表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/76

追跡者


モロトロス公爵の領地ではホロム病が流行していた。

薬が手に入るあてはなく、絶望が蔓延していた。


それが今回、急に薬が提供された。

合計でやっと百本程度だが、それでも百人の命が助かったのだ。


薬は高価なので、さすがに平民が買える物ではない。

統計は取れていないが、千人単位の死者が出ているはずだ。

多少の混乱が予想されるが、ホロム病による死者が出た家は、税金を減免するなどの政策を打って不満を分散させる。


それ自体は良い事だった。


だが、ホロム病の薬は材料にパワープラムを使う。

パワープラムは身体強化薬の材料にも使われ、戦略物資として厳重に管理されている。


なぜ薬が市場に出たのか?

パワープラムが大量に裏市場で出回っているのではないか?


モロトロスは、その件をひそかに調べさせた。

薬の出所はベルナス市のマキアート。


ベルナス市と言えば、最近バラライム家が何かしていたらしい。グラッセン公爵の派閥に属するモロトロスからすると、警戒に値する事態だ。


同じ国の貴族とはいえ、敵対派閥だ。

バラライム家がホロム病対策のためにこっそり手を回してくれたという事は考えにくい。

仮にやるとしたら、正面から恩着せがましくくるだろう。


それでメルワーレに任務が下された。

メルワーレの家系は、祖父母の代からモロトロス家に仕える家臣だ。

今年で二十になるメルワーレも、同じようにモロトロス家に仕えている。


「よしっ、この仕事、必ず成功させてみせるぞっ!」


メルワーレは頬を叩いて気合を入れると、ベルナス市へと旅立った。



まずマキアートの薬店を調査した。

そして錬金術師マヌークを発見。

何の事はない、店の奥に籠って調合しているのだ。


マキアートの外出を狙って空き巣のごとく侵入したメルワーレは、危うくマヌークと鉢合わせする所だった。


錬金術師マヌークが、先月、王都から追放された錬金術師、アロッホと同一人物であることは、即座に確認された。

どうやらバラライム家がベルナス市までやって来たのも、アロッホを探しての事らしい。


ベルナス市の有力者、エイドリン・コルムンは、この錬金術師がアロッホだと知ったうえで知らぬふりをしているらしい。

通報するには惜しい手札だからだろう。

それはメルワーレも理解できる。

もしアロッホが流れて来たのがギカート市だったら、モロトロスだって、気づかぬふりをして薬を受け取ったのではないか。


マキアートが帰宅したため、メルワーレは天井裏に潜んで様子をうかがう。


マキアートとアロッホの会話は聞いているだけで冷や冷やした。

隣国との国境を超える件について話しているようだ。


マキアートが途中で追及をやめてしまったのは残念だった。

アロッホは、何かとんでもない事を考えているようだが……放置しておいて大丈夫なのだろうか?

もしかすると、隣国の貴族と取引しているのでは?


まあ、そこまではメルワーレの調べるべき事柄ではない。


問題は、パワープラムの出どころだった。

それさえ判明すれば調査は終了なのだが……どうやら、パワープラムはアロッホがどこかから入手して持ち込んでいるらしい。


パワープラムが育つような土地は限られている。

この近くにそんな物はないはずなのだが。


数日掛けて調合を終えたアロッホは、ベルナス市を出て行く。

メルワーレは後をつけることにした。


森の中に入っていくアロッホ。

たまに振り返って後ろを確認している。

よほど警戒しているようだ。

メルワーレも、常に数本の木を挟み、見失わないギリギリの距離で追跡する。



半日ほど森の中を歩いた後、目的地らしき場所にたどり着いた。


森の中に小川が流れていて、その隣に小屋があった。

丸太を雑に積み上げて、家の形に見えるようにしただけの、掘っ立て小屋だ。


「ここに住んでいるのか? いや……私が調べているのは住処じゃない。パワープラムの出所だ」


果樹園のような物は見当たらない。

入手先はここから遠いのか。あるいは、ここは待ち合わせ場所のような物で、誰かと取引するのか。


メルワーレはちょうど小屋を見張りやすい茂みがあるのを見つけて、そこに隠れた。


隠れてから十分ほど待つが、動きがない。

このまま待ち続けるべきか、小屋の中を確認してみるべきかと焦らされる。


その時、カチン、と頭上で音がした。


……

…………

………………


メルワーレは目を覚ました。


「うっ……しまった、寝ていたか……」


急に眠気が襲ってきて、まずいと思った瞬間には落ちていた。

一時間ほど、時間が過ぎているようだが、それ以外に変化はない。


だが、妙な胸騒ぎがする。


「……」


メルワーレは決意すると、茂みを飛び出し小屋に直進する。

アロッホが小屋から見ている可能性もあったが、いるならそれでいいのだ。

扉を叩きつけるように開ける。

狭い小屋だった。生活感の欠片もない。


水瓶が一つ置かれていて、水で満たされていた。

逆に不自然だ。


肝心のアロッホの姿はどこにもなかった。

逃げられた。


「まだそれほど遠くに入っていないはずだ……追跡しなければ……」


足跡を探す。

用心しているようだが、アロッホは素人だ。

プロの追跡術から逃げられるわけがない。


川の中を歩いて逃げたなら痕跡が残りづらいが、必ずどこかで岸に上がる。その跡を探せばいい。



だが妙な胸騒ぎがした。

いや、胸騒ぎでというか、胸やけのような吐き気が……


「お、おええええええええっ……」


メルワーレは、急にその場で嘔吐してしまい、アロッホが残したかもしれない痕跡を自ら消してしまった。



アロッホがモリソバ駅の駅長室まで戻るとエトルアが待っていた。


「お帰り。成果はあったかしら?」

「ああ。予定の物は手に入ったよ。耐火布とツルハシ……」

「それはよかったわ」

「ただ、なんか、町から誰かにつけられたらしい……」

「ダンジョンの位置はバレていないでしょうね?」

「もちろん。例の小屋がさっそく役に立ったよ……」


アロッホがモリソバ駅のゾンビを駆逐している間、カルナはエトルアの服を縫っていた。


ではエトルアはその間、何をしていたのか。

隠ぺい工作の準備だ。


手が空いたドブリンゾンビを引き連れて、カステラ駅の外で木を切り倒し、丸太で小屋を作る練習をした。

そして、その時の情報をダンジョン端末に入力。


その結果、前回のアップキープの時に、モリソバ駅の出入り口はログハウス風の外観に変化したのだ。

これでも目立つが、前の異質な存在よりはましだ。

人に見られてもまだ言い訳が立つし、扉があるのでゾンビも侵入しにくい。


それだけではない。

練習用の丸太小屋は解体し、素材を地下鉄で搬送。

モリソバ駅から五キロほど離れた森の中に、小規模ながらも建て直した。


ツルハシを手に入れるために、アロッホはベルナス市とダンジョンを二往復することになる。

その時に、後をつけられたらどうするか?

その対策がこれだった。


後をつけて来た者はこの小屋が目的地だと勘違いし、そこで追跡をやめてしまう。

これにより、ダンジョンの位置自体を隠ぺいできる。


もっと用心深い相手が来る場合にも備えて、いくつかの対策を取っておいた。


植物を早く成長させる薬を作って、わざと監視に都合のいい茂みを作る。

その上に、睡眠ガスの発生装置を仕掛けておく。

追跡者が定位置についたことが確認出来たら、小屋の中から遠隔起動。

これにより、追跡者を眠らせてしまう。


これらは、前回、マキアートの店に行った時に、こっそり調合しておいた物だ。

マキアートは金儲けには詳しいが、錬金術には疎いようで、アロッホが何か調合していても、材料費さえ払っておけば、その目的までは問いただそうとしなかった。


眠っている追跡者には毒を盛っておいた。

別に死ぬような毒ではない。だが二、三日は、原因不明の頭痛と吐き気に悩まされるだろう。

追跡をやめて町に帰るしかないはずだ。


「しばらくは、町には行けないな……。まあ、行く用事もないけど」



正直に、ダンジョンドラゴンと仲良くなっただけ、って言ったら見逃してもらえないかな、と思ったけど……

よく考えたら一番無理な奴だった


今見つかったら、軍隊送りこまれて潰されるな


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ