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そのころ王都の貴族たちは


「ああああああああああっ! クソッ、クソッ、クソッ! どいつもこいつもおおおおおっ! この国には役立たずしかいないのかよぉおおおおおっ!」


ディスオルトはブチ切れ、届いたばかりの手紙を破り捨てた。


エルム要塞での任務は、ただの閑職のはずだった。

そう思っていたのは、ディスオルトだけではない。

あの時点では、事情を知る誰もが、お飾りの仕事だと思っていた。


魔導砲のメンテナンスは、予定外だったが、まあどうでもよかった。


しかし、バリアス平原の情勢はここ一ヶ月で変化したらしい。

帝国は急に強固な防御陣地を築き始めたのだ。

これは、少なくとも今年は前進する気がない事を意味する。


うっかり王国の戦力を過大評価したとか、虎の子の主力部隊が事故で使えなくなったとかでもない限り、ありえない選択だ。

むしろ、大規模な情報操作だと言われた方がまだ信じられる。


しかし国境警備が厳重になったため、スパイからの情報が入手できず、王国側では何も判断できない。

あれが情報操作なら、帝国は王国を一撃でつぶせるような計画を進めているという事になる。

既に何か危険な敵部隊が国内に潜入しているのではないか。

そんな噂が囁かれていた。


そんな時期に、王都の付近でキメラアントが発見された。

誰もが耳を疑い、その直後に納得した。


帝国は、キメラアントを王都にぶつけるという非人道的な作戦に出たのだ。

それしか考えられない。

そんなやり方では、一歩間違えれば王国の次に滅ぶのは帝国かも知れないのに、よくもそんな恐ろしい事を思いつき、実行した物だ。


まあ、もしかすると、たまたま王国より先にキメラアントの脅威に気づいて、王国がキメラアントに滅ぼされるのを黙って見ているつもりだったのかも知れないが。

そうだとしても、状況にあまり変わりはない。


キメラアントとの戦いに負ければ、王国は壊滅する。

既に王都では、住人の避難が始まっていた。


そして、たった今、手元に届いた手紙。

樹海に向かった戦闘部隊は、キメラアントではない謎の敵勢力と遭遇、戦闘になった。

その結果、敗北、というか壊滅し、毒ガスの材料を全て奪われた、との事だった。

宮廷魔術師がついていながら、なんという失態か。


キメラアントの巣穴に毒ガスを流す作戦は、タイミングが肝心だ。

全ての巣穴に同時刻に毒ガスを流さなければいけない。


この報告が王都に届いたのは、その時刻が過ぎた後だった。

つまり、森の外の巣穴に毒ガスを流し込んだ後、という事だ。

おそらく、森の中では大量のキメラアントが地上に追い出されているだろう。


行き場を失ったキメラアントは、新しい巣を作るために大移動を開始する。

その時に、キメラアントはどこを目指すだろう?


巣を破壊した敵がいる場所。

人間という餌が大量にある場所。

そこさえ押さえてしまえば、しばらくは安泰な場所。


つまり、王都だ。


もしかすると別の方向に行くかもしれないから逃げなくてもいいや、などと考えるのはバカげている。


ディスオルトも、今すぐ逃げたかった。

こんな要塞での任務がなければ、荷物をまとめて領地に逃げ帰っていただろう。

だが、それは許されない。


要塞を任された以上、逃げるという選択肢はない。

仮に逃げれば、良くても今まで築き上げた物を全て失い、悪ければ全ての責任を被らされて処刑だ。

逃げても死、逃げなくても死。


ディスオルトが生き残る道は、キメラアントの大軍と対決し生き残る事だけだ。


となれば、頼りになるのは要塞砲だ。

ディスオルトは足早に要塞内を駆けて、屋上の木で作られたドームの中へと走る。


「おい、魔導砲の整備はいつ終わ、る……」


光景を見て、ディスオルトは言葉を失った。


魔導砲はなくなっていた。

正確に言えば、床に下ろされ、部品単位に解体されていたのだ。


何か指示を出していたクドロを見つけた。

骨組みのような機械にぶら下がっているのですぐわかる。

ディスオルトはクドロを下から怒鳴りつけた。


「おい! これは、どういう事だ!」

「ご命令の通りに整備している所ですが、何か問題でも?」

「バカやろう! これを組み立てて今すぐ撃てるようにしろ! 今すぐにだ!」

「む、むちゃな……」


クドロは、事態の重要さを理解していないようだ。


「敵だよ! もうすぐここに敵が来るんだ、どれだけ武器があっても足りないというのに、一番火力のある武器がバラバラだと? ふざけているのか!」

「はあ、敵が来るんですか? ここに?」

「来るんだよ! キメラアントの話は何も聞いていないのか?」

「いえ……初耳ですが、え? キメラアントと言いましたか? 何かの間違いでは?」


どうやらこの老人は、ずっとここで作業を監督していて、世間の騒ぎには疎いようだ。

本当に初耳らしい。


「この非常時に肝心の魔導砲が使えないなど、笑えんぞ」

「いや、しかしですね? 魔導関連の部品には、使わなくても劣化していくものもありまして……オーバーホールなしで戦闘になっていたら、爆発事故を起こしていたかもしれませんぞ?」

「それが何だ……」

「むしろ、敵が来る前に分解しておいてよかったのでは、と」

「何がノンキな事を! 耳にミミズでも詰まっているのか!」

「はぁ?」

「一発も撃てない魔導砲と、一発撃てる魔導砲、どっちがマシか言ってみろ!」

「あー、そんなに大きな声を出さないでください。来週には二十発撃てる魔導砲を用意して見せますから」

「一週間も待てるか!」


今、この瞬間に、森からキメラアントが這い出してきてもおかしくないのだ。


「けど、急いでも三日はかかりますよ」

「徹夜をしてでも一日でなんとかしろ」

「急いで失敗したら意味がないでしょう。それに、戦いになるなら万全の状態を目指すべきです。必要な交換パーツが明日届くので、今日は手順の確認だけでもやっておきますので」

「お、おまえ……状況がわかっているのか?」


自分が死ぬかもとは思っていないのか。

あるいは、こちらの目を盗んで逃げる気なのか。

あるいはあるいは、年寄りだから十分生きたし別に死んでもいいかなとか、そんな風に思っているのではあるまいか。


本当なら、今すぐ叩き出したかった。

だが、ここでこの老人を解任したところで、ディスオルトの前には解体された魔導砲が残るだけだ。


「くそっ……三日だな? 三日が過ぎても終わっていなかったら、どんな手を使ってもおまえを死刑にしてやる……」

「はあ……では、三日ではなく四日にしてもらえませんかね」

「三日と言ったら三日だ!」


それでも遅いぐらいだ。

ディスオルトは、もう遺書を書かねばならないかと本気で悩み始めた。



ストックがなくなったので、一時休載します。

一週間後に再開する予定です。



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