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俺と知らないおっさん、同時撃破必須の二人組魔法少女になる  作者: 私はかき氷
片道切符の同盟

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8/10

8『頭のおかしい先輩魔法少女』

七瀬視点

「どうしましょう……全然、追いつけません……っ!」


かっこつけてビルの窓から飛び降りたのはいいものの、天空を駆けるグリフォンとの距離は開く一方だった。

必死に走ってはいるが、300メートルはある絶望的な距離は一向に縮まらない。


「身体能力は、彼方くんの方が上でしたよね……!」


彼は私のワイヤーを通してしか電気を流せない。つまり、私が傍にいなければ彼には攻撃手段がないのだ。


だからこそ、戦闘用の身体能力は彼方くんに大きく振り分けられた。

一つの魔法少女の力を男二人で分かち合っている弊害が、この最悪なタイミングで牙を剥いている。


「……方法は、一つ」


肺を焼くような息を吐き出しながら、私は顔を上げた。


「アメコミの、あの親愛なる隣人のように……空中を跳ぶ!」


ワイヤーをビルの屋上や構造物に引っ掛け、振り子の原理で加速しながら立体的に空間を駆ける。

幸い、ここはコンクリートジャングルの東京だ。足場には困らない。


「私だって男です! 子供の頃、誰もが一度は憧れた芸当でしょう……!」


覚悟を決め、細く白い腕を前方へ突き出す。

手のひらから射出されたワイヤーが、ビルのコンクリートを砕いて深々と突き刺さる手応え。よし、いける!


直後、強烈なGが少女の華奢な肉体をさらい、振り子のように大きな弧を描いて私は虚空へと放り出された。


「うわあああああああああああああああ!!!???」


地上20メートル。文字通り「地に足がつかない」未知の恐怖に、おじさんの理性が完全なパニックを起こす。

美少女の甲高い悲鳴をあげながら、空中で身体が完全にフリーズした。


早く、次のワイヤーを出さなければ地面に激突する。

死に物狂いで手のひらを突き出すが、放たれた銀線は虚しく空を切るだけ。


――あ。


射出した先には、ただ、どこまでも残酷に晴れ渡った青空が広がっていた。

視界が激しく回転する。


私は一体、何をやっているのだろう。魔法の力を授かったことで、分不相応な万能感にでも浸っていたのか。

冷静に考えてみれば、アラフォーのおじさんが空を飛ぼうだなんて、ただの手の込んだ自殺じゃないか。


耳元でカミィの嘲笑う声が聞こえた気がした。

ギュッと目を瞑り、コンクリートに叩きつけられる肉体の痛みを覚悟する。


しかし、私を襲ったのは、骨を砕く衝撃ではなかった。

ふわり、と重力から解放されるような浮遊感。私の華奢な身体を優しく受け止める、お姫様抱っこの感触だった。


閉じた瞳をゆっくりと開く。

目に映ったのは黒髪に琥珀色の瞳――ではなく、銀髪赤目の魔法少女だった。

彼女のことは知っている。ニュースで何度も目にした魔法少女・ノーラだ。


「お姫様抱っこされる趣味でもあるの?」


「ち、違います! 今回も前回も不可抗力です!」


「このままお姫様抱っこで自衛隊のところに連れていきたいんだけど、そんな暇もなさそうだね」


助かった。

先ほどからノーラさんの腕の中から逃れようとイモムシのようにもがいているのだが、抜け出せる気配は一つもなかった。


暴れるたびにノーラさんの力が強まり、私の体が悲鳴を上げる。


「どうどう、暴れない暴れない」


「もう暴れてませんから! 力を緩めてくださいっ!」


「魔法少女なのに力が弱いね……」


ノーラさんが私のことを地面に下ろす。

そして、どこからともなく血のように赤い大鎌を取り出した。


「じゃあ私はグリフォンを倒しにいくから、シルバちゃんは逃げないでね」


「シルバ……ああ、私のことか。私も戦います!」


「助かる。私、飛行生物の相手は苦手だから」


そう言うや否や、ノーラさんは弾丸のような速度で空を切り裂いた。

音を立てることなく、居並ぶビルを蹴って天高く飛ぶグリフォンへと肉薄する。


ノーラさんが振り上げた大鎌の刃に、日光が不気味に反射する。振り抜かれた刃は、グリフォンが高度を上げたことで回避された。

ノーラさんは「ちぇっ」と言った顔で重力に引っ張られ、アスファルトに着地する。間髪入れずに大鎌を振るい、上空に向かって斬撃を放つ。


グリフォンは鬱陶しそうに鳴きながら翼を動かす。

深紅の斬撃はグリフォンを通り過ぎ、やがて見えなくなる。


『グルァア!』


グリフォンの咆哮が響くと同時、地上を三筋の竜巻が襲った。三方向からノーラさんを襲う。

幸い、私はグリフォンに脅威とみなされていないのか竜巻に襲われることはなかった。


「ちっ……めんどうだな……いや、いいこと思いついた」


ノーラさんは悪態をついた直後、何かに閃いたような表情をした。

そして、あろうことか竜巻に向かって猛進する。


竜巻を切り裂く――わけでもなく、そのまま中に飛び込んでいった。


「うわあああああああああああああああ!!!???」


「ノーラさん!?」


激しい風の音に混じって、ノーラさんの悲鳴が響く。その声はぐるぐると回転しながら、見る間に上空へと遠ざかっていった。


「――あー! 死ぬかと思った!」


呆気に取られる私をよそに、竜巻の頂点からひょっこりとノーラさんが顔を出す。

彼女は渦巻く猛烈な上昇気流をエレベーター代わりに利用し、一気に空高くへと上り詰めたのだ。


グリフォンが、目をまん丸にして口をぽかーんと開ける。

どうやら怪物も驚くらしい。


ノーラさんが空中で体勢を整え、グリフォン目掛けて落下攻撃を披露する。


『アギャッ!?』


情けない声とともに、グリフォンの鮮血が落ちた。


「致命傷ではないか……残念」


直前でグリフォンがなんとか回避行動を取ったのだ。

髪をボサボサにし、白のロングコートを汚れまみれにしたノーラさんが悔しそうに呟いた。


「……これ、私も戦う必要ありますか?」


「あるよ。シルバちゃんがグリフォンの動きを少しでも鈍らせてくれたら楽になる」


「ワイヤーを当てられる自信がないのですが……」


「巨大なケージを作れないかな?」


なるほど。確かにグリフォンの動きを大幅に制限できるだろう。

仮に作れたとしてグリフォンの体当たりで破壊されないかどうかと、そもそも実現可能なのかどうかは別として。

ともかく、やってみなければ分からない。グリフォンを円の中心として、極太のワイヤーを地面から何本も生やす。


ケージが完成するよりも早くグリフォンが範囲内から逃げないよう、ノーラさんが何度も斬撃を飛ばしてグリフォンの動きを妨害する。

ワイヤーの柱が垂直でないのか、途中でワイヤー同士が衝突するアクシデントが起きてしまう。――いや、そのまま編み込め!


脳を並列思考で引き裂きながら、私は無理やりワイヤーを交差させ、巨大な檻へと変形させていく。


「でき、ました……っ!」


右手と左手、両手で同時に別々の漢字を書いているような、脳を焼く感覚。

それに魔力切れの症状が合わさって、どうしようもないほどの頭痛が私を襲う。


「ありがとう。すごく楽になったよ」


ノーラさんが満足そうに微笑む。


「グリフォンを倒すのも……シルバちゃんを捕まえるのも」

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