第18話
面倒なことになった。
「ここがいいかな~」
仙川さんに連れられて、駅近くの公園に足を踏み入れる。
日が殆ど暮れていることもあり、遊んでいた子供たちはいない。
かといって、センチな雰囲気を求めて恋人たちが来るにも早すぎる。
つまり、今はちょうど公園内に人がいない時間帯だ。
「それで、話って何?」
仙川さんは振り返ると、真っすぐに深い闇色に染まった瞳を私に向けてくる。
「今日のデートを、ずっと見ていました」
は……?
この子、今、何て言ったの?
ずっと、見ていた?
「焼き肉、ウィンドウショッピング、カラオケ」
証拠と言わんばかりに、私たちが行った場所を列挙する。
どうやら、ずっと見ていたというのは事実のようだ。
恐らく、三島くんは何も知らない。
知っていれば、私に何か教えてくれる。
状況的に、帰り際に見心に声をかけることはできたはずだ。
それなのに、私に声を掛けてきたということは……。
「単刀直入に言いますね。見心と別れてください」
「昨日、三島くんがダメだったから、今度は私?」
私の問いかけに、仙川さんは作り物の笑みを張り付けたまま答える。
「見心との疑似交際は楽しいですか?」
「突然、何を言い出すのかしら。疑似?」
想像もしていない問いに、咄嗟に演技で白を切る。
「隠しても無駄ですよ」
「言っていることの意味がわからないわ」
「見心は可愛い子が嫌いなんです。そんな見心が、あなたみたいな人と付き合うわけないじゃないですか」
なるほど、三島くんの美少女嫌いは仙川さんも把握済みってことね。
「私のこと、褒めてくれて嬉しいわ」
「はい。普通に奇麗だと思いますよ、金沢さんは」
「じゃあ、さすがの三島くんも私の美貌には惚れざるを得なかっ――」
「何言ってるんですかそんな訳ないでしょ」
「――っ」
半目になった仙川さんから向けられた殺気に、反射的に身体がすくむ。
以前、この手の輩には対処の心得がある、そう三島くんには言った。けれど、それは訂正する必要がある。
この子は、本当にヤバい。
「わかってるんですよ。どうせ、お姉さんを使ったんですよね」
「――」
根拠は、などとは絶対に言えない。
これ以上は、何も言うなと私の直感が告げている。
「何も答えてはくれないんですね」
私の態度から何かを悟ったのか、仙川さんは大きくため息をつく。
「ここからは私の独り言です」
そう言って、仙川さんは続ける。
「私は怖いんですよ。本当に金沢さんが三島くんのことを好きになるのが」
私が三島くんに恋をしてしまう。
そうならないように、私は美少女嫌いの彼を選んだ。
だから、仙川さんの心配は杞憂でしかない。
「言っておきますけど、見心は金沢さんが思っている以上に魅力的ですよ」
そう言って、仙川さんは私に背を向ける。
「最後に、本当に見心のことを好きになったら、許さない」
一瞬、背筋がゾッとした。
彼のことを好きになったら、何をされるかわからない。
直感的にそう悟った。
けれど、不思議とそれほど恐怖は残らなかった。
もちろん、三島くんに恋するはずがないという自負もある。
ただ、それ以上に大きいのは――
「私は、絶対に負けないわ」
今まで、誰かの事を心から好きになったことはない。
そんな私が、心の底から好きだと言える異性が現れたとしたら。
私は全力で、その相手のことを思って、行動する。
その過程で邪魔する者がいるのだとしたら、徹底的に――
「私、人のこと言えないかも」
仙川さんのように、相手を苦しめるような真似は絶対にしない。その自信はある。
けれど、彼女が三島くんへ向ける激情の一部と同じものを、私自身も持っているのではないかと、少しだけ思った。
※※※
一日経っても、既読が付かない。
その事実に、僕、富水俊は僅かながら苛立ちを覚えていた。
はっきり言って、僕の人生はイージーモードだ。
恵まれた家庭に、恵まれた容姿、文武においても才がある。
性別に限らず、僕に言い寄るやつはたくさんいた。
特に異性は皆、何もしなくても僕に言い寄ってきた。
ただ、一人を除いては――
「おっ、ようやくか」
スマホに、件の子からのメッセージが届く。
金沢真佳:こういう関係よ
一言のメッセージと一緒に添付されていたのは、昨日、一緒にいた男とのツーショットだった。
「なるほどね」
僕は目を細める。
ただ単に、恋人同士であることを伝えるのであれば、昨日の時点で恋人だと一言伝えて終わりで良かった。
それが、忙しくてメッセージを見れなかったといった言い訳もなく、今日撮ったとしか思えない写真を送りつけてきた。
自分たちに付け入る隙は無い。
さっさと諦めろ。
彼女の性格からすれば、そんなところだろうか。
「――っ」
盛大に舌打ちする。
僕は基本的に言い寄られる側の人間だ。
滅多なことでは、自分から優しくすることもない。
そんな僕が、初めて自分から動いたのが彼女だった。
だというのに、この態度は何だ。
面白くない。
「あまり、僕を舐めない方がいいよ」
こうなったら、何が何でも彼女のことを手に入れてやる。
幸いにも、親の仕事上、芸能関係の伝手には困っていない。
手始めに、それを使って一芝居うってみるとしよう。
「あとは、あの男だな」
三島見心とかいったか。
あいつにも一度、忠告くらいはしてやるか。
僕だって、下手に動きたくはない。
あいつが自ら引くというなら、考えてやろう。
ただし、もし既に手を出しているなら――
「いや、それはないか」
彼女はそう易々と自分を差し出す人間ではない。
付き合って間もない男に、すべてを許したりしないだろう。
そんな彼女だからこそ、僕は欲しいと思ったのだから。




