そのころ王都の貴族たちは
王都の片隅の貴族の屋敷の会議室に、四人の男が集まっていた。
いずれも、貴族だ。その地位は公爵から男爵まで幅は広いが。
彼らこそ、この国の貴族組織の片翼をる一団。グラッセン公爵の派閥の中枢だ。
「もうすぐ宮廷魔術師が選出される時期だな」
グラッセン公爵が言う。
「やはり今年はバラライム家のクソ坊主が勝つのかかえ?」
これはミルアーヌ男爵。御年60を数える老人だ。
貴族としての階級こそ低いが、国難の時期に活躍した生き残りとして派閥内でも一目置かれている。
「そうなるだろう。随分な額の賄賂がばらまかれているようだからな」
鼻で笑うように言うのがアストット子爵、皮肉屋だ。
「邪魔しようにも、ちょうどいい候補がいない」
残念そうに言うのはモロトロス伯爵。
四人の中でも、最も慎重と言われる男
「ウィノーラ・ソトムが有力と言われていたようじゃがな、あれはダメなのか?」
「急病で倒れてから、魔術が使えなくなったと聞くぞ。今回は無理だろう」
「あれは毒殺されかかったという話があったな」
「毒殺か? 本当にそうだとしたら犯人は誰だ?」
グラッセンが言うと、三人は顔を見合わせる。
そしてアストットが答える。
「バラライム家のやつだろう? 他に誰がいる?」
「その意見には特に反対しないが……大事なのは悪評ではない、動かぬ証拠だ」
「そんなものが見つかっとるなら、今こんな話をしている暇などなかっただろうな」
グラッセンは言いながら、モロトロスを見る。
モロトロスが言葉を引き継ぐ。
「バラライム家はアロッホ……例の錬金術師を探しているようだ」
グラッセンには事前に報告しておいたことだ。
アストットが、思い出したように言う。
「確か、ソトム嬢は毒を盛られたのだと、最初に騒ぎ出したやつだったな? そいつは今、どうしている?」
「ホロム病の話は聞いているか」
「ああ、最近おまえの領地で患者が出たとかな。いや、薬が出回ったとも聞いたような気がするが?」
薬を作るために必要な素材は、民間では簡単に手に入らない物ばかり。
それが急に大量に出回るのは普通ではない。
「そうだ。その件で調査させているのだが……謎の錬金術師がベルナス市に滞在しているらしい」
「それがアロッホなのか?」
「さあ、どうかな」
モロトロスは答えをはぐらかした。
「なるほど。確かにその辺りは曖昧にしておいた方が、都合がよさそうだな」
アストットは納得したように言う。
迂闊にアロッホだと認めてしまうと、取引するわけにはいかなくなる。
「薬の材料は、どうやって手に入れているのだ? 」
「それが全くわからないのだ……。追跡していた調査員は途中で見失ったらしい」
「見失った? もっと腕がいいやつをつけなければダメだろう」
「……次からは別の調査員もつけるさ。だが、アロッホは姿を消してから10日以上姿を見せていないらしい」
ミルアーヌが口を挟む。
「10日も姿を消すとはおかしいじゃろ。食事はどうしているんだ? 誰か協力者がいるのではないかね?」
「そうだとしたら、違法組織の可能性が高いな」
「おまえの伝手で、盗賊のネットワークを調査してくれないか?」
モロトロスがそんなことを頼むのは、アストットが裏社会に詳しいからだ。
だがアストットは首を振る。
「既にやっているさ。だが今は、エドイックとかいう山賊の一団が消えたという話で持ち切りだ。情報集めには向かない……そういえば、あれもベルナス市の近くの話だったな」
「バルトリー村の近くをうろつくゾンビが急に減少したという話もある」
「あの辺りで妙な事が起こり過ぎていないか?」
「つまり話をまとめると、アロッホという錬金術師が、薬の材料を集めながら、ゾンビと山賊を倒して回っているのか?」
「いや、そんなまさか……」
錬金術師は、そこまで万能の存在ではない。
「未知の集団があの辺りに拠点を構えて、薬のための畑を作り、侵入してきたゾンビと山賊を倒した、と考えれば、話は繋がるが……」
「なんだ、その未知の集団というのは」
組織は、何もない所から生み出されたりしない。
「もしかすると、ダンジョンドラゴンか何かが復活したのかもな」
アストットが冗談めかして言うと、ミルアーヌが怒りだす。
「笑えん冗談を言うな。あれを絶滅させるために、わしらの世代がどれだけ犠牲を払ったと思っているのか……下手をすれば、この国すらなくなっていたかも知れないのだぞ!」
「ミルアーヌ殿、落ち着くのだ。何にしても調査が必要だ……」
グラッセンが宥めて、それから一同を見渡す。
「それで? 肝心の宮廷魔術師の件は、どうするべきなのだ?」
「だから、ウィノーラを担ぎ上げようにも、健康状態の問題があるから無理だという話だろう?」
「ちょっと待った。それは正しい情報ではないぞ」
アストットが口を挟む。
「ソトム家の令嬢が、荷馬車を買い取って、大量の荷物を運んでいるのを見たという情報がある」
「確かな話か?」
「服装は冒険者か何かに変装していたようだが、顔を見たから間違いないそうだ。その現場を見ていた者が言うには、大きな木箱を自分で担いで軽々と運んでいたとか」
「それは重量軽減の魔術か何かを使っていたのでは?」
「そうだとしても、魔術が使えないという情報は嘘だったという事になる」
「自分を強く見せようとするならともかく、弱く見せようとする理由があるか?」
魔術を使えなくなったという言葉は、ウィノーラ本人の口からも出ている。
宮廷魔術師を目指すつもりなら、たとえ事実だとしてもそんな事は言わないだろう。
ましてや嘘をつく理由があるのか。
「暗殺を警戒しているのかもな」
モロトロスが言うと、一同は黙り込んだ。
ソトム家は男爵の位。公爵であるバラライム家のごり押しを退ける力はない。
身を守るためには、静かにしているしかないのか。
ミルアーヌが口を開く。
「その暗殺とやらは、我々が全力でバックアップしても、防げないような物かね?」
「さあな? だが、一度宮廷魔術師にしてしまえば、暗殺する意味もなかろう」
グラッセンが言う。
実質、これが決定のような物だ。
ここから先は派閥同士の力比べになるが、グラッセンとて、バラライムなどに負ける気はない。
全力での賄賂と裏取引きの戦いが始まるだろう。
「ちょっと待て。おまえら、俺の話をちゃんと聞いていたのか?」
アストットが慌てて言う。
「ソトム家のご令嬢は、今、王都から出ていると言ったじゃないか」
「ん? そうだったな。それが?」
「現在位置は不明だが、最新の報告では、二日前にはナトラ市にいて、そこから北へ馬車を走らせたらしい」
ナトラ市は、王都の北にある町だ。
「まさか、ベルナス市に行くつもりなのかえ? 待てよ? アロッホの活動を支援をしているのがウィノーラだと仮定すれば、いや、まだ辻褄が合わぬ」
「そうじゃない。移動距離を考えてくれ」
ナトラ市は、ここから馬車で三日はかかる距離にある。そこから一日分馬車で進んだ後、即座に戻ってくるとしても、四日かかる。
報告の時間差を考慮しても、王都に戻るのは早くて三日後。
「宮廷魔術師の審問は明後日から始まるはずだ。それまでに帰ってこれない……というか、本人に帰ってくる気がないんじゃないか?」
「「「ああっ!」」」
ストックがなくなったので、一時休載します。
一週間後に再開する予定です。
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