さとー
『おそら』には昼と夜の区別がない。
ひかりは遊んだり、お勉強したり、お昼寝したり過ごしていた。ひかりは円を描けるようになった。
こうたろうはあれからずっと1人で積み木を積んだりうずくまったりだった。れんとが誘っても首を横に振るだけだった。
ひかりたちがお昼寝していると『おそら』に1人の男が現れた。スーツを着た中肉中背の若い男だ。
「ごっさん、久しぶり。」
おっちゃんに近づいて来た。
「佐藤か、久しぶりだな。何のようだ?」
佐藤は辺りを見回した。ひかりを含めたほとんどの子供たちはお昼寝中だった。
「最近、ここに来る子供が増えてきたって聞いたから来てみただけ。」
「手伝いじゃないなら仕事に戻れ。」
おっちゃんは腕組みをして佐藤を睨んで言った。
「なんで俺には冷たいんだよ。子供たちには優しいのにな。そうだ、例の子、見つかったって?」
「ああ、2年もかかってしまったがようやくな。」
「どの子?」
「あのレースの白いワンピースの子。」
「片方だけ靴下履いてる子ね。で、この間穴掘ったって子、どうするって?」
おっちゃんは遠くの方でポツンと1人で寝ているこうたろうを眺めながら、
「分からない。仕方ないだろ、まだあんなに小さいんだ。思い出してしまった事実が重すぎる…大人でも自分で決めろって言われても悩んでしまう…」
「甘くないか?子供とはいえ乗り越えてくれなきゃ。」
「そんな簡単な問題じゃないんだ。」
おっちゃんがうつむいた。佐藤がポケットから四角くて平べったいものを取り出した。
「これ、“スマートフォン”っていうんだって。ちょっと前にここでも話題になった、携帯電話の進化したやつみたいだ。下界はめっちゃ便利な生活になっているぜ。電話とメール以外でもアプリとかで人と繋がれる。それなのに何でここに来る子供が増えるんだ?」
おっちゃんが顔を上げて悲しそうな言った。
「便利なものを手に入れてしまって代わりにもっと大事なものを失ってしまっているのかもな。本当の人との繋がり、絆ってやつだ。」
「で、虐待し子供が死んでここに来る…」
「全員が虐待でここに来たんじゃない!」
小声だがおっちゃんが怒った口調になった。
「えーっと、“生前、親の愛情がもっと欲しいと思いながら死んでしまった赤ちゃんから子供の魂”だっけ?」
「…そうだ。もう用がないなら行ってくれ。」
おっちゃんは頭をうなだれた。
「…また来るわ。」
そう言って佐藤は消えた。
こうたろうが寝返りを打って、
「ママ…」
と呟いた。目から涙がこぼれた。




