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そのころ王都の貴族たちは


王宮の一角には、宮廷魔術師たち専用の会議室がある。

円卓を囲むように座る12人の魔術師たち。


ディスオルトもその末席に座っていた。


もっとも、この部屋の中で決まる事は多くない。

殆どの事項は、既に別のどこかで決まっていて、連絡事項を一方的に通達するだけだ。


年長の魔術師が司会役を務める。

今年60になる老人だ。


「まずは錬金術師協会からの件。ビルカルム峠への遠征隊についての相談を受けている。内容は例年と変わらず。こちらも例年通り、3等級魔術師10名を選抜し、貸し付ける」


錬金術師協会は、氷系の錬金爆弾の素材を採取するために、毎年遠征隊を送っている。

それの連絡事項だ。


「次、べリアート樹海について、最近、森の奥が騒がしいと、何やら曖昧な報告が来ている」

「曖昧?」


ディスオルトが呟くと、司会役の老人も困ったように言う。


「私にもよくわからん。具体的に何が問題なのか、報告書に書いていないのだ。ただ、虫が騒がしいとか、鳥が減ったとか、風の匂いが違うとか、そんな事ばかりが書かれている」

「んんん……」


全く意味が解らなかった。

ここは、貴族の中でも上流の中の上流が集まる場所。


どうしてそんな、無学の塊のような報告書が、こんな所にまで届いてしまうのか。


「私もこんな報告書は無視するべきだと思うのだが、。しかし、この件はミルアーヌ男爵が妙にこだわっていてな……」


確か、グラッセン派閥に属する老人だ。

半分耄碌しかかっているという噂だが、まともな判断もできなくなったのか。


「不確定要素が多いため、一等級魔術師を送りたい。エルメット君、手配してもらえないかね」

「引き受けました」


ディスオルトは隣の席に座る男を横目で見る、パリクス・エルメット。

四年前、ディスオルトとの争いに勝ち、宮廷錬金術師になった男だ。


ここで指名され、特に迷いもせず引き受けたという事は、裏で話は付いていたのだろう。

この男は、別にグラッセン派閥というわけでもなかったはずだが、何を考えているのか。


「さてと、本題に移ろう」


司会の老人は顔を引き締める。


「バリアス平原で動きがあった。イストリウス帝国の偵察活動と思われる」


部屋の空気が変わった。


バリアス平原は、コッコニオ王国とイストリウス帝国の境目となる荒れ地だ。

アンデッドが蠢く不毛の地で、開墾してもロクに植物は育たない無価値な土地だ。

価値がないので、荒らしても問題ない。

合戦場の一つとなっている。


そこで敵国の人間が活動しているという事は、次の戦争がはじまるという事だ。


「今年もバルトリー村の方には来ないのか?」

「スパイの報告を信じるなら、平原の側に兵を集めようとしているようだ」


数年に一度、森の側から奇襲を仕掛けてくることがある。

そういう場合は、大体、乱戦になって無茶苦茶な被害が出る。


だが、対処しなければベルナス市が落とされるので、森はこちらで押さえたい。

結局、兵を出さないわけにはいかない。

敵国にとっても、被害が出る戦いになるので、頻繁に仕掛けてこないのが幸いだ。


「そろそろ、こちらから打って出てもいい頃では?」


魔術師の一人がそう言うが、別の魔術師が否定する。


「それができれば、苦労はしない」

「去年は、突如線上に現れたドブリンの大軍による攻撃を受けて、左翼の部隊が壊滅したのだ。アレさえなければ、領土を広げられていた物を……」


ディスオルトは最前線の事情までは知らないが、それなりに苦心があるようだ。


戦争は、こっそり仕掛けられるような物ではない。

大量の兵士を集めれば、人間の移動や食料の配給などで、物流が変化する。

それは、その土地に住んでいる人間なら、普通に気づいてしまうような物だ。


準備には時間もかかる。

去年の戦闘が終わった時には、既に次の計画が建てられているほどだ。

逆に言えば、そのサイクルを上回る速度で戦争をすることは難しい。

それは敵も同じだ。


問題は、限られた時間で何を得るかだ。


「今回は、バリアス平原の南西側に、物資が集積されているようだ」

「ふん、久しぶりに、王都を直接狙いにくるつもりか?」

「いや、それもブラフだろう。本命はいつも通り、川沿いのはずだ」


さまざまな意見が出るが、ディスオルトは発言しない。

戦争の進行を予測するのは戦略家だ。


こんな所で素人が何か言った所で、意味がない。

それにこの話の行きつく先は、既に知っていた。


司会役の老人が言う。


「バラライム君。君にはエルム要塞の魔導砲を預ける」

「お任せください」


これも、裏で話がついている事を、全員の前で確認するだけの事だ。


エルム要塞は、王都の隣を流れる川を挟んで建つ要塞。

敵軍が攻め込んできた場合、王都を守るための最終防衛ラインとなる。

……と言えば聞こえはいいのだが、そんな後方まで敵が来ることは、まずありえない。


そこまで攻め込まれてしまっている時点で、国が割れるレベルの敗北だ。

本当に出番があるとは思えない。


頑張った所で、特に手柄は立てられないだろう。

むしろ手柄を立てられるような事態に陥ったら困る。


だが、別にいいのだとディスオルトは一人ごちる。


戦争など、結局は政治の道具でしかない。

平民が何百人か、何千人か死ぬだけであって、貴族である自分には関係のない事だ。


自分には、今年はろくに出番も与えられないようだが、そこで腐っている必要はない。

10年後、20年後にどうなっているか、それが重要なのだ。


今に見ておれ、この部屋の中のアホどもなど、いずれ追い抜いて見せる。


ディスオルトは内心でそう思っていた。



ストックがなくなったので、一時休載します。

一週間後に再開する予定です。



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