おもいで
お昼寝から起きたひかりはあたりをキョロキョロ見回した。
みんなスヤスヤと眠っていた。
遊ぶ相手がいないのでひかりはふらふら歩き出した。しばらくするとひかりの身長よりも少し小さいウサギの人形が入ったおもちゃ箱を見つけた。
ひかりは箱の底の方にある人形を取ろうと手を伸ばしたが、
「あっ! 」
と言ってひかりはおもちゃ箱の中へ落ちてしまった。
幸いおもちゃ箱の底は浅く、人形がクッションになったお陰でひかりにケガはなかった。
おもちゃ箱はひかりが立ち上がれば容易に出られる大きさだったが、ひかりはそのままおもちゃ箱の底で体を丸めてじっとしていた。
腕や脚に箱の壁が当たって狭さを感じていたが、懐かしいような、妙に気持ちが落ち着いた。
『こうやって、体をきゅうっと丸くしてたこと、あった気がする…』
今日の『おそら』の当番はおっちゃんと瀬藤だった。
「後藤さん!」
瀬藤は慌てた様子でそうたにミルクをあげているおっちゃんのもとへ走ってきた。
「ひかり、見ませんでした?」
瀬藤は息を切らしていた。
「見てないけど、いないのか?」
瀬藤はパニック寸前だった。
「ブランケットだけ落ちてたんです…他の子たちも知らないって…まさか『おそら』から出てしまったんじゃ…」
おっちゃんはそんな瀬藤の様子を見ても冷静だった。
「『おそら』を自由に出入りできるのは俺たち天使だけだ。だから、絶対『おそら』にいる。」
おっちゃんはそうたをゆりかごに寝かせて歩き出した。瀬藤もついて行った。
「でも、どこにもいないんですよ?!」
おっちゃんは近くにあったおもちゃ箱の中を覗きこんで、
「おもちゃ箱は見てないのか?」
と聞いた。瀬藤はビックリして、
「見てませんけど…まさか…かくれんぼとかですか?」
と聞いた。
「ここにはいない…他も確認しよう。」
おっちゃんは別のおもちゃ箱を見つけ、中を覗いた。
「ほれ、いたぞ!」
瀬藤も慌てて近寄ってきた。
「あ、本当だ!後藤さん、ありがとうございます!でも何でこんなところで寝ているんだ。」
ひかりはおもちゃ箱の底で人形を抱きしめて体を丸めた状態で寝てしまっていた。
おっちゃんは寝ているひかりを抱き上げた。
「体はちゃんと覚えているんだ…母親の子宮にいたころのことをな。」
瀬藤も納得した。
ひかりはとても気持ち良さそうな、しあわせそうな顔をしていた。
「時々、おもちゃ箱の底でこうやって眠っている子がいるんだ。」
おっちゃんがひかりを床に寝かしながら言った。
「生前の一番幸せだったころの思い出だったからだろうな。」




