音間さんは音間さん
カーテン越しに朝日が差し込んでいた。
首から下の感覚がなかった。だけどじわじわと、少しずつ神経が回復していくのを感じた。
アイマスクは、どうやら電脳世界に入る前に音間さんが外しておいてくれたらしい。
右隣には音間さんがいた。俺と同じように仰向けで寝ている。シングルサイズのベッドに、ギチギチになっていて狭苦しい。
「赤場くん」
そう話しかけてきた音間さんの表情を見たかったが、首が動かない。
「どうして私を許してくれたの? 私は、赤場くんを殺そうとしたんだよ?」
「⋯⋯惚れてますから」
音間さんのほうは回復が早いみたいで、俺のほうを向いてくれた。
「赤場くんって、全然普通じゃないよ」
「そうですか? だからずっと一人だったのかも」
「私と似てる」
胸のあたりまで感覚が回復する。自分が呼吸していることを自覚する。
「これから生きていくけどさ、私は無価値なものに出会えるのかな」
「音間さんがそれを追い求めている時点で、そこには価値が生じていますからね。世界に唯一人、それを理解できている音間さんにすら発見できないなら、無理かもしれないです」
「そっか⋯⋯」
腰回りにまで感覚が行き渡った。少しなら胴体を動かせる。
「音間さんにとって、俺って価値ある存在ですか?」
「有益かどうかでいえば、そうだと思う。だけど私が死ぬのを邪魔したからなぁ⋯⋯」
やっぱり、音間さんって感覚がおかしいんだな。
下半身にも感覚が戻る。そこで俺は、尻のあたりの生温かく湿った感触に気づいた。
「音間さん、ごめんなさい」
「なに?」
「俺、寝てる間にウンコ漏らしてました」
音間さんは笑った。俺も笑った。
(完)




