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閉まるドアにご注意ください


二人が最後に訪れたのは、ダンジョンの最下層、ホームだった。


「天井からの水漏れ、まだ残ってるわね」


エトルアが苦々しげに言う。

水はどこかに流れているようだった。アロッホがその流れを目で追っていると、後ろから声がかかった。


『キャクゥ?』


振り返ると、そこに巨大ナメクジがいた。

体はクアンタムブルーに輝いていて、頭の上に黒い帽子を乗せている。何か特別な権限でも持っているのか。


「あれは?」

『ノルゥ?』


なにか質問してきているようだが、言葉が通じない。


「そうか、地下鉄が使えるのね?」

『アルゥ、ヨブゥ……』


エトルアは何かを知っているようだった。会話が成立しているのか怪しいが、ナメクジは、ベルのような物をどこからか取り出し、触手の先でカラカラ鳴らす。


ホームの脇に、何か大きなものがやってきた。

アロッホは最初、それを銀色のナメクジかと思った。

金属でできた箱のような物だ。中は空洞。

縦と奥行きは三メートルほど、長さは十メートルを超える。そんな箱が三つほど繋がっている。

箱の側面にはスライド式の扉がついていて、自動で開いた。


「これは、中に入れる物なのか?」

「地下鉄っていうのよ。スターディアボロスの世界では、これに乗って移動してるらしいわ」

「乗り物なのか? 動力は?」


馬なし馬車を開発しようという試みは、王都の研究所では長年にわたって行われてきたが、どう仮定しても強化馬に引かせた方が便利という結論に落ち着いてきた。

そこを覆せるだけの技術的な根拠がなかった、というのもある。


「これは……電気で動いているんだったかしら?」

「雷系の魔術を動力に?」


アロッホが聞いたこともない技術だ。


二人は地下鉄に乗り込んだ。

中は壁際が座席になっていたり、天井からつり革がぶら下がっていたりする。


「これ、かなり多くの人間を、運ぶことを目的に設計されているな」

「多いって、30人ぐらいかしら?」

「いや……この箱一つで、100人、もしかしたら200人かそれ以上……」

「まさか。そんなに沢山の人が移動する理由なんてそうそうないでしょう?」

「俺もそう思う。どういう目的で作られたんだろう?」


魔神の世界では、それが普通なのだろうか?

扉が自動でしまり、地下鉄はトンネルの中を走り出す。


「このトンネル、一応ダンジョンの一部なんだよな?」

「そのはずよ……」

「ここから侵入者が入ってくるって事はないのか?」


もしそうだとしたら、入口が二つに増えたことになる。それも地上とは真逆の最下層に。


「警備を置かないとまずいかしら?」

「ナメクジしかいないのに?」

「カエル……は池から出てきてくれそうにないわね。いっそ、ドブリンゾンビでも並べようかしら?」

「あれも弱そうなんだよな……武器とか持たせないとダメなんじゃないか?」


使えるリソースの幅が狭すぎる。

解決策が全く思いつかない。


と、エトルアが名案を思い付いたのか目を輝かせる。


「そうだわ! あなたの爆弾を持たせるってどうかしら?」

「やめろ。危なすぎる!」


爆発物を扱うには、それなりの知識が必要だ。

意図しないタイミングで自爆事故を起こされた困る。


「ところでさ、あなた、王都から追放されたって言ってたわよね」


エトルアは急に話を切り出す。


「まあね」

「追放される前は、それなりに優秀な錬金術師だったんでしょう?」

「それほどでもない……」


アロッホは謙遜してそう答えるが、本音ではなんとも言い難い。

国家錬金術師とか狙えるんじゃないかと思った事はある。

生まれが平民ではなく貴族なら、夢ではなかっただろう。


その程度には自分は優秀だと自負していた。


「追放されて悔しいとか、そういう事は思わないわけ?」

「いや……それほどでもないな」

「気にしてないの?」

「追われるのは、よくはないけど……、そもそも、あの国って、貴族じゃないと一定以上は出世できないんだよ。俺は平民の出身だったから、居座っても大した未来があったわけじゃない」

「追放されなかったとしても、遅かれ早かれ出て行ったと?」

「やりたいこともできなかったし、知りたいことを教えてくれる人もいなかったしね」


むしろ、追放されてエトルアに会ってからの方が収穫が多いぐらいだ。


「心残りはないのかしら?」

「うーん、……まあ、ウィノーラはかわいそうだと思うけど……」

「あなたが助けようとした女の子だったかしら? 好きだったの?」

「い、いや……別にそういうわけじゃない。確かにかわいかったけど、まだ子どもだよ」


アロッホが慌てて否定すると、エトルアはおもしろそうに微笑む。


「まあ、私はどっちでもいいんだけど……」

「いや、だからそういう関係だったわけじゃない」

「たまに会いに行きたいって言うなら、送ってあげてもいいわよ」

「いや、別にいいよ」


気にならないと言えば嘘になる。

だが、向こうは向こうで勝手にやっているだろう。邪魔するのもどうなのか。


「遠慮しなくていいのよ。私がドラゴンになって飛べばあっと言う間に……」

「それはいらない」


臨死体験はもうごめんだ。



『次は、モリソバ駅、モリソバ駅』


地下鉄が動き出してから一時間ほどが経った頃、天井から異世界の言葉が響く。

何事かと思っていると、地下鉄は止まり、ドアが開いた。


地下鉄から降りてみる。

そこはホームだった。

カステラ駅のホームに似ているが、少し違うように見えた。天井の水漏れも見当たらない。

別の場所に来ているようだ。


「ここも、ダンジョンなのか?」

「そのはずよ、まずは駅長室を探しましょう」



明日の分で駅長室に行く暇がない事に気づいたけど

まあ、カステラ駅と基本は同じだから省略でいいよね


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