第93話
「なんで、なんでこんなことが……」
秋山が困惑しながら火の前に立ち尽くした。
「教えてもらってない? 精霊は感情に反応する。感じる思いが強ければ強いほど精霊が集まってくるって聞いてないのかしら」
「それは魔法薬作りの話だ!魔法に応用できるなんて聞いたことがない!」
秋山の言葉にモイは噛み殺すように笑う。
「まだまだ知識が足りないわね。あなた本を読んだりしないのかしら」
モイは小馬鹿にするように首を傾げる。
「本?まさか本からそんな知識を得たって言うのか⁉」
秋山は意味がわからないといったふうにうろたえていたが、エイガはその言葉に妙に納得してしまっていた。
エイガは家でのモイの様子を思い返す。魔法の訓練の時間以外はずっと本を読んでいたモイ。
いつの間にかこんな大量の魔法を操るようになっていることも驚いていたが、それはきっとその時の貯金なのだろう。
「本を舐めてもらっては困るわ。本はどんなに出来損ないでもどれだけ才能がなくても教示してくれる理想の先生じゃない。あぁでも――」
口角をあげて、愉悦に浸った顔を手で隠しながら秋山を見下すモイ。
「これはあなたが見下したノーマンさんのメモだったかしら?本には載ってないわね、ごめんなさい」
「は?あの出来損ない四天王が?」
秋山の言葉にわかりやすくモイの顔がハッと見下すように笑った。
「その出来損ない四天王のメモに圧倒されてるご感想は?」
そう言って、先ほどよりもさらに大きく炎を燃え上がらせるモイ。
モイの言葉の殴打を受けた秋山はギリッと歯ぎしりをした。
「そんなことあるわけないだろう!アレーシア様はすぐに僕たちを戦争に連れて行った!そんな知識があるなら、アレーシア様が共有しないわけがない!」
秋山の言葉の節々に熱がこもってきた。
「さぁね、洗脳を受けるまで心酔しているあなたよりアレーシアさんを理解できるわけないから分からないわ」
モイは寄せていた眉間の皺を緩めた。
気分が良くなってきたのか上機嫌に腕を組む。
「多分だけど……アレーシアさんには無用の長物だったんじゃないかしら?だってアレーシアさんって魔力量がこの国で一番多いんでしょ?」
「え、そうなの?」
この情報に一番驚いていたのはエイガだった。
「てっきりノーマンさんが一番だと……」
ぼそりと呟いた言葉が秋山の耳に入る。
「あの無能が一番?笑わせないでくれよ」
秋山が不機嫌を隠しもしないでエイガを振り返る。
「魔力量の総量を感じ取れるのは相手の魔力量が自分より下だった時だけ。感じ取れる魔力が僕以下であることはもちろん国民の平均以下だったろ」
「え⁉」
思わずエイガはモイを振り返ったが、モイは肩をすくめてみせるだけ。
秋山がエイガの顔をじっと見た。
「……エイガ君が馬鹿とは言えなんでこんなにリアクションが新しいの?」
「エイガはそれよりも魔力量が少ないの。見ればわかるでしょう?この量で誰かの魔力なんて感じられるわけない」
「あぁそっか、なるほど」
秋山が妙に納得した様子で相槌を打つ。
エイガは初めて聞く新常識に目を瞬かせた。
「え、魔力って見えるの?」
モイが秋山を見据えたまま答える。
「意識すれば相手の魔力は見えるわ。魔力は抑えることもできないから相手の強さと言っても大方間違いじゃない」
つまり自分はこの国で一番少ないであろう魔力を町の人に見られていたかと思うとエイガは段々顔が赤くなる。
「まぁエイガは私が守るからいいのよ、エイガはエイガのできることを、私はノーマンさんが残してくれたこの力で十分戦える」
「そんなの――」
わなわなと拳を震わせ、歯をまた食いしばりながら委員長は突然顔をあげた。




