旅立ちの前夜
明日、港に船が来る。この小さな島国に。
それは水平線の彼方、巨大な大陸からやってくる鉄の塊だ。動力源は恐らく魔法ーーいや、船そのものも鉄ではなく魔法なのかもしれない。
風の噂に聞くその大国は、この島国では見たことのないものがある世界なのだという。魔法の力をいかに高め、何を生み出すか。巨大な力で己の魂をどのような形に変化させるか、誰しもが熱気に満ちた大陸。
しかし、この小さな島国には、それとは全く異なる穏やかな時間が流れていた。
この島国……ここには、「侍」の魂を持った者が住んでいる。
島国には、頑なに炉の炎を絶やさず、鉄を叩き続ける鍛冶屋がいた。彼らの打つ『本物』の刀は、いつかは折れ、いつかは錆びる。一方で、己の魔力によって刃を物質として具現化する「魔法刀」という独自の技術も、この国には深く根を下ろしていた。魔法刀作りを専門とする職人もいれば、それを生業とする剣士も少なくない。
けれど、両者の間に血を流すような確執はなかった。居酒屋の暖簾の向こうでは、鉄の職人と魔法刀の使い手が、「俺の打った本物の刀の方が魂が籠もってる」「舐めるな……!魔法刀だって魂は籠もってんだよ……!」と、酒を酌み交わしながら張り合い、そして笑っている。そんな風に、互いの譲れない誇りを認め合い、調和しているのが、この島国という場所だった。
当然、剣士たちの目指す道も様々だった。
刀で戦う力を、ただ実直に極限まで究める者。
刀技と魔法の混交を試みるハイブリッドな使い手。
あるいは、魔法刀そのものの出力を限界まで高めようとする者。
無数の流派がそれぞれの答えを追い求める中で、大和が身を置く「剛山流」の在り方は、それらのどれとも一線を画していた。
『自分達の力で魔法刀を生み出し、刀技で戦う事を重視する』――。
外の人間に頼ることもなく、魔法の力という事柄にも依存しない。ただ己の肉体と精神の調和だけを信じ、己の内部から溢れ出る魔力で刀を具現化させ、一度刀を握れば、あとは純粋な「間合いと呼吸」という侍の技術だけで敵を断つ。それが剛山流の教えであり、誇りだった。
明日の船に、大和は乗る。
愛するこの島国を離れ、別の大陸へと渡る。
目的は一つ。
――己の成長の為に。
旅立ちの前夜。荷造りはとうに終わっていた。大和は最後に、師匠の元を訪れる。




