異世界トリップの前提条件
異世界に行きたい。ファンタジーやゲームが好きな奴なら一度は考えるんじゃないか? 異世界トリップでチート無双とか、ゲームの世界で俺TUEEE!! とか、もしくはまったり観光旅行。行商で一躍大商人もいいだろう。とにかく、現代の若者達は、努力では伸し上がり難くなった社会に嫌気をさしているのだ――なんて考察は置いとくとして、異世界トリップだ。
もし神様なり精霊なりの存在に、どんな力が欲しいかと聞かれたらどう答える? 翻訳能力? 基本だな。魔力無限? お偉いさんにばれたら一生人間エネルギーとして働かされそうだな。ゲームキャラのステータス? はっきり言って化け物としか見られないと思うぞ。 にこぽなでぽ? ハーレム作っても、現実だと昼メロ状態の惨劇を繰り広げるんじゃねーか? 内政チート? それが出来る頭があるんならこの世界でも成功できるさ。諦めんなよ。
等々。少し考えてみただけでもチートは次々でてくる。俺? 勿論、基本は押さえて後は身体能力の向上とある程度の強さと魔力さ。あまり強すぎるのは火種になりかねないだろ?
しかし、俺は勘違いしてたんだ。
異世界トリップした俺が最初に出会ったのは、心優しい美人で、正直これで勝ち組だ! とか思った時もありました。
「いい? つまりね、この細胞変化がこの部分に作用していて……」
壁いっぱいに映し出されたスクリーンを示しながら、理解不可能な科学用語を延々と口にする彼女に、今日も俺は虚ろな眼でひたすら相づちをうち続ける。
……失敗したんだ。
まさか、前提条件が違うだなんて思ってもみなかった。魔法と剣のファンタジーじゃなくて、科学技術が大幅に躍進した世界だなんて思ってもみなかったんだ! しかも、何故か皆科学が大好きで、朝から晩まで研究、実験ばっか。一番人気なイベントが朝まで研究討論だぞ!? やってらんねー!!
「で、ここがこうなってるの。ね? 解ると楽しいでしょう?」
おまけに、皆から見たら赤ん坊と同じくらい無知らしい俺に同情して、毎日何時間も講義してくるし……。いや、皆いい人ばかりなんだ。ただ、科学が三度の飯より好きで、科学が理解出来ないことを何よりも不幸だと思ってるだけで……。
でも!! 言わせてくれ!! 俺は、俺は。
「文系なんだよ――!!」