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フェアリー・ペストの妨害戦術2


アロッホとウィノーラはへろへろになりつつも駅長室にたどり着いた。


「はあ……」

「お帰り、何か成果はあった?」


エトルアに言われて思い出す。

そもそも、ヘルフロストの材料を手に入れるのが目的の外出だった。

アロッホは背負っていた荷物を指さす。


「一応、予定の通りに回収してここにある。ちゃんと保管しておこう」


荷物を下ろすためにしゃがんで……そこから立ち上がる力が湧いてこなかった。


「ちょっと、大丈夫?」

「いや、昨日はちゃんと寝れてないんだ……少し休ませてくれ」

「そうね……事態は急を要するって程ではないわ……。ちゃんと寝ておきなさい」


アロッホとウィノーラは、とりあえず、睡眠をとった。



翌日、改めて作戦会議が行われる。

岩場の真ん中に、板を組み合わせて作った椅子とテーブルが置かれる。

カルナがクッキーと紅茶を用意してくれた。

エトルアの席は、手を伸ばせばダンジョンコアに触れられる位置でもある。


「改めて、状況を確認しましょうか」


エトルアがため息交じりに言う。


「アイスマウンテン駅は、何か虫のような魔物の大軍に侵入されているわ……正確な数はわからないけど、少なくともテスラタワーを二回全力稼働させただけで、三千体は落としている」

「二回?」

「あなたが帰ってくる前にも一回やっているの。おかげであの部屋より先には侵入を許していないわ」

「そうか……」

「倒すだけなら簡単よ。そして凄く弱いからダンジョンの脅威にもならない。ただ、私たちは、侵入者を全滅させないといけない。一匹残らずね」


これが問題だった。

このダンジョンは、撃破率100%以外が許されない。

しかし一度家に住み着いた害虫を完全駆除するのは大変なのだ。


「それで? どうしたらいいと思う?」

「悪いけど、あれを追い払う方法はない」


アロッホは断言した。


「え? ないの?」

「煙幕をたけば入口付近のフェアリー・ペストはとりあえず逃げるけど確実じゃないし、そのうちまた入ってくる。ダンジョンの奥に入ってる奴に対処する方法は、何も思いつかない」

「そんな……」


エトルアの顔が絶望に満ちる。

ウィノーラが神妙にアロッホを見つめる。


「ねえ、アロッホ。本当に何もないの?」

「……現実的な案は一つもない」

「非現実的な案はあるんだ?」

「例えば、魔力回復薬を大量に作って、おまえが全部倒して回るとか、かな」

「うわー……、それは無理だよ」

「ほらな? 非現実的だろ?」


カルナが言う。


「私の村だと、畑に悪い虫が来た時は、鳥の神を呼ぶ儀式をやってましたよ」

「それ、やると鳥が来るの?」

「どうなんでしょう? 正直に言うと、あれは儀式をしなくても結果はあまり変わらないような気がするんですけど……」


神とか何とか言っているが、結局は野鳥の捕食行動に期待しているだけだ。

ただ、鳥というのは、いい考えだ。


「そうね。鳥の魔物がいればよかったわね。虫とか食べてくれそうだもの」

「虫を食べるなら、蜘蛛って言うのもありだな。それならモリソバ駅の近くにいそうな気がする」

「べリアート樹海には、食虫植物って言うのがいるらしい」

「この前のバサルトスライムみたいなの味方にできないんでしょうか。あれなら、どんな相手も倒せそうな気がしますけど……」


アイディアはいくらでもでてくる。

だが、一つ問題があった。


「アレがいる限り、アップキープは来ないわ。」


エトルアはため息をつく。


「アップキープを一回挟めば、新しい魔物を追加したり、入り口に扉をつけたりできるわ。つまり、一日だけでもいいから、フェアリー・ペストが全滅している状況を作らないと……」

「じゃあ、とりあえず入り口を塞ぐしかないな」


アロッホは言う。


「入口の周囲に材木で柱を立てて、氷を使って隙間なく完全にふさぐ。これで新たなフェアリー・ペストの侵入を防ぐ。そして階段の下から空気より軽い殺虫剤をまけば、階段にいるフェアリー・ペストは全滅するはずだ」

「その殺虫剤をダンジョン全体に撒くわけにはいかないの?」

「どうかな……ちょっと広すぎる。それだけの量を用意できるかどうか……」


調合用の大鍋から用意する必要があるかもしれない。

材料も足りるかわからない。


カルナが言う。


「そうだ。カステラ駅からカエルを連れてくるっていうのはどうですか? あれも虫は食べますよね?」

「まあ食べるけど、一匹で足りるかしら? っていうか、あれって大きすぎて地下鉄に乗れなくない?」


アロッホは無言でクッキーを齧る。

と、ウィノーラが疑うような視線を向けているのに気づいた。


「な、何?」

「ねえ、アロッホ。本当に何もないの?」

「何で?」

「今思い出したんだけど、私、前にアロッホから虫をどうにかする薬の話を聞いたような気がする。何か極秘の研究を手伝ってるって……」

「いや、あれは……」


アロッホはさすがに言葉に詰まった。

それは、ウィノーラが想像しているような物とは違うのだ。

エトルアが身を乗り出す。


「何よ。やっぱりあるんじゃない? 研究中でもいいから試しましょうよ」

「まあ、作ろうと思えば作れない事はないんだけどな……」


アロッホは、あまり気が進まなかったのだが、隠しているようなのもよくない気がするので明かすことにする。


「俺の知り合い……まあ兄弟子みたいな人が考案した薬品だ。いろいろ手伝ったから作り方は知っているし、多分材料も調達可能だ」

「今回のフェアリー・ペストにも有効なのかしら?」

「そもそもがフェアリー・ペスト対策で開発した物だ。そういう意味では、効果はあると思う。ただ……」

「ただ?」


一つ、問題があるのだ。


「錬金術師協会からは、実地試験の許可が下りなかった。だから、どの程度の効果が出るのか予測できない」

「何が問題なの?」

「調合した薬品の効果が理論通りで、なおかつ事故を起こした場合、取り返しのつかない深刻な状況になる、というのが理由だ」


一同は黙り込む。

エトルアは少し考えていたが、意を決したように聞く。


「それ、失敗したとして、今より状況は悪くなるのかしら?」

「いや……ダンジョンの入り口を塞いだ後なら、さほど問題はないと思う」

「ならいいわ。やりましょう」


ウィノーラが不安そうに言う。


「それって、そんな強力な殺虫剤なの?」

「いや、あれは殺虫剤じゃないんだ……」


だからこそ、使いたくなかった。


「逆に、虫をおびき寄せる」


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