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今後の方針


雪が溶けていないという事は、当然、気温は氷点下だ。

人間が備えもなしに生きていける場所ではない。


「これは、防寒着を持ってくれば良かったな……」


アロッホはため息交じりに言った。

もっとも、事前に予想して準備しておけるような物ではなかったが。

ウィノーラはエトルアの方を見た。


「エトルアがドラゴンに戻ってって火を吐いたら、暖かくならない?」

「……いや、動けなくなってそのまま死ぬから。むしろあなたが魔術で火をたけばいいじゃない」

「それは最後の手段、魔力にも限りがあるから」

「なら、魔力を温存して凍え死ぬのかしら?」

「そうなる前に帰るべきだと思う。というか、今すぐ帰らない?」


アロッホもその意見に賛成だった。

カルナは、ダンジョンの入口から数メートル外に出て、一面の白い景色を眺めていた。


「もう少し、景色を見ていてもいいですか?」

「寒いのに?」

「いえ……たぶん、私は二度と来ないでしょうから」


カルナは、少し疲れたような表情で入り口の方を見る。

確かに、あの階段をもう一度上り下りするのは、つらい。

アロッホは錬金術関連の素材収集で、もう一度来るつもりだったが、カルナは同行しないだろう。


山の上、そして気温も低い。

空気は澄み渡っていた。

目を凝らせば、はるかな遠くまで見える。


山をおりた所には赤茶けた土の荒野があって、その左奥には湖が見え、さらに遠くに森がある。

あの森は、もしかすると、王都にほど近い場所にあるべリアート樹海だろうか?


「この国って、こんなに広かったんですね……」

「そうだなぁ……」



三時間近くかけて階段を降りてから、地下鉄でチキンカリー駅へと帰る。


「一日がかりになるとは思わなかったわ」

「帰ったら料理をしないと……支度する時間が……」


カルナは疲れ切った顔で言う。


「さすがに今日は無理だろ……」


ダンジョン内なら、ある程度の食料は確保できる。

一日ぐらい、料理をしなくても、死んだりはしない。

エトルアは何か別の事を考えているようだった。


「地下鉄の移動時間も長くなってるわね。このままだと、一番端にあるチキンカリー駅に住むのは合理的とは言えないのかしら?」

「いや、そんな事はないだろ。あの駅は防衛拠点として優れていると思う。それに、端の方の駅っていうのは、遠くから攻められたなら、その分だけ時間を稼げるメリットもある」

「そうなんだけど、しばらくアイスマウンテン駅に滞在した方が良くないかしら?」


エトルアが何を言いたいのかがよくわからない。

カルナが聞く。


「あの、エトルアさんは、何が問題だと思っているんですか?」

「なんて言ったらいいのかしら。ダンジョンを見て回っている間に、何かを思いついた気がするんだけど、なんだったかしら?」


それならメモでも取っておけば良かったのではないか。

ウィノーラが思い出したように言う。


「アロッホ。今日は布を作ってたけど、あれって何に使う物なの? 大量に用意するとか言ってたけど」

「え? えーと、なんだっけ? ……あ、そうか。エトルアのドラゴン用の防寒着だ!」

「それだわ! あれはいつになったら完成するのかしら?」

「作成の目途は立っている。でも材料が全然足りない」

「何があればいいの?」

「とりあえず、綿花を増やす必要がある」

「そう……。つまり、あの畑を使いたいって言うのね?」


ダンジョンの畑を使えば、綿花もすぐに増やせるはずだ。


「それしかないな」


随分前から作る作ると言いながら後回しにしてきたが、それにも限界がある。

特に、ダンジョンの外があんな感じでは、全員分の防寒着を用意しておくのは最優先事項と思われた。

カルナはいらないと言うかもしれないが、万が一ダンジョンが陥落した時、場合によってはアイスマウンテン駅から脱出する必要があるかもしれない。

その時になってから、用意してなかったのであなたは凍死してください、というわけにはいかない。

必ず全員分作る。


アイスマウンテン駅の入口は、チキンカリー駅の次に人里から遠い場所にある。

チキンカリー駅の場合は溶岩で入口が埋まる危険が常にあるが、アイスマウンテン駅は防寒着とスコップさえ用意しておけば、大体の状況を耐えられる。

つまり脱出口としての価値が一番高い。


そう考えると、ドラゴンサイズの防寒着はやっぱり後回しになるような気もしたが……、今は言わないでおく。


「やっぱり、しばらくの間、アイスマウンテン駅を拠点にする必要がある、という事でいいのかしら?」

「そうだな。他にも必要な物がいくつかあって、これは外で買うしかない」

「明日、引っ越しの準備をして、明後日から綿花の栽培。それが軌道に乗ったら、アロッホはベルナス市に行く。これでいいかしら?」

「あとは、アイスマウンテン駅の外には、山小屋を建てておいた方がいいと思う。俺が採取に行く時に必要だし、いざという時の避難場所にもなる」

「それは私に任せなさい。吹雪にも負けない頑丈な物を建てて見せるわ」


つまり丸太も確保しないといけない。

これで当分の間の方針は決まった。


カルナが不安げに聞く。


「あの、服を作るとして、縫うのは私の担当ですよね」

「そうなるのかな? まあ、時間がある時に、無理がない範囲でやってくれれば……」

「どれぐらいの量が必要になるんですか?」

「それは帰ったら俺が計算しておくよ」


綿花について調べた所、60平方メートルの畑から着物三着分がとれるらしい

ダンジョンの畑は20メートル四方と書いたから400平方メートル、一回の収穫で20着分


問題はドラゴン用で、大きさがよくわからないけど人間の十倍ぐらいあれば足りるだろうか。

種となる綿花が十分なら、一回の栽培と収穫で終わる

種を増やすところから始めるので、もっと時間はかかるかもしれないけど、どうにかなるはず……


ただし、それを服の形に縫うために必要な時間は……

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