小豆洗いの噺
『居残り佐平治』という落語を聞いてみてください。傑作です。
東京を江戸と申した時分のお話。
江戸の外れにある薄野原で怪事が頻発した。この野原は薄に隠れて小さな川が一本流れており、夜な夜なそのそばを通ると川から小豆を洗うような音と主に「小豆洗おうか、人とって食おうか」という不気味な歌が聞こえてくるのだという。
噂が噂を呼び、いつしかこの歌を歌う奇怪な妖怪を『小豆洗い』と呼ぶようになっていた。
大抵の者たちは、この噂だけで近寄ることもしなくなっていたのだが、中には物好きな男達もいた。男たちは夜になると酔いに身を任せつつ、件の薄野原を目指してやって来た。
すると早速、川上から不気味な歌声が聞こえてきた。
「おうおう、食えるものなら食ってみやがれ」
多勢の心理か、やたらと強気なまま皆で川を調べ始めた。
ところがどういう訳か、声は聞こえども全く姿が見えない。皆がいよいよ薄気味悪くなり、帰ろうかという雰囲気の中、一人がむきになって更に勇み足を見せた。すると、何かに足を引っかけてしまい、頭から川に突っ込んでしまった。
仲間に慌てて助けられた男は、咳き込みながらも両腕の袂に何かが入っている事に気が付いた。おそるおそる確かめてみる。すると右の袂には餅米が、左の袂には小豆が入っていた。
「なんじゃこりゃ?」
「赤飯の材料だな」
「あ」
と、仲間の一人が得心がいったように声を出した。
「おこわにかけるって事だろう」
読んでいただきありがとうございます。
感想、レビュー、評価、ブックマークなどして頂けると嬉しいです!




