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そのころ王都の貴族たちは


王都の一画、貴族の邸宅が並ぶ地区がある。

その中にバラライム家の邸宅もあった。


ディスオルト・バラライムは、書斎でブゾルゲ茶を飲んでいた。

気を病むことが多い今日この頃、ようやく空いた時間に取れた心休まるひと時だ。


扉を開けてカーネルスが入ってくる。


「帰ったのか、義兄上」

「ああ。今しがたな……酷い目にあったよ」

「何か大事に巻き込まれたと聞いたが……」


三台で出ていった馬車が、二台で帰って来た、というのはディスオルトも既に知っていた。


「山賊に襲われたんだ。馬車を一撃で移動不能にするとは、近頃の山賊は重武装をしているな」

「それは運がなかった」


ディスオルトは、カーネルスに椅子と茶を勧める。


「馬車だけではない、買ったばかりの奴隷も失った。見た目は悪くなかったから期待していたのだが」

「そうか……」

「少し反抗的だからしつけてやろうと思っていたのだが……。買ったその日のうちに失ったのは初めてだよ」


カーネルスは残念そうに言う。


「その奴隷はどうなったのだ?」

「さあ? よほどの事がない限りは、山賊に捕らわれたのだと思うが……」

「それなら、奴隷商人に流れるのでは?」

「冗談はよせ。同じ女を同じ商人から二度買うのか?」

「そんなことになれば、奴隷商人と山賊が裏でつながっている事を疑うべきだな……逆にまともな商人ならそう疑われることを恐れ、山賊を捕縛して、タダで返却してくれるだろう」

「ふん、あまり期待はできんな」

「それなら、まともな商人ではないのだろうな」


だが、まともな商人とは何だろう、とディスオルトは頭の片隅で思う。


奴隷商人は合法的に商品を手に入れようとする。

法律上はそれが可能なようになっている。

しかし、商品扱いされる人間の方からしたら、自分を合法的に売り買いされたいなどとは、さすがに思っていないだろう。


犬や猫ではないのだ。拒否の姿勢も見せるだろう。

それに合法的な書類を揃えようとすれば、どこかで無理が生じる。

だから、何かしらの手段で騙して奴隷化しているのだろう。


もちろんディスオルトとしては、平民がどうなろうが知った事ではない。

しかし、平民に嘘をつく商人が、貴族の前でだけは正直という事があるだろうか。いやない。


奴隷商人など元からまともな人間ではないのだ。

あんなもの、さっさと根絶してしまえばいいと、ディスオルトは常々思っていた。


平民から搾り取る手段など、他にいくらでもある。


「それで? 本題に入ろう。アレをもう探さなくていいとは、どういう事だ? 見つかったわけではないのだろう?」

「むう、それなのだ」


ディスオルトは義兄に魔術通信で、命令を送っていた。

ただし、通信魔術は遠距離にも情報を送ることができるが、送れる文字数が少ないので、大量の情報を送るのに向かない。

どうしてその判断に至ったのか、そこまではまだ伝えていなかった。


「アロッホの部屋にあった持ち物は回収させて管理していた。それが盗まれたのだ」

「そんな物、さっさと燃やしてしまえばよかったのでは?」

「錬金術師協会のやつらがうるさかったのだ。錬金爆弾は軍事物資だから、それを作れる機材は厳密に管理されなければならない、とかなんとか」

「なら、厳密に管理した上で破棄すればよかったのでは……」

「義兄上。これは、そういう話ではないのだ」


そもそも、ディスオルトの目的は証拠隠滅。

正式な手段で破棄しようとすれば「そもそもどうして壊す必要があるのか?」と問われることは必至。

そこで相手を納得させられなければ、芋づる式に悪事が暴かれる事だろう。


証拠隠滅は、頭を使わなければならない。

証拠を消したという証拠を残しては意味がないのだ。

いかにして、頭の弱い人間だけを選び、買収と脅迫で事を進めるかが重要になる。


「それで、アロッホの持ち物が盗まれた事によって、何がわかったのだ?」

「……誰が盗んだと思う?」

「そうだな……アロッホ本人ではないか? ……ああ、なるほど、だから奴はまだ王都にいると?」


そういう事だ。


「正確に言えば、盗んだのは、我らと派閥を違えた貴族の手の物だろう」

「アロッホもそいつらが匿っていると考えたんだな? ……やはりグラッセン公爵か?」

「その可能性が高い」


グラッセン公爵の派閥は、国の南部に領地を持つ貴族たちが集まった物だ。

百年以上にわたり、バラライム家の派閥と対立関係にある。


南部の畑は作物の収穫量が多い。その利権をいつまで経っても手放そうとしない、強欲な集団だ。


「奴らが盗んだとして、その狙いは何だ?」

「ここまで露骨な行動に出るなら、もう毒殺の真相には気づいていると考えていいだろう」

「タイミングを見計らって公開し、こちらを蹴落とすつもりか?」

「他に何かあるか?」

「待てよ? それだとアロッホ本人を匿う理由がないのでは?」

「いや、真実を発表する役目としてアロッホは必要なはずだ。証拠が揃わなくてもこちらを中傷できるし、失敗してもすぐ切り捨てられる」

「それなら、こう考えた方が……」

「あるいは……」


ディスオルトとカーネルスは、見当違いの推論を重ねていく。

もちろん正しい答えなど出るわけがない。


二人の中では、貴族は何をしても許される存在で、アロッホは自分たちを狙って悪評を巻こうとする敵で、真実に価値はなく、錬金術は魔力弱者の手慰みで、バルトリー村近くの国境線は平民が死ぬだけの僻地で、ダンジョンドラゴンは既に討滅が終わった魔物だ。


正解にたどり着ける可能性など万に一つもない。


ディスオルトは頭を振る。


「まったく、対応しなければならない問題が多すぎる……。宮廷魔術師の審問も近いというのに」

「そこは問題ないのだろうな?」


カーネルスは確認するように聞く。

ここまで手を回して、ディスオルトが宮廷魔術師の座を逃したら笑えない。


「抜かりない。この私に勝てる者などいるわけがない」


宮廷魔術師の審問は四年に一度。

次がないとは言わないが、今回を逃したくはない。

前回は、ウィノーラがいなかったが、別の魔術師と争い、負けた。

苦い思い出だ。


実力ではディスオルトが圧倒的に上だった。

実家の権力でもディスオルトの方がわずかに上だった。

だが負けた。


納得できず調査して、わかったことがある。

相手は、賄賂をこちらより一桁多く支払っていた。これでは勝てるわけがない。

だから今回は本当に抜かりなくやった。


逆にウィノーラは愚かだった。

四年後に挑戦すれば、誰の邪魔も入らず宮廷魔術師の座を手に入れられただろうに。


いや、そのころにはまた新たなライバルが生まれているかもしれないが、それは知った事ではない。


「攻撃力、防御力、情報収集、隠密探知……、そして実家の権力と払った賄賂、全てにおいてこの私を上回る魔術師がいるなら、名前をあげてみよ」

「まあ、それは認めるがね」


カーネルスは同意する。

山賊に襲われた時。あの場にいたのが自分ではなくディスオルトだったなら、山賊全てを殺すか捕らえる事もできただろう、と。


毒を盛る前のウィノーラを除けば、この国に、ディスオルトより強い魔術師など存在しない。

これは客観的真実だ。


ディスオルトは思い出して言ってみる。


「そうだ、義兄上、ウィノーラの事だが……結婚してみるつもりはないか?」


カーネルスは、ふん、と鼻を鳴らす。


「ガキに興味はない」

「そんな事を言っているから婚期が遠のくのだ。いいではないか、どうせ結婚しても奴隷商人との関係は切る気がないのだろう」

「だが、奴は男爵階級の出身、結婚するメリットなど……いや……」


カーネルスは少し考えていたが、首を振る。


「やはりそれはないだろう。せめて、もう少し位の高い感じの相手でなければ、貴族として示しがつかない」

「それもそうだな。ま、言ってみただけだ」


ディスオルトはそう言うに留めた。

相手がいつまでも見つからないのも、それはそれで示しがつかないのでは、と思ったのだが、なんか面倒になって来たので、口には出さない。



ウィノーラは自室で洗面器の水面を見ていた。

水面には、ディスオルトとカーネルスが映っている。

馬鹿みたいなやり取りも、全て聞こえていた。


ウィノーラは呆れた顔でため息をつく。


「何これ、価値のある情報が一つも出てこない……」




ストックがなくなったので、一時休載します。

一週間後に再開する予定です。



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