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魔王の決断と暗躍する魔王軍③

2人の話しは夜が明けるまで続いた。

詰めなければいけない内容は大きく分けて二つあった。



一つ目の問題はアウラとの魔王交代、それに伴いゼノンが命を落とす事を他の四天王や魔族達が認めるのかという問題。



二つ目の問題、この事に関して民衆の納得をどう得るかという問題だった。



魔王ゼノンは今までの功績とカリスマ性から、部下達や民衆からかなり慕われている。



そんな魔王が勇者に討伐されたとなると、共存どころか全面戦争になる可能性極めて高い。



この一つ目の問題に関してはゼノンの一言ですぐに片付いた。





「とりあえず、俺の考えを話して納得できない奴は全員ぶっ飛ばせば問題ないな。」



普通に考えたらその思考こそ大問題なのだが、ここは魔王軍。



こういう時は、強い奴が正義という暗黙の了解がある。

【命を懸けて語り合えば何事も丸く収まる】という事実は、今までの歴史が物語っていた。



冷静なアウラなら止めるかと思われるが、元々武闘派のアウラはこの案に異を唱えることなくそのまま採用された。



そうなると最大の懸念が民衆をどう納得させるかだが、これに関してもゼノンには一つの案があった。




「魔王ゼノンは裏では傍若無人の無能だったというのはどうだ?」




ゼノンの案に対してあまりピンときていないアウラは首を捻る。




「例えばだが、今まで表立って働いていたのはアウラを筆頭に四天王や他の魔族達だ。魔王は指示を出すだけで特に何もしない。収めた税を還元することなく、自身の贅沢に使っていたとなったらお前はどう思う?」




「それは裏切られたと思って不満に思うかもしれませんが。」




「そういった噂を色々な場所で流す。最初は小さい煙かもしれないが、噂話は大きくなって広まるものだ。徐々に民衆は疑問や不満を持ち始めるだろう。」




火のないところに煙は立たない。

実の所、魔王ゼノンの支持率は100%ではない。家族を失った魔族や生活が苦しい魔族は、ゼノンに対して少なからず不満を持っている。



最初はその一割程の不支持層に噂を流す。ゼノンの予想ではかなり早く周囲にこの噂は流れると考えていた。




「そうですね。その方法なら多少なりとも魔王様に対する不信感を抱かせることはできそうですが、結局噂だけでは直ぐに消えてあまり意味をなさないような気もしますが?」



人の噂も七十五日という。

自然に消えたなら意味はなくなってしまう。




「あくまで噂を流すのは最初のステップだ。程よく民衆の不信感が高まった頃に税の徴収と増税を行う。」




「増税は分かりますが税の徴収ですか?どこかと戦争をする訳でもないのに?」



今まで税の変動はあまりしてこなかったが、不作なら減税、豊作なら増税とその時に応じて税が変わったことは何度かあった。



今年は豊作の年になるので増税する意味はある。多少の不満は出るだろうが民衆も納得するだろう。



そこまで考えたアウラは気づく。




「戦争でもないのに徴税する事に意味があるのですね。」




アウラが自身の真意に気づいたと分かるとゼノンは笑みを浮かべた。




「そういうことだ。理解のできない徴税に対して民衆の不満は一気に高まる。そうすると増税に対しても疑問が出るだろう。」



「これなら自然に民衆のヘイトを増やすことができますね。」




シンプルだからこそ、民衆達のヘイトを一気に増加させる事ができる。しかもこれなら時間をかけることなく、すぐにでも実行できる点も良案と言えるだろう。




「あ、ちなみに回収した勢は城の保管庫に全て置いとくから、頃合いを見て返しといてくれ。」




「かしこまりました。ですがもう一押し欲しいですね……例えば自分達の税が目に見える形で使われていて、それに対して全く納得がいかなければ民衆の不満は最大限に高まるかと。」




とどめの一手を提案したアウラに対してゼノンはすぐに回答した。




「税を集めると同時に城の改修を行うつもりだ。」




集められた税で魔王城の改修工事が行われる。これ以上ない不満を民衆は抱くことになるだろう。



大して働かない魔王が自分達から税を搾り取り、家を綺麗にしようとする。



納得できる人の方が少ないだろう。



「当然税は使わないがな。俺の私財と魔法を使うから一人でやるし、材料は適当に森から調達するから心配ないぞ。」




この魔王城先代の頃からボロボロで、壁のひび割れや雨漏りもかなりあった。

基本的に城に居るのは自分だけだったので、修繕を後回しにしていたのだが、丁度いい機会なので新築のように綺麗にしてアウラ達に渡そうと考えていた。




「そんな!私達も手伝います。」




「馬鹿か。そんな姿見られたら民衆の不満がお前達にもいくだろう。材料の運搬とかは業者を使って魔王が勝手にやってるアピールをする。」




馬鹿と言われて少し拗ねた様子を見せたがゼノンは気にせず続けた。




「城の改修も終わり民衆の不満が最高潮に高まった頃に、アーサーが魔王討伐に戻ってくる予定だ。そこでお前達も合流して民衆達の不満を全て汲み取り、勇者と四天王初めとする魔王軍が共闘して、最悪の魔王ゼノンを討伐するという流れだ。」




そこまで聞いてアウラは気づいた。




「それってまさか……魔族領でクーデターを起こすということですか?」




「そういうことだ。これなら自然と勇者討伐と魔王の交代が進められるだろう。」




「確かにそうかも知れませんが貴方様はそれで良いのですか!?ここまで身を粉にしながら民の為に働いた貴方様が、最期は民衆に恨まれながらこの世を去るなんて……」




「別にいいさ。それが人魔共存の道になっていくなら、俺は喜んでこの命を差し出すさ。」




「やはり貴方様は最高の魔王様ですよ……」




「最凶の間違いだろう?」




涙を流すアウラと優しく微笑む魔王ゼノン。対象的な感情の二人だが部屋の雰囲気は悪くなかった。



(この人の後の魔王は大変だな……)




そんな事を思いながら飲む酒は、アウラにとって生涯忘れることのない大切な一ページとなったのだった。






そして、その翌日からはさらに怒涛の日々となった。



魔王交代と同時に自身が死を選ぶことを他の四天王や魔族に打ち明けると、当然の如く猛反対にあったゼノン。



話し合いで分かってくれた者もいたが、七割以上は納得せず一人一人との決闘に発展。



休むことなく全員と戦ったゼノンはほとんど無傷で圧勝。



勝者の言うことは聞くという魔族の暗黙のルールによって渋々納得する者もいたが、四天王を始めとする一部の魔族はそれでも必死に止めようとした。



しかし、アウラの時と同じように自身の全てをさらけ出すと、皆止めることを諦めた。



泣き出すものも多くおり、その雰囲気に耐えられなくなったゼノンは大宴会を敢行した。



酒が入ると皆各々の思いをゼノンにぶつけた。ゼノンも一人一人と語らいそれを受け止めた。



宴会が終わる頃には、残り少ない魔王様との時間を最高のものにすると気合いを入れ直し、翌日から魔王軍の暗躍が始まった。





────とある酒場での出来事




酒の匂いが充満するこの場所には色々な情報が飛び交う。

ならず者から兵士まで集うこの場所にとって、噂話は最高の酒の肴であった。




「隣いいかい?」




「ああ……あんた見ない顔だな。」




「俺は軍で働いていてね。命令があればどこにでも行かなきゃならなくてさ、さっき街に戻ってきたんだ。」



「へぇ。魔王軍も大変なんだな。その割には魔王様を外であまり見ないが?」



「まぁ、あのお方は命令だけ出して後は何もしないからな。たまったもんじゃないぜ、失敗したら現場のせいで成功したらトップの手柄だからな。」



「魔王様ってそんな感じだったのか?四天王の時は率先して働いてたのに上に立つと変わるんだな。」




この噂話は日に日に大きくなり、二週間もしないうちに街全域に拡がっていった。



最初は一割程だった不支持層もすぐに三割程まで高まった。






────魔王城



「……以上が報告となります。」




「ご苦労。思ったより順調だな。」




アウラからの報告を受けたゼノンは現状に満足していた。



アーサーが魔族領を出て三週間。そろそろ王都に着く頃合いでもあった。




「次のステップだな。とりあえず来週からの増税と臨時徴税の話しを流してくれ。」




「かしこまりました。魔王様の今後の動きはどうされますか?」




少し考えてからゼノンは答えた。




「とりあえず改修工事に必要な材料を取ってくる。まぁバレないように夜中に動くがな。民衆の不満が更に高まった頃、派手に改修工事を始めるさ。」



そんな話しをしている時だった。

机に置いてあった鏡型の魔道具が光り輝く。




「そちらは?」




見たこともない魔道具に興味津々なアウラ。



その姿を見て少し笑いそうになったが、そこは耐え表情を崩さずにゼノンは答える。




「これは映写機と呼ばれる魔道具でな。対になっているペンダントがある空間を映し出す効果があるのだ。」




光が収まると映っていたのは煌びやかな部屋であった。

王冠を被った男性が椅子に座り、その両隣にはドレスで着飾っている女性が二人。

対面するような形で男が膝を着いて頭を下げていた。




「これは勇者ですか?」




「そうだな。アーサーに渡した母の形見が対となる魔道具で、旅立つ前に渡しておいたのだ。どうやら王都に着いて今から会談が始まるようだな。」




ゼノンはそう言うと一度指パッチンをする。



すると部屋の壁に映像が映し出され、それと同時に声も聞こえるようになった。



これから始まる会談を二人は静かに見守ることにした。

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