あな
初めておやつのクッキーを食べて満足になったひかりは、せいらとさくらと一緒にフカフカした床に転がりながら遊んでいるといつの間にか3人とも寝てしまっていた。
「やれやれ…」
おっちゃんは3人の体にブランケットをかけてあげ、ふと顔を見上げると、離れた場所でこうたろうが1人床を掘っていた。こうたろうは掘って穴の空いた所をじっとのぞきこんでいた。
「こうたろう…」
おっちゃんがこうたろうに近づいて頭にポンと手をおいた。
「お前…思い出したのか?」
今にも泣き出しそうな顔をしたこうたろうは頷いた。穴からはマンションの1室と思われる部屋の中が見えた。部屋にはタバコの吸殻や飲み終わったビールの缶や食べかけの弁当などが散乱していた。ベランダにはゴミが山積みだった。
「もう誰もいないんだよ…」
「…ママは?」
「ここにはいない。」
こうたろうは泣き出した。泣き声を聞いたひかりたちも目を覚ました。
「大丈夫だ。ちょっと行こうか。」
おっちゃんはこうたろうを抱き上げてどこかへ行ってしまった。
ひかりたちはおっちゃんの歩いていった方を呆然と眺めていた。
れんとたいがも寄ってきた。
「こうたろうどこかへ行っちゃうのかな?」
たいががボソッと呟いた。
「おっちゃんと帰ってくるよ!」
れんとが強く言った。
「帰ってこないかもね。」
さくらが言った。
「だってこの前、のあって子が穴掘ったあといなくなっちゃったんだもん。」
ひかりとせいらはこうたろうが掘った穴の方へ行って中をのぞきこもうとすると、
「こら、危ないぞー。」
こうたろうを抱いておっちゃんが戻ってきた。こうたろうは泣き止んでいた。
おっちゃんはこうたろうを降ろし、穴を両手で覆った。おっちゃんが手を離すと穴がなくなっていた。
「さあ、お前たち。遊んでおいで。」
おっちゃんがニッコリ笑って言ったが少し寂しそうだった。
「こうたろう、行こう。」
れんとがこうたろうを呼んだが、こうたろうは下を向いたままじっとしていた。
「どうしたの?遊ぼうよ。」
たいががこうたろうの手を引っ張ったがびくともしない。
「しばらくそっとしてやってくれ。」
おっちゃんがれんととたいがをおもちゃ箱の方へ促した。
そのやり取りを眺めていた ひかりはポカンとして突っ立っていたが、せいらに、
「ひかり、なにして遊ぼうか?」
と声をかけてきた。
「さくらも一緒に遊ぶ!ボールしようよ。」
さくらは少し離れたボールを指さしていった。
「じゃあボールしよう。」
せいらがボールを取りに行って、ひかりの方へ転がしてくれた。
「こっちだよ。」
さくらが手招きして転がす真似をした。
ひかりはさくらの方へボールを転がした。
「上手だ。」
おっちゃんはニコニコしながら3人がボール遊びをしているのを眺めていたが、またこうたろうとどこかへ行ってしまった。