第14話
ファミレスで夕子と別れ、三島くんを駅まで送った後、私、金沢真佳はそのまま真っすぐ家に帰った。
私も受験生なので、カフェか図書館で勉強でもしようかと思ったけれど、そんな気分になれなかったのだ。
「どうしたんだろ、私……」
入浴を済ませ、自室のベッドの上に仰向けになりながら、日中の出来事を思い出してため息をつく。
『言っておくけど、寂しいって言ったの、あれ演技だから』
日常的な会話で、初めて役者として培ってきた技術を使ってしまった。
普段なら絶対にあり得ない。けれど、あの時はそうするしかなかった。
寂しいと言ったのは、言葉通り演技だ。
私はあの空間で、寂しさを感じたわけではなかった。
『えっ、三島くん柔道黒帯なの!? すごい!』
『そんな、大したことないですよ~』
夕子と話しているとき、心から嬉しそうに頬を緩める三島くんを見て、実感した。
本当に夕子のことが好きなんだ、と。
そして同時に、つまらないと思った。
「何なんだろ、この気持ち……」
三島くんは嫉妬だとからかった。
私はそれを思い切り否定した。
だって、私は彼に恋心を抱いていない。
もちろん、夕子に対する独占欲もない。
だから、嫉妬する理由がない。
「もしかして、私の性格が悪いだけ?」
自分でいうことではないけれど、私はけっこうモテる。
今まで、異性から邪険にされた記憶は全くない。
だから、知らない間に、自尊心が芽生えていたのかもしれない。
そして、自分より夕子に夢中になる三島くんに、それが傷ついた。
「いや、流石にそれはない」
私自身、自分の性格が悪いという自覚はあるけれど、今まで夕子を下に見たことなど一度もない。
夕子は本当に性格が良くて、素敵で、魅力的な女の子だ。
仮に私が男だったら、私より夕子を奥さんにしたいと思う。
だから、三島くんが私より夕子が良いと言うことに異論はない。
「本当に、嫉妬なの……?」
思い返せば、別に『嫉妬=恋』と断言されることはない。
仲の良かった親友を独占された時も、同じように嫉妬という。
三島くんは、私にとって初めて親しく付き合っている異性だ。
今の私に、彼以上に気の置けない異性は存在しない。
というより、今まで彼ほど親しくなった異性はいない。
「ようは、私がまだお子様ってことね」
現状で、仲の良い異性が三島くんしかいないから、近しい異性を他の同性に独占されることに慣れていないだけ。
三島くんと同じような異性が増えていけば、自ずと今回のようなことはなくなっていくに違いない。
「あ~、スッキリした」
自分の心の整理が一区切りついたところで、大きく背中を伸ばす。
そして同時に、スマートフォン通知機能が。メッセージが来ていることを知らせてくれる。
もしかしたら、三島くんかもしれない。
そう思いながら、連絡相手を確認する。
「何だ、富水くんか」
メッセージの相手は、同じ読モの富水くん。
正直、一番話したくない相手だった。
「はあ……」
既読無視をすると面倒なので、既読をつけずにメッセージの内容を確認し、大きくため息をつく。
富水俊:お疲れ様!
富水俊:今日一緒に話して子って、友達?
内容は、三島くんとの関係を探るものだった。
撮影現場では、三島くんの方を見向きもしなかったくせに、今になって聞いてくるあたり、質が悪い。
前から薄々におわせてきてはいたけど、こうして私と三島くんの関係を探ってくる時点で確信した。
周囲の中には私たちがお似合いだと評する人もいるけど、正直、私は彼のことが嫌いだ。
だって、普通に性格が悪い。いつだって自分がしたくないことは、基本的に周囲の取り巻きにさせている。
月菜から聞いた話だと、今日の現場でも取り巻きを使って、わざわざ三島くんに探りを入れたらしい。
本人的には、直接それを聞くのはカッコ悪いとか、そんなことを考えているのだろう。
「どうしたものかしら……」
富水くんはよくモテる。だから、いつまでも私に好意を抱かれていると、妬み嫉みで周囲から何をされるかわからない。
実際に今までも何回か、富水くん絡みでトラブルに巻き込まれてもいる。
現状、三島くんに最も役に立って欲しいのは、富水くんに対してだった。
だけど、直接会っても見向きもされないのでは、手の打ちようがない。
「いや、まだやりようはあるわ」
富水くんが諦めていないのは、私と三島くんとの間に付け入る隙があると考えているからだ。
要するに、付き合っているアピールが足りない。
思い返してみると、今日の私たちは一緒に話していてだけで、別に恋人らしい姿はあまり見せていなかった。
今までに以上に恋人らしいことをして、その証拠を富水くんに見せつける必要がある。
「決めたわ」
私は富水くんとのトーク画面を開くのではなく、三島くんとのトーク画面を開く。
金沢真佳:明日、時間ある?
すぐに既読がつく。
三島見心:ありますけど……
金沢真佳:早速今日の埋め合わせ、してくれる?
三島見心:う、埋め合わせとは?
金沢真佳:明日、二人で出かけましょ
明日は、疑似交際を始めてちょうど一週間になる日曜日。
私は、人生で初めて異性にデートを申し込んだ。




