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溶岩


ゾンビの片づけが終わる頃には十分な魔力が溜まっていたらしい。

その翌日にダンジョンアップデートが来た。


カステラ駅は部屋数が増えただけで、大きな変化はなかった。

強いて言うなら、モリソバ駅にあった森の部屋をコピーしたような部屋が追加されたぐらいか。

逆に、モリソバ駅には毒沼が追加されたらしい。


そして、新しい駅も追加された。


「一応、全員で見に行きましょう。今度の駅は、凄いわよ。現地を見て問題がなければ、向こうに引っ越そうと思っているの」


エトルアは楽しそうに言う。


「いきなりカルナも連れてって大丈夫か?」

「ダンジョンの中にいる限りは問題ないんじゃないかしら?」

「そうか?」


アロッホは少し不安を感じたが、エトルアが大丈夫だと言うならそうなのだろう。


「でもね。なんか向こうのダンジョンの外の様子がおかしいのよ。戦いになるかもしれないから、あの機械の腕はちゃんと持ってきてね」

「あ、ああ」


やっぱり安全ではないのかもしれない。


三人で地下鉄に乗りこむ。

カルナは状況がよくわかっていないのか、バスケットにサンドイッチを用意していた。

もはやピクニック気分だ。


新しい駅は、モリソバ駅とは逆の方向に出現したらしい。

王都から離れたかったアロッホにとっては朗報だった。


「でも、こっちの方向って、地上には何があったかしら?」

「たぶん、国外だよな……カルナは知ってるか?」

「村の外の事はよくわからないんです」


アロッホはそのことはあまり問題に思っていなかった。

実際に行ってみれば大体の事はわかる物だ。


仮に、出た所が他国だったとしても人にダンジョンの存在を知られなければ済む話だ。


「それにしても、どうしてこれが必要だなんて言い出したんだ?」


アロッホは、自分の背中についているメカアームを指さす。

戦闘のために必要だというのは確かだが、正直に言うと、邪魔だ。日常生活ではつけていたくない。

エトルアは真剣な顔で答える。


「実はね、ダンジョン端末から、他の駅の様子を監視する方法がある事に気づいたのよ」

「それは便利だな……じゃあ、ここの様子もわかってたんだろ? 地上はどうなってた?」

「それなんだけど、何か様子がおかしくて……この駅の地上部分だけが見れなかったのよ」

「見れない?」


他の駅から遠隔で見ようとしたからうまくいかなかったのか、と思ったが、そういうわけでもないらしい。


「正確には、外に出る階段の辺りから、暗くて何もわからないの」

「何もわからない、か」


原因を特定するためには現場にいかなければならない。

敵がいるかもしれないから、武装が必要になる。


「やっぱりカルナは留守番させた方が良かったんじゃないかな……」

「私がドラゴンに戻れば時間稼ぎぐらいはできるわよ」


そういう問題ではないのだが。



『次は終点、チキンカリー駅、チキンカリー駅……』


天井からアナウンスが響く。

終点とは何の事だろうとアロッホは思った。前はそんなアナウンスはなかった。

やがて駅に到着した。


『いらはいー』


ホームで待っていたのは、赤い光を放つカタツムリだった。触ると暑そうな気がする。

駅関連の魔物なのかちゃんと帽子をかぶっている。


「ここは、ナメクジの担当じゃないの?」

『はいー』

「まあ、そういうものならそれでいいわ」


カルナが小声で


「あの、ナメクジとカタツムリって、なにか違うんですか?」

「殻を背負ってるか背負ってないか、ぐらいだね」


防御力はカタツムリの方が高いが、そのぶん餌もたくさん食べる、という話を聞いたことがある。


「防御力が高いのね? それなら、今迄みたいに簡単にやられたりはしないはずよ」

「そうか?」

「見て見なさい。この硬い殻をドブリンごときが破壊できると思う」

「うーん……」


一撃でやられていたのが二撃でやられるようになるだけでは、と思ったが、言わないで置いた。


ホームから階段を上がる。


チキンカリー駅は、炎系のダンジョンのようだ。

どこを見ても赤い色の魔物が多い。


赤の他には、黒いトカゲのような魔物がうろついている。


「あなた、もしかして火が吐けたりしない?」


エトルアが芸を要求すると、トカゲは炎を吐いた。


「サラマンダー! やっと手に入ったのね」

「あんまり強くなさそうだけど」

「これでこそ私の眷族よ。これから立派に育て上げて見せるわ」


なんだか知らないが、エトルアが楽しそうでよかった。



しばらく部屋や通路を歩いていると、妙な物を見つけた。

通路の先が壁になっている。

ただの壁ではなく、円形の切り込みのような物があった。中央にはハンドルのような物もある。


「これはたぶん扉ね。壁に円形の穴が開いていて、それを円形の金属で塞いでいるのよ……」

「そうだな。たぶんこのハンドルを……熱っ! なんだこれ!」

「だ、大丈夫ですか? 冷やさないと水膨れになりますよ」


カルナが心配してくれる。

とりあえずメカアームの金属部分を触って手を冷やす。


「なあ。これ開けても大丈夫なやつか? これ向こう側で火事になってたりしないか?」

「ドラゴンは炎を恐れないわ」

「いや、俺達は人間だからな……」


アロッホが言い終わる前にエトルアは、ハンドルを回して扉を開けてしまう。


厚さ数十センチはあろうかと思われる金属の扉は、意外とスムーズに開いていく。

開いた隙間から熱気が漏れ出してくる。


扉の向こうには、赤く輝く灼熱の地獄が広がっていた。


外見としては、カステラ駅に昔あったカエル池の部屋に近い。

ただし、池にたまっているのは水ではなく溶岩。

桟橋は何か未知の金属で作られている。


エトルアは平然としていたが、アロッホとカルナは息を呑んでさがるしかない。


「これ、迂闊に踏み込んだら焼け死ぬんじゃないか?」

「人間ってもろいのね。他に道があるかもしれないから、遠回りして付いてきなさい」


エトルアは平然と溶岩部屋に足を踏み込もうとする。

アロッホは慌てて腕をつかんで止める。


「ちょっと待った! おまえは無事でも、その服は燃えちゃうぞ? 本当にいいのか?」

「えっ……」


エトルアは自分が来ている服を見下ろす。

カルナが作ってくれた簡易なドレスだが、結構気に入っているらしいのを、アロッホは知っていた。


「仕方ないわね。遠回りして別の道を探しましょう」

「そうだな」


扉を閉めて、ようやく一安心で来た。



迂回ルートを探して、ゴチャゴチャしたダンジョン内を歩く。

似たような溶岩部屋は、他にも何か所かあった。


「こういうのって、錬金術で何とかならないのかしら?」

「耐火ポーションなら、一応存在するよ」

「それを飲めば、人間でもあの部屋に入れるのね?」


入れるか入れないかで言えば、入れる。


「でも、今回はそんなの用意してないからな。それに、飲めば俺は炎耐性を得るけど、今着ている服とか装備は燃えちゃうんだよな……」

「でもあなた、この前は、冷気耐性の服が作れるって言ってたじゃない。それなら」

「もちろん炎耐性の服も作れないことはないけど……」


アロッホはちらりとカルナの方を見る。


「では、材料が揃ったら私が作りますね」


カルナは笑顔で答える。


「何にしても、普通の侵入者なら溶岩部屋を突破する事は不可能という事ね。これだけ厳重な防御施設があれば、ドブリンの群れが千匹、いえ、百万匹来たとしても、問題ないわ」


エトルアは楽しそうに言う。

この先に待ち受ける絶望など、知りもせずに。



しばらくダンジョンを歩いて、ようやく入口の階段の所にたどり着いた。


「なんか、暗くないか?」


ダンジョン内は謎の照明によって一定の明るさが保たれている。

それは地上に続く階段の所も同じだ。


しかし、階段の下から上を見上げると、何かがおかしかった。


「何か、大きな物が侵入しているような気がするんだが」

「侵入警報は鳴っていないわ……敵ではないと思うけど……」


警戒しながらも階段を上った三人が見たのは、岩だった。


青みがかった岩の壁が行く手を塞いでいた

落石というよりは、流れ込んだ溶岩が冷えて、この場で固まったようにも見えた。


「え? 何これ?」


エトルアが呆然と声を上げる。

アロッホもカルナも答えを出せず、呆然と岩を見つめるしかなかった。



火傷した時は、まあ何もしないよりは何かで冷やした方がいいんだけど

できれば、ちゃんと流水で冷やした方が……

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