ママってなに
「ひかりちゃん、ねんねしてるのかしら?」
女の人の声だった。
「動いていないのか?」
男の人が尋ねた。
「えぇ、今日は大人しいわね。」
女の人が答えた。
「苦しいのだろうか…」
男の人が心配そうな声で言った。
「昨日はすごく動いてたのよ。グルグルって。」
女の人の声は明るかった。
「大丈夫よ。この子もきっと頑張っているんだから。私たちが信じなきゃ…あっ!動いた!」
ひかりは目を覚ました。ちょうどブランケットを思いっきり蹴ったところだった。
また、女の人と男の人が話している夢を見ていた。
起き上がってキョロキョロ見回すと離れたところでさくらが積み木で遊んでいるのが見えた。
さくらの方へ駆け寄って一緒に遊んだ。
さくらがふとひかりに尋ねた。
「ひかりはママのこと覚えているの?」
ひかりはキョトンとした。
「ママ?」
さくらは慌てて、
「何でもないの!気にしないで!赤いの取って。」
と言った。
ひかりはさくらに赤い積み木を渡した。
「お城できたよ。」
さくらはニッコリ笑って言った。
ひかりはお勉強のときもぼーっと考えていた。
『ママって何?』
せいらもママのことで何か言っていたのを思い出した。
『せいらはママがぎゅうしてくれるの好きなの。温かくて、柔らかくて気持ちいいの。』
『ママはね『痛い、痛い』って言いながらせいらを産んでくれたの。』
ひかりにはまだよく分からなかった。
しかし、何か特別な、とても大切なことのような気がしてならなかった。
「ひかりちゃん、どうしたの?」
お菓子を配りながら前田がひかりの顔を覗きこんだ。ひかりの大好きなクッキーだったが、ひかりは気づかなかったので、前田は心配になった。
「あの…えーっと…」
ひかりは口ごもった。
「ママって何?」と前田に聞こうとした時、かいが前田におかわりを要求したので聞きそびれてしまった。
「ひかりちゃん、やっぱり変です。」
前田がおっちゃんに言った。
「点同士がバラバラで線に結びついていないという感じです。」
「そっか…」
おっちゃんはしばらく黙りこんでしまった。
「今はそっとしておくのが一番なのかもしれませんね。」
前田が言った。
「俺は…あの子をここに連れてきたのは正解だったのだろうか…」
おっちゃんはそう呟いた。前田も黙ってしまった。2人とも黙ったまま遠くで遊んでいるひかりを見つめていた。ひかりはケロっとした顔でいくみとお人形で遊んでいた。




