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大和伝 〜魔法の大陸と侍の刀〜  作者: 星狼


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7/8

目覚め

 静かな、最後の二人の夜。


「人間である以上、完全に完璧な『真円』にたどり着くことは容易ではない。身体が痛む日は『仁』が歪むかもしれない。心が痛む日は『義』が歪むかもしれない」


 だが、そこには二人にしか聞こえぬ音が響く。

 首を狙った、横一文字の刃の風切り音。


 大和は再度屈み、その刃を紙一重で避ける。

 そして詰める。

 懐へと。

 鋭く。

 ただ真っ直ぐに。


 刀は空を振る。


 止まらぬ。

 負けぬ。

 

 それはこちらも同じ。


 剛山は右肘を下げる。

 狙いは顔。

 その顔だ。


 大和が突っ込んでくる、その顔面の位置へと『置く』。


 刀とは魂である。そして魂とは肉体そのもの。

 これもまた剛山流派の刀である。


 大和が前進する慣性をそのまま利用し、この刀で斬る。

 その顔を。


「その歪みに自らで気づき、また静かに円の形に戻していく。この『自省と調和の繰り返し』そのものこそが、侍道という修行の正体なのだ」


 肉迫する刀の質量。

 だが、大和は止まらぬ。


 大和はさらに体勢を低くする。

 這いつくばるようなその身体。

 それは剛山の懐の奥の奥、最も深い死角へと滑り込んでいく。

 

 置き肘すらも、空を切る。

 剛山の懐に、完全に潜り込んだ。

 

 刹那、大和の身体が下から大きく伸び上がった。

 丸まっていた球体が、一瞬にして天をへと解放されるように。


ーー龍の目覚め。


 その手に握られた心の刀と共に、下から上へと、目にも留まらぬ速さの刃が跳ね上がる。


 そして斬る。

 剛山を斬る。


「お前は『心の眼』を開いた。これほど筋の良い弟子を持てたこと、この師匠も誇らしく思うぞ。円の心を掴んだお前なら、もう迷いはないはずだ」


 言葉の終わり。

 そして戦いの終わり。


 斬られた。

 完全に今、斬られた。


 ワシの負けだ。


ーーいや

 

ーーもう、弟子では在らぬ


 悔しさを感じてはならぬ。

 悲しさを感じてはならぬ。

 怒りなどはもっての他だ。


「ワシに出来る事はここまでだ」


 感謝。

 大和に感謝。

 大和の全てに感謝。

 ただ、それだけだ。


 それと同時に、二人の魂は道場へと還った。


 剛山は、正座をする。

 そして深く深く、静かに頭を下げる。


 現実の二人は、最初から最後まで、一歩も動いてはいない。

 だが、そこには最後の戦いが確かにあった。


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