〜1.処刑令嬢、壁を壊す〜
「――よって、悪逆無道なるエルシア・フォン・アルカディア!お前をギロチンによる斬首刑に処す!」
「はいはい。またこれね。知ってた」
彼女は開いた口が塞がらないといった様子で天を仰いだ。
「何か言い残すことはあるか」
王太子シスルの冷徹な声が降ってくる。だが、何も答える気は起きなかった。
何を言っても無駄だと悟り、感情の消えた冷ややかな視線を足元に落とした。
ガコン、と重苦しい音が響き、首筋に冷たい刃が触れる。
私の首が宙を舞うのは、これで実に9回目であ
る。
――ギロチン側も『えっ、俺またこの子の首落とすの?』って絶対に困惑しているはずである。
今や彼女の首筋は、ギロチン君にとって実家のような安心感すらあるだろう。
これで実に9回目の斬首刑である。
ギロチン君の刃もそろそろ刃こぼれを心配するレベルだ。
ある時は品行方正な聖女を目指し、ある時は婚約者の王太子を陰から支える良妻を目指した。
しかし、何をどうがんばっても、
私の人生は18歳の誕生日に「悪役令嬢」の濡れ衣を着せられて処刑されるバグに見舞われていた。
(もう、やってられるかボケクソが!!!)
――神様はよほど彼女の首が宙を舞う軌道の美しさに魅了されているのだろうか。
**
怒りの中で意識が暗転し、次に目が覚めた時。
私は、見慣れた7歳の自分の部屋のベッドにいた。
「お嬢様、お目覚めですか?」
いつもメイドの声が聞こえる。
10回目の人生のスタートだ。
私はむくりと起き上がり、自分の両手を見つめた。
「下がっていいわ」
私はそう言い、メイドを部屋から追い出し、下がらせた。
いつもなら「今度こそ生き残るために勉強と淑女教育を……」と絶望するところだが、今世の私は一味違った。
なぜなら、神のバグか私の執念か、脳内に奇妙な「ステータス画面」が見えていたからだ。
〈ステータス〉
【エルシア・フォン・アルカディア(7)】
レベル:測定不能
保有魔力:測定不能
称号:【死を忘れた者】【世界を滅ぼせる幼女】【ラスボス】
人間関係はリセットされているのに、学院で測定して以来、過去から変わらない魔力量とレベル。
「相変わらずこの表記バグってるわね…【死を忘れた者】って流石に神様、私に対して酷すぎるわよ…」
今まで何回か魔力で遊んでいたら、よくわからないけど捕らえられて封印地獄にされたり、処刑にさらされたり…と失敗しまくった。
「というかこの【世界を滅ぼせる幼女】って毎回思うけど何かしら…?」
エルシアは両手を広げて天井を見つめた
「でも、どうせ何をしても18歳で死ぬのよね?」
全身から一気に力が抜け、肩の骨がストンと落ちるような感覚がした。
だったら、まともな令嬢なんて今すぐ辞めてやる。
私はベッドの上に立ち上がり、両手を天に掲げて高らかに宣言した。
「決めたわ。今世の私は、王太子たち、私を処刑した者をギャフンと言わせてやるわ!」
――ギャフン。
10回も首をチョンパされているくせに、考え方が圧倒的に甘い。
**
ベッドの上でポーズを決めたまま、エルシアは顎に手を当てて考え込んだ。
過去のループの苦い記憶が、走馬灯のように脳裏をよぎる。
(そうよ。今まで何回か国中の騎士団や結界魔術師に囲まれて封印されちゃったのよね。
多勢に無勢はダメよね。正面突破は美しくないわ)
どれだけ国家転覆レベルの魔力があろうとも、7歳児の知識と政治力では、大人たちの汚い罠にハメられて終わる、とそれは過去9回で嫌というほど学んだ。
ならばどうするか。
(そうだわ。過去の人生で私をハメたり、処刑に関わったりした悪徳貴族や闇ギルドの悪い人たちを今のうちに裏からコッソリ味方につけていけばいいじゃない!)
――天才のひらめきである。
未来の敵をあらかじめ全員身内に引き込んでしまえば、18歳になった時に誰も彼女をハメようとしなくなる。完璧な予防線だ。
……しかし、この令嬢は重大な勘違いをしていた。
「そうと決まれば、まずは腕試しね。」
エルシアはフンスと鼻を鳴らし、人差し指を前方に向けた。今自分がどのくらいの実力なのか…
(指からパチパチと静電気が出るくらいの、可愛い雷を出すイメージで…)
「『ライトニングバースト』」
ドッガアアン!!
ベッドから放たれたのは、鼓膜を激しく揺さぶる爆音とともに、部屋の壁を綺麗に消し飛ばして夜空を割るような、まばゆい雷光だった。
その威力は、下手すれば王都が滅ぼせるレベルであった。
――ここで自分の実家(公爵邸)の壁を吹き飛ばしてどうするという感じではある。
「……えっ?」
――そう。彼女は自分の実力を今まで知らなかったのだ。
これには11年後に彼女を待っている予定のギロチン君も『え、俺、11年後にこの化け物の首落とすの……?刃、通る……?』と、今から鉄の刃をガタガタ震わせていることだろう。完全にギロチン側の生存戦略が問われる案件である。
今度は別の意味でガタガタと震え始めるのであった。




