オートミール駅
デストロパー駅に散らばるおよそ五万匹のドブリンの死体。
その片づけにはかなり時間がかかった。
いつまでも終わらない死体運びと墓穴掘りに、アロッホ達は絶望しかかったが、一ヶ月以上かけて、どうにか終わらせた。
死体が片付けばアップキープだ。
十分な魔力が溜まっていたのか、数日おきに立て続けにアップキープが来た。
一つ目の駅、カースケイク駅
殆ど魔物がいない、機械的トラップばかりが並ぶ奇妙なダンジョンだった。
地上に出ると、がけ崩れしたよな池の近くだった。
「たぶん、ここはリスロートの練兵場跡だと思うんだけど」
ウィノーラはやや警戒するような風で言う。
「知ってるのか?」
「私の実家の隣の領地……」
「……」
昔の知り合いにあうと面倒なのであまり外に出歩かない方がいいだろうという結論になった。
二つ目の駅、ライフレーク駅
ダンジョンのほぼ全域が水没しているダンジョンだった。
カエル系の魔物が大量にいたほか、魚のような魔物も多かった。
ダンジョン内が水没しているせいで、足止めを食らった。
いろいろ考えた結果、イカダをつくって突破した。
地上部はグレイド湖の畔にある森の中だった。
グラナード市という大き目の都市が近くにある。
「ベルナス市で買い物しづらくなったから、代わりにいいんじゃないかな」
アロッホが言うとエトルアが首をかしげる。
「それはいいけど、外で買って来なきゃいけないような物って何かあったかしら?」
「ないですよね」
カルナも同意する。
最近はダンジョン内でなんでも自給自足できる感じになりつつある。
緊急で大量の錬金をする必要が生じない限り、買い物に出るような事もないだろう。
三つ目の駅、ブラックフォレスト駅
ほぼ全ての部屋が森になっている駅だった。
虫系の魔物が多く、ナメクジにすら変な毛が生えている。
地上部はベリアート樹海の中にあった。
「緑の葉っぱ、茶色の樹皮、そして白いダンジョン出入り口」
エトルアが節をつけて歌うように言う。
「……急にどうした」
「色が目立つんじゃないかと思ったのよ。戦力が整ってきたとは言え、まだ人間には見つからない方がいいわ」
バリアス平原のは既に見つかってるけどいいのか、とアロッホは思った。
まあ、出入り口が複数ある事が発覚するのは、遅ければ遅い方がいいのも確かだ。
「あの、すぐ生えてくる植物を植えておけば目隠しにはなると思うんですけど」
「こんな所にまで、人はこないんじゃない?」
カルナとウィノーラがそう言い、アロッホは用意しておく事にした。
ここまでは、まだよかった。
四つ目の駅が問題だった。
四つ目の駅、オートミール駅。
いくつかの部屋には、床一面にローラーが敷き詰められていた。
たぶん、敵が踏み込むと回転して巻き込まれる仕掛けだろう。
「段々エグくなってくる気がするな……」
アロッホが言うとエトルアも頷く。
「そうね、きっと人間との戦いも近いのよ」
「人間との戦いか……」
出来ればずっと先延ばししておきたかった問題だが、そろそろ向き合わなければならないだろう。
地図上では、確実に王都へと近づいてきている。
先のブラックフォレスト駅があるべリアート樹海は、王都から歩いて一日かからない距離。
この駅の地上部が、王都の直ぐ近くだったとしても不思議ではない。
ある程度、心の準備をしてダンジョン内を歩いたが、入り口の階段は見つからず、先に駅長室にたどり着いた。
「ここは、随分頑丈な扉ね」
金庫室か何かを思わせる堅牢な扉を抜けると、そこが駅長室だった。
部屋の奥には豪華な台座がある。
エトルアは嬉しそうに台座に上ると、ダンジョン端末を起動して入口の場所を調べ始めた。
「……玉座?」
ウィノーラが不思議そうに呟く。
台座は、チキンカリー駅にエトルアが作った物に似ている気もするが、それより洗練されているようにも思える。
それに装飾の感じが錬金術師協会の会長室に似ているような気もした。
いや、ダンジョンが錬金術師協会の装飾を真似る理由がない。
もしかすると、王宮だろうか。
だが、そうだとしたら、このダンジョンの真上にあるのは……
アロッホが何か思いつきかけた時、エトルアが言う。
「おかしいわね。この駅、地上に出る入口がないわ」
「え? そんなわけないだろ?」
「だって縮小しても、上に出てる道が……あ、もしかしてこれ? でもこれ、地上に繋がってないし階段もないわね……」
「繋がっていない?」
何かがおかしい気がした。
だが、それを考える猶予も与えられない。
侵入者警報が鳴り響いた。
「え? ちょっと……どういう事よ! どこ? 入口がないのにどこから?」
「別の駅じゃないの?」
ウィノーラが言うが、エトルアは首を振る。
「違う。どこの駅にも侵入してない……どうなってるの? あ、いた……」
表示された物を見て、エトルアは愕然とした。
「……嘘でしょ! 地下トンネルから侵入してきてる!」
「どういうこだ?」
「だから地下トンネルよ! さっき私たちも通って来たでしょ! 地下鉄に乗って!」
確かに通った。
そして、普段は意識していないが、地下トンネルもダンジョンの一部だ。
侵入者があれば警報が鳴るのは当然だ。
「いや、でも、そこに入口はないはずだろ?」
「だって実際にいるのよ!」
「穴を掘って侵入してくるような敵がいるなら、あり得るかも……、壁を壊したんでしょ? 映像はないの?」
ウィノーラが言う。
「ダメ。無理みたい。ダンジョンの中でも、どこでも見れるわけじゃないのね……」
「あの、ここから地上には逃げられないんですよね? もしかして、私たち、閉じ込められてません?」
カルナが不安そうに言う。
「いや、侵入者を撃退すればいいだけの話だろ」
「そうよ。私のダンジョンに勝てるわけがないわ」
アロッホとエトルアは楽観論を口にする。
「本当に大丈夫? この相手、多分、私より強いと思うけど……」
過去に、実際にダンジョンにダメージを与えはしたが壁の破壊まではいかなかったウィノーラがそう言って、アロッホもエトルアも何も言い返せなくなった。
登場人物の知識では絶対に解明できない情報だからここに書いておくけど、
あの映像はレンズ(監視カメラ)がある場所しか見れない