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六喰の鍵師  作者: 長月 こたつ
ギルド編
39/63

39.六喰の鍵師

 紙袋の口を素早く閉じ、紅葉はゆっくりと紙袋を床へ下ろして背を向けた。例え僅かな間でも、視界から消したかったのだ。

 紙袋の中身を見た紅葉には、その物の意図は分かりきっている。

 それ故に、紅葉はここからの逃走ルート四三パターンの中から……などと考えられるほど、紅葉の頭脳は勤勉ではない。


 残るか───────逃げるか


 その二択だった。

 心の中の綱引きは、感情が凄い勢いで「逃げる」を引いていた。

 だが、理性も負けてはいなかった。

 理性はまさに死に物狂いで「残る」を引いていた。何故なら、その背後には笑うリアスが佇んで居るのだから。

 結果は火を見るより明らかだ。

 紅葉は残るしかない。

 決まり手はやはり、リアス告げた「逃げたらただじゃおかないわよ?」の言葉だった。

 あの時のリアスは、何をしでかしてもおかしくはない目をしていたのだ。


 やるしかない。


 何度目かの決意を胸に、紅葉は紙袋に手を差し入れる。

 中には二つの物しか入っていない。

 紅葉が掴み、取り出したそれは…………。


 ───仮面と外套だった。



 ◇



 会議室には、総勢十名の人物が顔を揃えていた。コの字型の机が備えられており、各辺に四脚ずつ椅子が置かれている。

 コの字型の切れ目がちょうど正面となり、そこには司会者台が立っていた。


「では、次の議題に移ります」


 司会者台に立つ光帝(・ ・)が出席者の顔を一瞥し、異論がないことを確認する。

 会議の内容は多岐に渡り、現在の各場所の状況から、今回の魔人族騒動まで幅広く話し合われていた。

 すでに会議を始めて数時間が経っている。

 だが、文句や愚痴を溢す者はこの場にはいない。

 二つ名持ちと国王軍中将とその副官。この場には上に立つ者しか居ないので、しっかりと事の重要性を理解しているのだろう。


「次の議題ですが」


 会議も終盤に差し掛かり、上に立つ者達とはいえ疲労を感じぬわけではない。


「新たに二つ名を冠する人物を、皆に紹介しようと思います」


 そこへ虚を衝かれた形の面々だったが、議題の重大性を理解し、散漫になり掛けていた意識がことさら鋭く研ぎ澄まされた。


「光帝殿…本気ですか?こんな時期に?」


 待ったの声を掛けたのは国王軍中将──ダーツ・ディライン。

 三十代前半と若くして中将に登り詰めたディライからは、歴戦の風格が漂っていた。

 険しい視線を光帝に向け、その真意を図ろうとしていた。


「こんな時期だから、こそです」


 注がれる視線に臆することなく、光帝は真正面から視線を返す。


「今すぐその者に、二つ名を与える意味がありますか?」

「先程の話し通り、今回は大規模な戦闘になる恐れがあります。ならばそれに向け、旗印と戦力は多いに越したことはありません」

「しかし、直ぐに折れる旗…生半可な戦力では、逆に士気を下げることにも繋がります」


「常闇に勝るとも劣らず……だとしたら?」


 ───────ガタリ


 ディライは言葉を返すことも忘れ、思わず立ち上がっていた。

 彼の表情は驚愕に染まり、息を吐くことさえ忘れている。

 そんな馬鹿な話しがあるわけがない。

 この場にいる者達は常闇の残念な所も知っているが、それを引いても有り余るほど、こと戦闘においては多大なる信頼を持っていた。

 その常闇に勝るとも劣らない実力者など、そうそう現れるものではない。


「ディライ中将」


 ディライの呪縛を解いたのは、隣に座っていた副官だった。

 倒れそうになったていた椅子を支え、ディライを心配そうに見ていた。


「すまない、大丈夫だ」


 ディライは静かに息を吐き、これしきで取り乱した自分を戒める。

 だがディライが取り乱したのも、無理はない。ギルドとは人族社会で、三大権力の一つに軒を連ねている組織だ。そのギルドの二つ名持ちとなれば、発言一つで国を割ることは出来ぬとしても(ひび)位なら入れられる。

 その一人が決まろうとしているのだ。


「常闇殿」


 話しの真偽を確かめるべく、ディライは常闇に声を掛けた。


「……………」


 腕を組んだ体勢で俯いている常闇から、返事は返ってこない。


「……あの、常闇殿?」


 新人と比べられ、気分でも害したのかとディライは勘繰ったが、実際は違った。

 その事に隣に座る紫電がいち早く気が付いた。


「常闇さん、常闇さん。起きてください」


 常闇は寝ていた。

 上に立つ者達とは言えど、志は千差万別だった。

 紫電が必死に揺すり起こそうとするが、常闇はなかなか起きない。


 ────ビキッ!


 近くに居た者には、もしかしたらそんな音が聞こえたかもしれない。


「精霊回路解錠」


 司会者台から紡がれる言葉。


「光弾!」


 放たれた光の弾は、吸い込まれるように常闇の額へと命中する。被弾の際に、紫電は速やかに常闇から離脱していた。

 大きく仰け反った常闇は、そのまま後ろへと椅子ごと転倒した。


「敵襲か!?」


 素早く立ち上がった常闇だが、集まる視線に首を傾げる。


「あ?夢か…」


 我が道を進む常闇は一人納得し、椅子を戻して何事もなかった様に座り直した。

 呆気に取られる一同だったが、司会者台に佇む者はそれを赦さない。


「常闇、会議が終わったら第四修練場に来なさい」


 場の空気が凍る。

 光帝が指定した第四修練場…またの名を、()置きの修練場やの修練場と呼ばれている。

 光帝が制裁を加える時にしか使用者のいない修練場は、一度入ればただでは済まない。


「な、な、何でだよ!?」


 そう、常闇でも動揺を表すほどに。


「…寝てたわよね?」


 怒りの為に光帝の言葉遣いがいつもの調子に戻っているが、それを気に掛けれるほど余裕がある者はいない。


「俺は寝てないぞ!」

「じゃあ、さっきまで何の話しをしてたかしら?寝てなかったのなら分かるわよね?」

「あれだろ、魔物の集団化に対する防衛策」

「それは四つ前ね」

「……………」


 常闇は仮面の下で、冷や汗を流していた。


「で?」

「…………………す、すまぎゃふぁっ!?」


 謝罪しようとした常闇だったが、それは既に手遅れで光弾の嵐がその身を襲う。

 もんどり打ってひっくり返った常闇は、部屋の隅まで転がっていく。

 ボロ雑巾のようになった常闇に、手をさしのべる者はいなかった。


「ごほん…失礼しました。では、続きを…紅蓮」

「ディライ中将、私が話しを引き継がせて頂きます」

「あ、あぁ…宜しくお願いします」


 常闇の有り様にディライの意識が引かれるが、何とか視線は常闇から切り離した。


「常闇…に並ぶ戦力で有ることは、私の他に水妖と紫電も共に目撃しております」

「それは…誠なのですね?」


 ディライが水妖と紫電それぞれに視線を向けるが、両者共に頷いた。


「真実……の様ですね」


 苦笑いに変わったディライに、紅蓮も頷く。


「そして私、水妖、常闇、紫電、光帝の五人がその者を推薦しました」

「過半数を得た…と言うことですね」

「はい、その通りです」


 二つ名持ちの認定は、在籍する二つ名持ちの鍵師から過半数の賛成を得て就任する決まりなのだ。

 現在ギルドに所属する二つ名持ちは九名。その内の五人から既に賛成が得られているので、実質就任は確実なのだ。


「では、その方は?」


 ディライの質問に紅蓮は着席し、光帝が返答者に代わる。


「はい、既に扉の向こうで待機させております」


 ディライが頷いたことで、光帝は扉へと手を掛けた。


「入りなさい」





 ▼





 ドアノブが音を立てたことにより、ついにその時が来たかと紅葉は歯を食い縛った。


「入りなさい」


 扉が開き、声が掛かった。

 紅葉はもう一度自分の姿を確認し、乱れが無いことを確め会議室へと入室した。


 ディライが目にしたのは純白の外套に、漆黒の仮面を着けた人物だった。

 純白のローブを見た際に、この場に居ない二つ名持ちを連想したが、その方は仮面も白色で身長もさほど高くない。

 ディライの初見での感想は、そこまでの強さを感じない、だった。


 入室した紅葉は司会者台の真横に連れて来られ、注がれる視線に辟易した。

 品定めするような視線から好意的な視線まで、様々な感情が交錯しているのを感じる。

 見せ物小屋のパンダの気分を味わっている紅葉は、早く終わらせて帰りたい思いで耐えていた。


「この者が、新たに二つ名を冠した者になります」


 ディライ、そして初対面の二つ名持ちに向かい、光帝が紅葉を紹介する。


「それで、二つ名は何て言うんすか?」


 初対面の二つ名持ちが手を挙げ先を即した。


「与えられし名は…六極を喰らいし者─六喰(りくじき)の鍵師です」

「…また、凄い名前だな」


 紅蓮も決められた二つ名を知らなかったようで、その名を聞きしばし驚くも、直ぐに納得して頷いた。


「だが、お前にはぴったりの二つ名だな」


 紅葉にはその意味が分からなかったが、紫電と水妖は肩を揺らして笑いを堪えていた。


「初対面の人も居るので、自己紹介していきましょう」


 光帝はそのまま視線を右にスライドさせ、そこに座る紅蓮に目で合図する。


「では、俺から。ジアジ大陸担当、焔のギルドマスター、紅蓮の鍵師だ」


 既知の紅蓮からだったが、そこは流れを作るための役割。紅蓮も分かっているため、その紹介は短く纏められていた。


「では、次は私が。フリアカ大陸担当、稲妻のギルドマスター、紫電の鍵師です」

「じゃあ、次は私ね。パーロ大陸担当、渦のギルドマスター、水妖の鍵師よ」


 その席順は恐らく交錯による、意図的な並びをしているのだろう。

 紅蓮、紫電、一つ空いて水妖と並んでいた。

 因みに、一つ空いている場所は常闇の座っていた席である。


 紅葉が知っている者達の順番が終わり、ここからは初対面の者が続く。

 まずは、司会者台の正面に座るディライだ。

 ディライは立ち上がると姿勢を正し、切れのよい動きで敬礼する。


「自分は国王軍所属、ディライ・ダーツ中将であります!六喰の鍵師殿、拝命おめでとうございます」

「同じく、国王軍所属、マチルダ・マルテス大佐であります。拝命おめでとうございます」


 ディライに続き、副官のマチルダが立ち上がり敬礼を行う。マチルダは切れ長の目が鋭く感じるが、実は家庭的でさりげなくいつもディライを補助している才女を思わせる女性だ。

 二人の洗練されたその動きは、高い地位に有りながらも未だ鍛練を怠っていない事が見てとれた。


「じゃ、次は俺っすね。北メアリガ大陸担当、鋼のギルドに所属してる剣王の鍵師っす!剣では誰にも負けないと自負してるっす。六喰っち、宜しくっす!」


 剣王と名乗った鍵師は、軽く紅葉へ手を振り席に着く。

 ちゃらい感じを匂わす口調とは裏腹に、この中で一番紅葉に興味を抱いている人物でもあった。


 剣王の隣に座っていた男が、無言で立ち上がる。仮面をつけているがその頭には毛がなく、身長も二メートルに及ぶ巨躯。

 この中で威圧感は一番強いだろう。


「フリアカ大陸担当…地殻のギルド所属…砂岩の鍵師」

 

 それだけ言って、砂岩は腰を下ろす。

 圧倒的な存在感に紅葉も固まっていたが、最後の一人が立ち上がった事で我に返った。


「え、ええ、えと…水妖さんと一緒で、パーロ大陸を担当してます。あ、嵐のギルド所属。わ、私は風音の鍵師をな、名乗らして貰ってます。り、六喰さん、ここ、これから宜しくお願いしましゅ!」


 わたわたと落ち着きのない彼女──風音は、何度も紅葉に頭を下げていた。

 こんな子に二つ名が勤まるのか怪しく思うが、風音の人柄がこの様な為、周りの者が自然とフォローに回ってくれるのだ。

 大人しそうな風音だが、二つ名を冠するだけあり風の精霊魔法はず間抜けている。


「それでは、最後は私ですね。ジアジ大陸担当。ギルド本部、またの名を閃光のギルドのギルドマスター、光帝の鍵師。貴方の事を一同歓迎致します」






 ここに、新たな二つ名持ち。


 ────六喰の鍵師


 が、誕生した。

因みに、六極または六合と言い

天地と四方。上下四方。または天下や世界、全宇宙

の意があるのです。


六極を喰らう者で六喰。

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