トンネル、後編
トンネルの中は、ダンジョンのほかの部分と違って、明かりが少なく薄暗い。
照明の数がまばらで、歩いていると影ができる。
十分ほど歩いた所で、先頭を行くエトルアが足を止めた。
「来たわ……」
暗闇の中から姿を現したのは、巨大なアリだった。
数は三体。
胴体の上に馬の頭のような物がくっついていて、大きな目がグルグル回っている。
『来たぞ来たぞ』
『やはりダンジョンドラゴンか』
『人間もいるぞ』
喋っているのはアリの上に乗っている馬の頭だ。
「魔物が喋った?」
アロッホは驚く。
ある意味エトルアも魔物と言えば魔物なのだが……そういうのとは種類が違う気がする。
「気を付けて、こいつら知能が高いわよ」
『何を気を付けるのかね?』
『恭順の意を示す事を忘れないようにかね?』
『命乞いの言葉を用意することをかね?』
三体の巨大アリが交互に喋る。
「随分挑発的ね。人のダンジョンに土足で踏み込んでおいて、」
『我々が巣穴を掘った先に、君のダンジョンあったのだろう』
『むしろ建設計画を邪魔されたのはこちらと言える』
『ダンジョンドラゴンの建設は、行き当たりばったりだからな』
「黙りなさい。巣穴ななんだから、そこまで深く掘る必要はないでしょ」
『それはお互い様では?』
『むしろ、一般的なダンジョンドラゴンの巣穴は、ここまで広くなかったはず』
『随分と無意味に広げているようじゃないか』
まあ、国を横断する規模の地下トンネルを作るのは、一匹の魔物がやっていい規模の建設ではないと言われれば、その通りかもしれないが。
「先に来たのは私よ。邪魔するのはやめて、他の所を掘りなさい」
『断る。これは生存競争だ』
『小さき者よ、本来の姿を現すがよい』
『偽りの姿のまま死にたくはなかろう』
「ふん、三匹程度でこの私に勝てると思わない方がいいわよ!」
エトルアの体の周りを無数の魔法陣が飛び回り……
「ペネトレイト・バレット」
ウィノーラが一呼吸で三発の魔弾を放ち、巨大アリの馬頭を吹き飛ばした。
エトルアは変身をやめて、ウィノーラに詰め寄る。
「何すんのよ! こいつらは私が……」
「挑発に乗らないで……。こいつら、元の姿に戻る隙を突いて攻撃しようとしてた」
「くっ……どっちにしろ、すぐに次のが来るわ、行くわよ!」
エトルアは改めて変身し、ドラゴンの姿に戻る。
そのエトルアを先頭にアロッホ達はトンネルを進む。
少し進むと、大量のアリたちが出て来た。
『ガァッ』
エトルアが炎を吐くと、先頭の数匹が炎上するが、巨大アリたちはひるむことなく突撃してくる。
『ようぐ、さむぐ、はすら、ほすら』
馬の頭が呪文を唱え始める。
「トライアングル・カルテッド」
ウィノーラが魔力の三角形をブーメランのように飛ばし、アロッホは後衛に向かってヴォルトクラッカーを投げつけて麻痺させる。
『ガウガァ!』
エトルアが叫び、そのまま敵の真ん中へ突っ込んで行く。
「ちょっ、本当にこのまま進むんですか?」
アロッホは、戸惑っているカルナの手を引いて走る。
ウィノーラが近づいてくるアリを叩きのめす。
まだ生きている巨大アリを後方に残しながらの前進だ。
突破に失敗したら、囲まれてその場で圧殺されるだろう。
『ガアラグ! アグガ!』
エトルアが何事か叫ぶ。
警告を発したように聞こえた。
「何? 異常は見えないけど……」
ウィノーラが言いかけ、立ち止まった。
巨大アリが下から這い出して来る。
暗くて見えづらかったが、床に大穴が開いていた。
穴というよりは亀裂、それも数メートルの幅がある。
トンネルの床が、こちらと向こうで分断されてしまっていた。
亀裂の向こう側にもアリが何匹かいて、エトルアはそれと戦っている。
ウィノーラは空中に十数発の炎の弾を生み出し、それを全て亀裂の下に放り込んだ。
爆炎が上がり熱風が吹きあがってくる。
「……アロッホ、魔力ブースター出して」
「ほら!」
魔力ブースターをウィノーラに渡し、後ろから追って来た巨大アリの群れにヘルフロストを投げ込んだ。
相手は昆虫。
爬虫類以上に寒さに弱い。
魔力ブースターを飲み終わったウィノーラがアロッホとカルナの腕を掴む。
「グラビティー・コントロール!」
三人は空中に浮かびあがり、亀裂の上を超えた。
亀裂を超えて着地した所で、ウィノーラは二人を離し、いくつもの魔術弾を放つ。
「ペネトレイト・バレット」
狙った先は巨大アリではなく天井。
何発も何発も、弾丸を打ち込んでいく。
「ウィノーラ? 何してるんだ?」
「大技を出すから時間を稼いで、二十秒!」
「無茶な……」
亀裂の下から何かの呪文が聞こえる。
炎を超えて巨大アリが這い出して来る。
ヴォルトクラッカーを放り込んだ。
感電した巨大アリがズルズルと下に滑り落ちていくが、また昇ってくるのは時間の問題だろう。
「グラウンド・コラプス」
ウィノーラの魔術が発動すると、トンネルがギシギシと揺れ始めた。
床の亀裂が壁や天井にまで伸びて、砂ぼこりが降ってくる。
数秒後にはついに天井が崩れ、大量の土砂が亀裂を塞いだ。
『アガグ! ガグガアアガグア!』
エトルアが何か吠えている。
たぶん、ウィノーラがトンネルを崩したことに対して怒っているのだと思うが。
「仕方ないだろ……入り口を塞がないと無限に湧き出して来るぞ」
アロッホが言うと、エトルアは黙ったが、どこか不満げだった。
攻撃するのは……月!




