万屋、霹靂1
プロローグ的な作品。モバゲーからの転載です。
続きはそのうちに。
黒。凝った闇の塊がその触手を伸ばす。
びちゃり、ぴちゃり、と。何かを啜る。何かを喰う。
……そしてまた、闇へと還る。繰り返し、繰り返す。
また一人、誰かがいなくなった。
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『よろず、承ります。――気が向けば』
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冬の空は、薄く青く、高く澄んで、どこか寂しい。
どこからか聞こえてくる赤子の泣き声とそれをあやす母の優しい子守唄。
新鮮な魚を売り歩く男の声が通りを行き過ぎ、匂いにつられたのか塀に寝そべっていた猫が首をもたげる。
井戸端では近所のおかみさん達が、駆け回って遊ぶ子供らに目を配りながら噂話に花を咲かせていた。
ここは、雑多な人種の住まう街、峰駿。
都会といえる程大きくはないが、さりとて田舎というわけでもない。
ほどよく栄えていて、活気のある街である。
そんな峰駿の一角、長屋が立ち並ぶ住宅地の奥に、その店はあった。
ひっそりと佇む、寂れた店。
斜めに傾いだ看板にはえらく達筆な字で《 霹靂 》 と書かれている。古ぼけた年代物の建物の中で、その看板と軒下に下がっている提灯、そしてドアに掛けられている木の板だけがまだ新しい。
ふいに焦げ茶色のドアが軋みをあげ、ゆっくりと開いた。
ちりりん
ドアに取り付けられたベルが鳴り、店の中から一人の青年が現れた。
明るい日差しに透けるゆるいウェーブのかかった金茶色の髪。くっきりとした二重の瞳は血のように赤く、見る者を引き付ける危うげな魅力を持っている。
どこかの劇団にでも入れば、あっという間に人気俳優になりそうな、甘いマスクの青年だ。
青年はこちらを見ているおかみさん達に気付くと、にこり、と人好きのする笑みを浮かべた。
「 おはようございます。今日もいい天気ですね 」
若い娘のように頬を染め、おかみさん達も笑顔を返す。
「 おはようさん。エルムドさんはいつも早起きだね 」
「 ほんと、働き者だしさ。うちの亭主に見習わせたいよ 」
ほんとにね、と言い合うおかみさん達に照れたように会釈して、エルムドと呼ばれた青年はドアに掛けられた板に手を伸ばした。
骨董屋、霹靂( へきれき )
――準備中。
そう書かれた板を裏返す。
準備中の文字が開店となり、その下の方に、ひっそりと
《 よろず、引き受けます 》
と、書かれていた。
よろず、とは色々な、という意味だ。つまり《 何でも屋 》である。
骨董屋、兼、よろず屋。それがここ、霹靂なのだった。




