帝国軍の押し付け戦術3
ゲルヒニス達はいくつかの部屋を通り抜けるが、突破できないほど困難な部屋という物はなかった。
ゾンビが大量にうろついている部屋があったぐらいで、それも適当に攻撃魔術を連射して力押しで突破できる物だ。
そんな部屋をいくつも通り過ぎていくと、妙な部屋にたどり着いた。
一面に掘り返された跡がある土。
小さな石碑のような物が所狭しと乱立している。
「これは、墓場か?」
ゲルヒニスは一歩踏み出そうとし、嫌な予感がして踏みとどまった。
「ちょっと待て。……アイスト、どう思う?」
「何か、隠れてますね。小さいけれど数が多い……」
「そうか。クラトス、魔力ブースターを出せ。ここで使った方が良さそうだ」
ゲルヒニスとアイストは魔力ブースターを服用した。
魔力ブースターは、使用者の魔力を回復させると同時に、一時的に魔術の威力を上げる薬品だ。
クラトスもクロスボウを構えた。
警戒しながら、部屋の壁際を進む。
『ガァッ!』
墓石の陰から、何かが襲い掛かってくる。
「フレアボルト!」
ゲルヒニスは火炎弾でそれを撃ち落とした。
何かは燃えながら地面に落ちる。
それは帝国のドブリンのようにも見えた。
「いや……これは、違う!」
肌の色が青白い。
それに手に石斧のような武器を持っている。
これはドブリンゾンビ、帝国が育てたドブリンではない。
「敵もドブリンを使うのか!」
ゲルヒニスは戦慄しながら墓場を見渡す。
原始的とはいえ、武器を供給されている。
しかも物陰から奇襲攻撃をするように仕込むとは……
『ギイィッ』『キエェェェェェッ』『ゲァァァッ』
ドブリン・ゾンビがあちこちから飛び出してくる。
「スパーク・ウェブ!」
ゲルヒニスは範囲雷撃でまとめて撃ち落とした。
「トライアド・バリケード!」
アイストが急に防御壁を展開した。
何が、と思う間もなく、その壁の向こう側で連続して爆発が起こる。
見れば、ドブリンゾンビが数匹がかりでバリスタを操作しているのが見えた。
何か爆裂系の効果を持つ矢を放ってきたらしい。
防御壁が一瞬でも遅れていたら、全滅していた。
「あれが本命か!」
ゲルヒニスはペネトレイト・バレットを撃ち込むが、ドブリンゾンビ達は素早く撤収してしまう。
「無茶苦茶だ……」
ドブリンは人間より知能が低い生き物だと思っていた。
しかしここのドブリンゾンビは違う。
攻撃一つ一つが的確で、下手をすると帝国兵より練度が高い。
しかも死を恐れる様子を見せない。
「まともに相手をしてはダメだ。突っ切るぞ!」
ゲルヒニスは叫び、走る。
アイストとクラトスも必死についてくる。
先回りするように、木のバリケードを抱えたドブリンゾンビ達が立ち塞がる。
「フレアボルト!」
炎の弾丸を撃ち込んだ。
所詮木製バリケード、すぐに燃え上がる物と思ったが、炎の弾丸は弾かれて天井の方へ飛んで行った。
火力が足りなかったのではない。
何か、高度な炎対策がしてある。
「ありえん! ドブリンにそんな装備を支給するものか!」
「気をつけろ、穴があるぞ!」
アイストが叫ぶ。
落とし穴かと思った。
だが、違った。
見れば、穴の中には、数え切れないほどの死んだドブリンが、放り込まれている。
これは墓穴だ。
侵入したドブリンが殺され、死体は回収されてここに放り込まれているのだ。
ゴミのように積み重なったドブリンの死体。
実際、ゲルヒニスも自分たちのドブリンをゴミか何かのように扱ってきた。
ドブリンメイジになれなかった、残りカスを王国への嫌がらせに使う。
その程度の認識だった。
だがここのドブリン・ゾンビは違う。
知性を持ち、戦術を持ち、勇気を持ち、何より忠誠心を持っている。
少なくともゲルヒニスはそう思った。
その差が結果に出る。
帝国のドブリンはゴミであり、ここのドブリン・ゾンビは精鋭戦士だった。
「これが、帝国と王国の差なのか?」
自分たちもここで死ねば、同じように捨てられる。
ゴミのように投げ出され、その上にドブリンの死骸が積み重なっていく。
そんな姿を容易に想像できた。
「くそっ、もうダメだ……」
アイストが泣き言をいう。
見れば、木のバリケードを構えたドブリンゾンビが横と後ろからやってくる。
一方向は壁、三方向はバリケード。
あとは魔力が尽きてシールドが張れなくなるまで遠距離攻撃を受け続けておしまいだ。
だが、こんなところで死ぬわけにはいかない。
帝国は間違えていた。
本当はドブリンには可能性があったのだ。
それをマリアンヌに伝えなければ死んでも死にきれない。
「まだ手はある! クラトス! あれを使え!」
「えっ? 隊長、正気ですか?」
「他にいい案があるか? いいからやるんだ!」
「……っ、どうなっても知りませんよ!」
クラトスは特殊な矢をクロスボウにセットし、後方から迫るバリケードに向けて撃った。
矢は命中し、薬品が飛び散る。




