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わいらの噺
東京を江戸と申した時分のお話。
ある山の中に『わいら』という妖怪が出るようになった。巨大な牛のような体躯をしており、前足からは太い一本爪が生えている。
出くわした者の話では、その大きな爪で土を掘り返してモグラを捕まえて食っていたり、他にもやはり爪で山の小動物を襲い食い殺していたという。
とある絵師がこのわいらに興味を持ち、出遭った者の話を聞いて絵にしてみようと考えた。ところが出くわした者は数多くいるのだが、不思議なことにその全員がわいらの上半身しか見ていないという。誰に聞いても何故か草木や岩などに隠れていたと話すばかりであった。
◇
さて、このわいらという妖怪。
何を思ったのか、突如うどん屋を開いた。
けれども、そのうどん屋は一向に繁盛する気配を見せない。
一度は物珍しさで客は入るのだが、その客が再び訪れることがないからだ。
「わいらのうどん屋? あそこはダメだ。出てくるうどんにコシがない」
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