かんごくのゆめのなかで
夜、女子刑務所の監獄の中でこうたろうの母親は眠っていた。
「あんた、こうたろうの母親だろ。」
突然声がして、母親は驚いて体を起こした。布団の横にスーツ姿の男がいた。
「誰?どうやって入ってきたの?」
「天使の後藤だ。こんな檻、簡単に入れるぜ。それより、あんたこうたろうの母親で間違いないな。」
母親は頷いたが、看守が来ないかキョロキョロ見回した。
「大丈夫。誰も俺には気づかないし、お前の声も気づかれない。あんたは息子のことどう思っているんだ?」
母親はうつむいた。
「結婚したせいで…あの子を産んだせいで…私は不幸になった…捕まったときそう思ってた…」
母親はそう言って男をまっすぐ見た。
「でも、刑が確定して実感した。私も自分の息子、広太郎を殺してしまったんだって、バケツに入れたのは私じゃないけどあの子は私に助けを求めてたのに…見殺しにした…最低な母親だわ…」
母親は涙声になった。
「旦那から離婚届が届いたわ。今さら連絡してくるなんて…再婚するんだって…なんで私は幸せになれないんだろ…」
「気休めになるか分からんが、あんたの旦那の再婚は白紙になったぞ。ニュースで大きく報道されていたお陰で相手の家族に虐待死した子供の蒸発した父親だってバレたらしい。」
「…ざまぁみろ。」
母親は目線を落とし、少し笑った。
「広太郎に謝りたい…あの子の顔が見たい…本当にかわいかったのに…旦那が出ていって寂しかった…1人であの子を育てる自信もなかった…だから忠の言うことを聞いていたのよね…広太郎を犠牲にしてまで…バカだった…広太郎を守らなきゃいけなかったのに…もっと強くならなきゃいけなかったのに…」
忠は母親の交際相手で、こうたろうを虐待死させた『あいつ』のことだ。母親は天を仰いだ。
「謝っても許してもらえないわ…もう謝れないけど。全て手遅れね。」
「謝れるさ。こうたろう、出ておいで。」
おっちゃんの後ろからこうたろうが現れた。母親はビックリして固まってしまったが、目から涙が溢れた。
「ママ…」
こうたろうは恐る恐る呼んだ。
「…ゴメンね…こんな私でもまだママって呼んでくれるなんて…広太郎…死んだはずじゃ…」
「天国から連れてきた。こうたろうはもう1度だけあんたに会いたいって俺に頼んできた。」
「ママー!」
こうたろうが母親に抱きついた。2人とも抱き合ってわあわあ泣き叫んだ。
「ゴメンね…ママのこと許せないよね…ママも許せないんだよ…」
「罪をしっかり償ってくれ。そしてしっかり生きてくれ。こうたろうに恥じないように。こんなあんたでもこの子は“ママ”って呼んだんだぞ。」
母親はこうたろうを抱きしめながら頷いた。
「ママ…またぎゅうしてくれてうれしかったよ…ママ大好き…」
こうたろうが笑顔で母親に言った。
「起きろ!」
朝になり看守が起こしに来た。母親はハッと目を開けた。こうたろうも後藤の姿もない。
「夢…?」
そう呟いたが頬が濡れているのに気づいた。体にはこうたろうを抱いていた温もりがまだ残っていた。
母親はその温もりを抱きしめると、目が潤んできた。
「広太郎…」
「おっちゃん、ありがとう。」
『おそら』に戻ってきたこうたろうがおっちゃんに言った。
「僕、おっちゃんのことママの次に好きだよ。」
こうたろうがニカっと笑った。
おっちゃんはうれしそうにこうたろうの頭をなでて、
「そっか、お前が笑顔になって良かった。」
と笑った。
れんとが2人に近づいてきた。
「れんともな、お前と同じような理由でここに来たんだ。れんとはもう生きていたときのことを思い出したんだが、弟のたいがとせっかく仲良くなったこうたろうとまだ遊びたいって言ってここに残っているんだ。」
そう言っておっちゃんはこうたろうの背中を押した。
こうたろうはれんとに向かって走っていった。




