですか?」

「私と同じく、地下にダンジョンを構築するタイプの魔物よ。過去には何度も縄張り争いを繰り返したわ。宿敵と言ってもいい……」

「今すぐに、強行突破した方がいいと思う」


ウィノーラが言う。


「今ので、敵も動き始めたはず。増援が来る前に突破しないと、ここに閉じ込められる」

「そうね。私もそう思うわ。やらないと……」


エトルアはふらふらと立ち上がり、服を脱ぎ始めた。


「たぶん、ドラゴンの姿に戻る必要があるわ。カルナ。これはあなたが持ってて」

「は、はい」


カルナはエトルアの服を受け取って、丁寧にたたんで抱える。


「アロッホ。魔力ブースターは持ってる?」

「ああ。使うか?」

「まだいい……一回戦ってから」


車両の先頭の扉から、エトルアが真っ先にトンネルに降りる。


「ちょっと高いから気を付けて……、あと、そこの端の方、電気が流れてるみたいだから近づかない方がいいわよ」


アロッホは割れ物も含んでいる荷物を置いて先に降りた。

カルナが降りるのをアロッホが下で受け止める。

その後、荷物をウィノーラに渡してもらう。

最後にウィノーラが軽々飛び降りた。


エトルアは、ナメクジ車掌に言う。


「無理を言って悪かったわね。車両はオートミール駅まで戻しておいて」


戻っていく地下鉄を見送ってから、四人はトンネルの先を見る。


「さてと……行きましょうか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ