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美少女嫌いの俺が女優の年上美少女と疑似交際を始めたら……知らない内に重くなっていた(困る)  作者: 9bumi


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第23話

 富水くんの言った通り、仕事の話があるというのは本当だった。


 内容としては、今回と同じようにセリフの少ない役だが、経験を積む機会としては申し分ない。


「どうかな、真佳ちゃん」


 横を歩く中野さんの問いに、私は小さく頷く。


「私としてはぜひお受けしたいです。一度、竜ケ崎さんに相談してみます」

「うん、それがいいね」


 それからは、私が演技に興味を持ったきっかけや、中野さんの現場での体験談など、話を咲かせる。


 仙川さんの忠告もあって、警戒していたけれど、もしかしたら本当に私のためを思っての時間だったのかもしれない。


 ほんの一瞬、そう思った時だった。


「すみません、電話です」


 打ち上げの時とは打って変わって、今までほとんど口を開いていなかった富水くんが、震えるスマホを手にしながら私たちに先へ行くよう促す。


「俊くん、それ、今出ないとダメなの?」

「はい、父からなので」

「――それは仕方ないな」

「ごめんね、金沢さん」

「ちょっと、富水く――」


 余ほど急ぎなのか、富水くんは走って私たちから離れてしまう。

 その瞬間、考えないようにしていた不安が脳裏をよぎった。


「ごめんね、俊くんが」

「いえ」

「それじゃ、先に行こうか」

「――」

「どうしたの?」


 愛想の良い笑みを中野さんが向けてくる。

 話してみた感じ、彼は悪い人ではない。

 だから、きっと大丈夫だ。


「分かりました」


 それから駅へ向かって、二人で歩き出す。


 話す内容は、富水くんのことに変わった。

 彼の父親は中野さんの師匠に当たる人で、よく世話になっていたらしい。

 その関係で、富水くんのことも小さい頃から見てきたのだとか。

 

 それからも中野さんの話は続いたが、ほとんどが入ってこない。

 早く駅に着いて欲しいという思いが、時間の経過とともに強くなっているから。

 

 そして、そんな私の思いが届くことはなく、突然、中野さんはその場で立ち止まった。


「そういえば、もう一つ仕事の話があるんだけどさ」

「本当、ですか……」

「そう、しかもチョイ役じゃなくて、ヒロイン級だよ」


 さっきと同じく仕事を振る話をしているのに、中野さんの表情に笑みはなく、瞳はすわっていた。 


「実はさ、その役について君ともう一人で迷ってるんだ」

「そう、なんですか」

「そうそう。そこで提案なんだけどさ」


 中野さんの表情が下卑たものに変わった瞬間、私は近くにこじんまりとした、それでいて妙な大人な雰囲気を醸し出す建物の前にいることに気づいた。

 それと分かるような派手さがないせいで気づかなかった。いや、人通りが少ない時点で気づくべきだった。


「私、高校生ですよ」

「って言っても、18歳でしょ。成人だよ成人」

「そんなこと……」

「いいのかい? はっきり言って、君みたいな無名な子に、それもあんな弱小の事務所の子なんかにチャンスなんてないよ?」

「――っ」


 確かに、それは事実なのかもしれない。

 だけど、こんなことをするくらいなら――


「ほら、一回だけ我慢するだけだからさ」


 そう言って、中野さんは私の手首へ手を伸ばした。


         ※※※


 僕、富水俊は路地裏に隠れてほくそ笑む。

 電話といって二人の下を離れたのは、当然嘘。

 すべては僕の作戦のうちだ。


 さて、そろそろかな。


 中野平介は、父親の部下で昔からの顔なじみだ。


 向こうは僕のことを純粋無垢な青年で、彼のやっている辟易するようなことも知らないと思っている。


 そんな訳がない。


 あいつの本性を僕はよく知っている。


 ディレクターになったあたりから、配役を餌に売れない女優と関係を持つようになっている。

 人生イージーモードの僕と違ってモテないから、そんなことをするしかないのだ。

 正直、みっともないことこの上ないが、今回はそれを利用させてもらった。


 僕が可愛くて有望な新人を紹介すると言ったら、プロデューサーのくせに二次会を放り出してすぐに付いてくるような男だ。

 今頃は僕がしばらく返ってこないことをいいことに、配役を与えることを条件にして、金沢さんを言いくるめようとしているに違いない。


 そこで僕が助けに入り、金沢さんの気を引く。

 そしてついでに、あいつの弱みを握ってやる。

 

 プロデューサーといえど、あいつは僕の父には敵わない。

 弱みを出しにして、金沢さんに配役チャンスを与えてやれば、流石の彼女も嫌でも僕に興味を抱くことになるだろう。

 いっそのこと配役を渡すようあいつに仕向ける代わりに、俺の彼女になってもらうのもアリかもしれない。


 いや、それはないな。


 相手の方から追いかけてもらわないとつまらない。

 相手から迫られてこそ、始めて愉悦を感じられる。

 きっと、ここまでお膳立てした相手なら、至高の喜びだろう。


 楽しみだなぁ。


 頃合いだと踏んで、路地裏を出る。

 さすがに少し移動しているのか、姿は見えない。


 確か、この近くにホテルがあったはず。

 まさかあいつ、会っていきなり連れ込む気か?

 少し会わない間に、ますます気が大きくなったようだ。


 念のため、歩く速度を速める。そして――


「――っ、何だよお前」

「あんたこそ、俺の先輩に何をしている」


 ――っ、どうしてあいつが……っ!?


 本来、僕が立つはずだった場所に、三島見心がいた。



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