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魔王の決断と暗躍する魔王軍②

沈黙の後、先に言葉を発したのはアウラの方だった。




「すいません。さすがに冗談でも言っていいことと、悪いことがありますよ?」




言葉は丁寧だが、その声には静かな怒りが感じ取れる。




「知らないのか?俺は冗談を言うのは苦手なタイプだ。」




ゼノンが軽く返した瞬間、アウラの身体から魔力が溢れ出し爆発した。




その影響で執務に使う机にあった書類達が吹き飛ばされ、部屋中に散らばってしまった。




「さすがの魔力量だ。止めたいならそのまま俺と一戦やるか?勝った方が相手の言うことを聞く。実にシンプルで分かりやすいじゃないか。」




ゼノンが指パッチンすると散らばった書類達が浮かび上がり、元あった机の上に綺麗に集まっていく。




「.........あなたはずるい人だ。」




アウラは悲しそうにそう言葉を漏らすと、自身の魔力を抑えた。





「なんだつまらん。」




「前回手も足も出なかったんです。今更貴方に挑むのは無意味ですから。」




実はこのアウラ。

穏健派筆頭で今でこそ人魔共存の為に働いているが、以前は鬼神族の代表として過激派を導いていた男であった。



以前魔王ゼノンの考えに疑問を抱いたアウラは、たった一人で戦いを挑んだ。



結果は瞬殺。その際魔王ゼノンの考えを聞き、自身の考えに揺らぎが出た。



『力こそ正義。圧倒的な支配が世界を平和に導く。』



アウラは本気で魔王軍が世界を支配すれば、魔族が幸せになると考え動いていた。



しかし目の前にいる魔王は、誰より強い力を持っているのに争いのない世界を作りたいと言っている。



今までこんな人は見た事なかった。だからこそ、この人の元でこれまで以上に働きたいと思ったのだった。



そんな葛藤を知ってか知らずかゼノンは一言。




「俺が勝ったから何でも一つ言うことを聞け。今日からお前は穏健派となり四天王の一人として俺を支えろ。」




アウラは呆気にとられた。

つい先程まで相手にならなかったとはいえ、自分の命を狙っていた者を懐に収めようと言うのだ。




「何故!?私は先程まで貴方様の命を」




「だってお前本当は優しいやつだろ?孤児院の子供に差し入れしたり、街に行っては住民の悩みを聞いて解決しようと動いてるだろ?」




その言葉を聞いた時アウラなんとも言えない気持ちになった。




(そんなことまで調べていたのか?今まで会話も殆どしたことないのに。)




どんな相手にも寄り添おうとするゼノンの姿を見て、

「この人に一生ついて行こうと思い」アウラは四天王になったのだった。





「そういう所がお前のいい所だアウラ。心はどんなに熱くなろうと、頭は何時だって冷静さを失わない。お前なら安心して次の魔王を託す事が出来る。」




「そのお言葉は嬉しいです。しかし貴方が死を選ぶ意味が分からない!それにあろうことか勇者に討伐されるなんて!!争いの種にしかならないことが、分からない貴方様ではないはずです!!」




アウラは魔王の考えを改めさせるのに必死だった。戦って勝てないなら言葉で分かってもらうしかない。



ゼノンが言ったようにアウラは非常にクレバーな男であった。

しかし、自らが納得したならば必ず自分の力になることを知っていたゼノンは、包み隠さず自身の考えと今後について打ち明けた。




「ここからは俺の考えを話す。アーサーにも話したことがない初めて話すことだ。まずは座ろうか。」




その真剣な表情を見たアウラはさらに冷静になる為に、椅子に座ると深呼吸をする。



新鮮な空気が肺を膨らませ一気に外に放出される。酸素が全身に行き渡ることで更に落ち着くことができた。




「まず魔王ゼノンは王国側からすれば恐怖の対象だ。それは分かるか?」




「それは理解できます。何度か姿を隠して王国にも入りましたから。」




これは何十年、何百年と続くことであった。



「だが逆はどうだ?俺たち魔族が奴らを恐れ、勇者討伐や王族討伐なんてしたことないだろ?」




「確かにそうですね。」




「この問題実は簡単でな。魔族は特に何も感じておらず、王国側の考えが変われば人魔共存の道は容易く叶うと俺は考えている。」




「そうかもしれません.........なら王国側でクーデターを起こし、勇者アーサーが次期国王になれば!」




その言葉を聞いて嬉しそうにゼノンは笑みを浮かべる。




「やはりお前は最高だな。俺と同じ考えを思いつくとは。」




急に褒められた事で気恥ずかしくなったアウラは、それを隠すよう慌てて言葉を続ける。




「で、では今アーサーが王族に向かっているのもその為なのですか?」




「いや、今回は王族を説得する為に向かっただけだ。それにあいつの頭ではクーデターなんて発想出るわけないしな。」




「その説得成功する可能性は?」




「あるわけないだろ?恐らく王国側はアーサーにとっての弱みを握った上で、すぐに魔王討伐の命令を下すだろう。」




ゼノンは呆れたように笑いながら




「奴らは利用できるものは全て利用する。悪魔みたいな連中だからな。」




その言葉に込められた本当の意味を理解できるのは、前世で苦い思いをしたゼノン以外誰もいないだろう。




「では、貴方様は勇者を殺したくないから自身の命を捧げると?それはあまりにも馬鹿げてます!」




「そんな訳ないだろ?ちゃんとした理由がある。」




そう言うとゼノンは指を二本立てた。




「理由は二つある。一つ目は恐怖の対象である俺がいたら本当の意味で平和な世界は成り立たない。」




「それなら私が魔王になった後に隠居でもすれば。」




「それは意味が無い。勇者が魔王を討伐するからこそ、その後のクーデタの説得力が増す。穏健派筆頭のアウラと手を組み王国のクーデターを完遂させるのが最大の目的だ。」




「我々が勇者と手を組むのですか?」




「ああ、知っての通り今の王国のやり方に不満を持っている連中はかなり多い。秘密裏にレジスタンスという対王国組織が結成されてるくらいだ。そこにアーサーが筆頭として加わり新生魔王軍が手を貸すことで、クーデター後の人魔共存の道が開かれるということだ。」




確かに理にはかなっている。魔王討伐が成されれば王国はパレードなど行われ、人の出入りが一気に増えるため侵入もしやすい。



更に警備なども薄くなり、クーデターが起こったとしてもすぐに対処できず成功しやすいだろう。



頭では分かっているが、やはり納得する訳にはいかなかった。




「魔王様の考えは理解できます。ですが、やはり貴方様には生きていて欲しいのです。他の道を一緒に.........」




探しましょう、と言い終わる前にゼノンが言葉を被せる。




「もう一つの理由がある。どちらかというとこっちの方が本音だ。」




「何ですか?」




問いかけたアウラに対して、ゼノンは見たことがない穏やかな表情を浮かべこう言った。




「俺はもう戦うことに疲れたんだ。」




「え?」



この一言は頭で考える前に、自然とアウラの口から出たものであった。




「俺や先代魔王の母は、人魔共存の為に戦い続けた。これに関して後悔なんてないさ。俺も母も争いのない平和な世界が見たかったからな。」




ゼノンの表情はとても穏やかだった。だからこそアウラは言葉を挟めず、ただただ聞くことしか出来なかった。




「その道半ばで先代魔王は亡くなり、俺は意志を引き継ぐ形で魔王となった。来る日も来る日も理想の実現を求めて戦い続けた。だかなアウラよ、戦いの先にあるのは何だと思う?」




「.........。」




アウラは考えたが答えが出ることはなかった。




「答えは憎しみだよ。やられたことに対して相手を憎み報復する。報復された方は相手を憎みやり返す。この繰り返しの先に共存の道なんてないんだよ。」




「それは...」




「家族を失い、苦しむ民を見るのは辛いよな。そんな顔が見たくて戦ってた訳じゃない。だが、どちらかが武器を取った瞬間に対話という選択肢はなくなる。今の王国とでは共存なんて無理だったんだよ。」




それが分かった瞬間のゼノンの失望は推し量れない。どちらかに正義があれば片方は必ず悪になる。綺麗事ではどうすることもできない現実に、ゼノンは疲れ果てていたのだ。




「そんな時にあいつが目の前に現れた。」




「勇者アーサーですか?」




あいつを示すのがアーサーであることは容易に想像できた。彼が現れてから魔王ゼノンは明らかに明るくなったのだ。




「そうだ、最初は脳内頭畑の残念勇者かと思ったんだがな。話す内にあいつの理想は、いつの日か俺が捨てた理想そのものだと思い出した。こいつなら王国を変えられると本気で思った。」




「ならお二人で平和な世界を作る道を探せば!何も死を選ばずとも…」




「俺は暴れすぎたんだよ。四天王時代から前線で戦い続けた。どれだけの人間をこの手にかけたと思う?そんな俺が今更平和を説いたところで誰も信じないさ。」




嘆くような表情を見せたゼノンだったが、次の瞬間魔王ゼノンの表情に戻る。




「だからこそアウラ。穏健派として、魔族だけではなく人間側にも好印象を与えているお前が、新たな魔王として勇者アーサーと共に人魔共存の道を切り開くのだ。」




「かしこまりました!このアウラ必ずやゼノン様の意志を引き継ぎ、人魔共存の道を歩んで参ります!」




アウラが気づいた時には片膝を立て、胸に手を当てる忠誠のポーズでゼノンに宣言していた。




(なぜ私は魔王様の考えを認めるようなことを?)




アウラは自然と行ってしまったことに対して戸惑いを隠せなかった。すぐに訂正しようとゼノンを見上げたがその言葉は出てこなかった。




「頼んだぞアウラ。お前達に任せられるなら俺は喜んで舞台から降りられる。」




その柔らかな表情を見た瞬間アウラは悟った。




(誰がこのお方を止められるのか?この想いに答えることがこれからの自分の使命だ。)




思いが通じた二人はゼノンが酒を取りだした事で一気に緊張感もなくなり、今後について計画を煮詰めることにした。

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