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世界の裏側  作者: 渡辺律
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後日談 02

いつもより短いですが。

そんでシリアスちっくー。

 馬鹿よねぇ、と大陸でもっとも力のある国の王妃は苦笑した。馬鹿なのはいったい誰なのだろうか。







「そういえば、神子は今どちらに?」

 隣国ドルセアの王妃ティアシェはたった今、重大なことを思い出したと言わんばかりにマリアージュにそんな質問をした。

 神子とは、世界を支える者。どこにいようともどこかの国が豊かになる、ということではないけれど、自国にいてくれた方がいろいろとやりやすいことは確かだ。今までの神子は聖樹国に降臨し、そのまま聖樹国で生涯を閉じていたはず。だからこそ、聖樹国はあれほどちっぽけで力などないに等しいにも関わらず、これまでずっと国として存続してこれたのだ。


「ふふ、神子はこの国にはいないわ。それどころか、この大陸のどこにもいないの。でも、この世界にはいる」

「それは、わたしたちの知らない大陸がこの世界にはあり、そこに神子はいらっしゃる、ということですか」

「違うわ。ええと、わたくしはただびとだからよくわからなかったのだけれど、空間の狭間というのがあるらしくてね、普段はそこにいらっしゃるそうよ。で、何かあったときはそこから出て顕現なさるの」

「そんなことができるのですか?」

「陛下が仰るには、まさしく彼女は『神子』なのだそうよ。今までの神子すべてが同じ能力を有するのか否かはわからないけれど、少なくともわたしのご先祖様に限っていえば、神の子という呼称は決して大げさではないのでしょう」

「具体的にはどういう力をお持ちだったのですか?」

「世界とつながっているんですって。その気になれば、世界のどこで何が起こっているか正確に把握することができたそうよ」

「それは…」


 どことなく理解しきれていないらしいティアシェを見て、マリアージュはふふふ、と上品に笑う。神子の存在は知っていても実際に見たわけではないティアシェにしてみれば、想像がつかないのだろう。


「心配はいらないわ。少なくとも蘿蔔すずしろ様に限っていえば、あの方を傀儡にすることなどできないから」


 マリアージュの言葉に、ティアシェは一瞬、顔色を変えた。その様子をマリアージュは楽しげに見ている。


「聖樹国があれほどの繁栄を続けられたのは、ひとえに神子の存在があったからよ。神子がいなければもっと早くどこかの国に吸収されていたでしょう」

「ですが、神子ですよ?神子に関してはどの国も中立を貫くはずです。神子を使うなど…」

「表向きは、ね。ティアシェ様は神子がどのようにしてこの世界に顕現なさるか、ご存知?」


 マリアージュが何を言いたいのかさっぱりわからないティアシェは内心、首をかしげていたが、いいえ、と静かに答えた。


「彼女たちは、御身ひとつでなんの準備もないままこの世界に顕現なさるの。しかもどの御方も若い方ばかり。ティアシェ様だったら、いきなり違う世界に飛ばされてもご自分の意思を貫き通せることができるかしら?何もわからない状態で」


 いたずらっぽく笑うマリアージュの瞳の奥を見て、ティアシェはある可能性に気が付いてぞっとした。


「自由意志、なんて言葉じゃ言えるけれど、実際に神子様方は自由に過ごすことができたのかしら?」


 動揺を隠せないティアシェになお、面白そうに問いかけるマリアージュ。

 言えるわけがない。

 何も知らない世界にいきなり飛ばされ、いきなりわけもわからないままに神子と言われ。衣食住が保障され、神子と呼ばれながらも、それは裏を返せば神子でなければ衣食住は保障されず、衣食住が保障されるためには、聖樹国が要求する「神子」として存在するしか、生きる術はない。


「そんな…そんなこと…」


 ティアシェの慄きようを見て、マリアージュはどこか遠い目をした。マリアージュの祖先は初代神子と聞いている。彼女自身は神子でなくとも、ティアシェの知らない神子の苦悩を彼女は知っているのかもしれなかった。


「覚えておくといいわ。相手が神子であっても、狡猾な罠を仕掛けようとする人間はいくらでもいるのよ」


 ティアシェにはその忠告がまるで、王妃に罠をかけることなんて、神子よりずっと楽なのよ、と言われているような気がしてならなかった。


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