巨カマキリ、堕つ
三人の帝国軍人は、ドブリンゾンビの連携に追い詰められていく。
「よしよし。苦労して訓練しただけの事はあるじゃない」
駅長室からその姿を眺めながら、エトルアは満足げに頷いていた。
しかし、あと少しで詰み、と思った瞬間、急に状況が変わった。
「え? なんで?」
映像の中では、ドブリンゾンビ達が仲間割れを始めていた。
バリケードを持ったドブリンゾンビに、他のドブリンゾンビが襲い掛かり、混乱が発生。
遠くの方でバリスタを操っていたドブリンゾンビまでが機材を投げだし、棍棒代わりの角材、あるいは拳を振り回して、仲間を襲い始める。
その隙を突いて、帝国軍人達は包囲網から逃げ出し、別の部屋へと移動してしまった。
ウィノーラは、最後尾を行く一人を指さす。
「あの人、魔術師じゃないよね。錬金術師だよね」
「ああ……クロスボウに何か仕掛けがあるみたいだな。たぶん、特殊な矢を発射できるようになってる……」
アロッホも頷く。
あのクロスボウは錬金爆弾の投擲用だろう。
アロッホのメカアームほど仰々しくはないが、軽くて便利そうにも見える。
潜入を前提とした装備かもしれない。
「でも、爆発って感じじゃなかったよね。毒とか幻覚剤とか、そういう感じの薬品かな?」
「一発でかなりの範囲のドブリンゾンビに影響が出てるな……」
「あの三人も効果範囲の中だと思うけど、魔術で換気とかしてないよね」
「解毒剤があるのか、あるいはそもそも人間には影響がないのか……」
二人で話し合っていると、エトルアが割り込んでくる。
「ちょっと! 私にもわかるように話しなさいよ。結局あれは何なの?」
「何って……たぶん、この前の虫を集める薬と似たような物だ。帝国の錬金術師は、ドブリンゾンビを集める薬を作り出したんだ」
「バカ言わないで! 何で都合よくそんな物を持ち歩いているのよ!」
アロッホとウィノーラは顔を見合わせる。
答えは思いつかなかった。
「まあ、いいわ。どちらにしても情報を持ち帰らせるわけにはいかないもの。逆に捕まえて向こうの情報を吐かせましょう」
〇
ゲルヒニス達はダンジョンの中を突っ切っていく。
ゴチャゴチャした通路、階段、
迷路のような複雑な道を進んでいく。
戻る事は考えていなかった。
どこかにたどり着く、それだけを考えて進む。
緑色のドブリンがゾロゾロと歩いているのが見えた。
「ドブリン!」
ゲルヒニス達は身構え、すぐに警戒を解いた。
アイストがひきつった顔でゲルヒニスの方を見る。
「いや、これは帝国のドブリンですよ……ですよね」
「そのはずだ……随分と奥の方まで来たつもりだったが、ドブリンもここまで来ていたのか……」
ドブリンとはいえ、一応味方に分類される物を目にして、三人は少し安堵した。
ゲルヒニスは通って来た道を振り返る。
「あの場所を通り抜けて来たにしては数が多すぎる。入口に繋がる別のルートがあるようだ。この流れを遡るぞ」
ゲルヒニス達は、ドブリンの流れに逆らって進む。
進むごとに、うろつくドブリンの数は多くなっていく。
そして、急にドブリンが見当たらなくなった。
「なんで、この辺りにはドブリンがいないんでしょうか」
クラトスが不安そうに呟くが、その答えはゲルヒニスにもわからない。
そして、ある部屋に入った途端、アイストが歓声を上げる。
「やった。この部屋は見覚えがあるぞ、入り口の近くだ……あそこに階段がある、は、ず……」
喜びの声は、すぐに絶望に取って代わった。
アイストが指さす先には、確かに出口があった。
しかし、その途上には無数のドブリンの死体が積みあがっている。
そして肝心の出口のすぐ真上、巨大カマキリが壁に張り付いていた。
誰一人、外には逃がさないとでも言うように。
これが、この辺りにドブリンがいない理由だった。
ほとんどが殺されて、残りも逃げたのだ。
「あの下を通るのは、無理なのでは……」
「他に道がない、倒せずとも通り抜ければそれでいい。クラトス、例の薬品をもう一度ここで使う。タイミングは任せる」
クラトスは慌ててクロスボウの装填を始める。
「うまくいくと思いますか?」
「ゾンビ化していても効いたんだ。本来の使い方でうまくいかないわけがない」
「しかし、ここにはドブリンがいませんよ……」
「……他に道がない」
ゲルヒニスとアイストは最後の魔力ブースターを服用。
「フレアボルト!」
巨大カマキリに向けて炎の弾丸を放つ。
命中は期待していなかった。
やはり巨大カマキリは即座に反応し、身をねじって飛びのく。
床に着地、ドブリンの死体を蹴散らしながら襲い掛かってくる。
「トライアド・バリケード!」
アイストが防御魔術を展開。
巨大カマキリは二秒でそれを切り裂いて、ゲルヒニスの前に到達する。
「フレイム・ストーム!」
ゲルヒニスは広範囲に炎を呼び出す。
『ピアアアアアアッ!』
巨大カマキリはさすがにこれは受けたくなかったのか、羽を開いて羽ばたかせながら後ろに下がった。
「今の動きです……、あの羽を封じれば、矢を避けられないのでは?」
クラトスが言う。
確かにその通りだが、どうやってそれを実現するか。
「アイスト、次の一回は防御と追撃を交代する」
「は? ……わかりましたよ!」
巨大カマキリがもう一度突っ込んでくる。
「トライアド・バリケード!」
「フレイム・ストーム!」
ゲルヒニスが防御魔術を、アイストが炎魔術を……、巨大カマキリは先ほどと同じ動きで回避した。
だが、これは罠。
魔術を放つ順番を変えることで、巨大カマキリが着地する前にゲルヒニスが追加の魔術を撃つチャンスを得る。
「ニードル・レイン!」
魔術で生み出された無数の針が巨大カマキリを襲う。
一撃一撃は弱いが、この数と密度を避けられる物ではない。
巨大カマキリの羽がボロボロに破ける。
『ギィィィィッ!』
カマキリはさらに20メートルほど後退し、観察するようにゲルヒニス達を見る。
今まで、こちらを侮っていたのかもしれない。
あるいは、まともなダメージを受けたのが初めての経験だったのか。
「追い打ちをかける。フレイムボルト!」
「フロア・バインド!」
ゲルヒニスとアイストは同時に魔術を発動。
炎の弾丸と、床から発生した魔術の鎖が巨大カマキリの足を狙う。
巨大カマキリはジャンプして避けた。
空中に跳んだタイミングで、クラトスのクロスボウが発射される。
矢の先端に仕込まれた薬品が巨大カマキリの体を染めた。
その薬品はドブリン発狂薬。
コントロールが難しいドブリンの群れを、一つの対象に集中攻撃させるための薬品だ。
この薬品を浴びた生き物が近くにいると、ドブリンは全ての理性を捨てて襲い掛かる。
結果として、薬品を浴びた生き物も、薬品の影響を受けたドブリンも必ず死ぬ。
『ギガァァァァッ!』
階段の向こうや、隣の部屋から、ドブリンが押し寄せてくる。
巨大カマキリはカマを振り回してそれを切って捨てていく。
「攻撃手段が厄介だ。カマを砕くぞ!」
巨大カマキリも、こちらを優先ターゲットと認識しているようだ。
しかしドブリンの相手をしながらなので、幾分か反応が遅い。
「ペネトレイト……」
ゲルヒニスが魔術を放つより早く、カマが振り下ろされる。
だが、それこそがゲルヒニスの狙っていた状況だった。
どんなに動きが素早い魔物でも、攻撃の瞬間だけは動きが直線的になる。
確定した軌道で自分に向かってくるカマ。
「トライアド・バリケード!」
アイストが障壁を展開させる。
振り下ろされるカマが引っかかり、一瞬止まった。
「……バレット!」
貫通弾を放つ。
巨大カマキリの左側のカマが根元から砕け散った。
『ギイイイイイイッ!』
巨大カマキリは悲鳴を上げる。
だが、カマキリのカマは二つある。
残り一つのカマで、ドブリンを追い払いながら部屋の中を逃げ回る。
「足を止めなければだめだ。サンダー・ヴォルト!」
ゲルヒニスは、味方でもあるドブリンを、敢えて自分で蹴散らす。
これは視界を確保するため。
「フロア・バインド!」
アイストが魔術の鎖を発生させる。
巨大カマキリは当たり前のように跳んで避け、それで詰みだった。
空中で、クラトスの放った矢を足に受ける。
矢の先端に爆弾でも仕込んであったのか、爆発が起こる。
『ギアアアアアアアッ!』
巨大カマキリは既に満身創痍だ。
羽はなく、片方のカマを失ってバランスも悪い。
着地にすら失敗しドブリンに取り囲まれた。
バキバキと細かい音が断続する。
必死に残った攻撃手段を総動員してドブリンを追い払おうとしているようだったが、無限にも思えるドブリンの物量から逃れられる物ではない。
「やったぞ……勝てるものだな」
このカマキリ強すぎやろ?
次のアプデでナーフやな




