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第92話

「まずはお礼参りさせて、委員長!」


 そうモイが叫んで地面に手を当てるとそこから火の粉が散り、小さな光が秋山の元へと銃弾のように飛んでいく。


「そんな小さな火の玉、無駄なんだよ!」


 秋山がパチンと指を鳴らせば剣がモイの放った火の玉をかする。

 その瞬間、モイがニヤリと笑ったのをエイガは見逃さなかった。


「油断が透けてんのよ!」


 そうモイが勝ち誇ったようにチッと舌を鳴らすと大きな音を立ててその火の弾が爆発した。

 香ばしい火薬の香りがその場に充満し、黒い煤が風に乗る。


「こんな火力で、僕を倒せるとでも――」


 秋山が煙を手で薙ぎ払うと、目の前にモイの姿がなかった。


「逃げた?」


 秋山がキョロキョロと辺りを見回すがどこにもいない。


「"灯台下暗し"って言葉、知ってる?」


 ハッと秋山が振り返ると背中を向けたモイが秋山の少し後ろに立っていた。


「あんまり人のこと見下してると痛い目見るわよバーカ」


 そう言った後、小馬鹿にしたようにちろりと舌を見せながら片目を引っ張るモイ。かぁっと秋山の頬が赤くなった。

 モイに向かって走り出し、その手に出す剣を倍に増やした。


「モイ!!」


 エイガが叫ぶ。

 しかしモイは逃げる様子もなくただそこに立っていた。秋山はそのままモイの懐に向かって走っていく。


「調子に乗って‼」 

「あらまぁ、”飛んで火にいる夏の虫”」


 チッと鳴らした舌打ちを合図にモイを中心にして大きな爆発と爆風が起きた。

 

「モイ!」


 爆発が起きたその瞬間、エイガは痛む体を押さえながら一歩モイの元へと踏み出そうとした。


「”君子危うきに近寄らず”」


 そうモイの声が聞こえるとエイガの踏み出そうとした足元にぼぉっと炎の壁が広がった。

 エイガは慌てて足を引っ込め、燃え上がっている火とモイの顔を見比べる。

 秋山が炎の中から飛び出して、着地する。


「ダメでしょエイガ、あんた死にかけなんだから。動いたら殺すわよ」


 子供に言い聞かせるような口調で、炎の中腹からまるでカーテンから顔を覗かせるみたいにひょっこり、モイの顔が出てきた。

 その余裕に満ちた表情は弱者を蹂躙する目そのものだった。


「な、なんで紋章なしがここまでの魔法を使えるんだよ⁉」


 秋山がまだ燃えている服の端を切り落としながら、眉間に皺を寄せる。

 モイはクスクスと笑みをこぼしながら秋山を見下げた。


「さぁね、ただ今までエイガに言われたことを思い出すと笑いが止まらなくて、すごくすごく胸をかきむしりたいの」


 モイはふとその湧き上がってくる感情に身を任せる様に、首を傾ける。


「こんな感覚初めて、なんて言うのかしら――」


 モイがまばゆい月をうっとりと眺めている。

 しかしその足元にある炎は顔とは対照的にゴウゴウと燃え続け、その勢いは増すばかりだった。


「――委員長知ってる?これはきっと怒りだわ」


 惚けた顔のままそう言ったモイは、満面の笑みで振り返った。


「怒りってこういう感じなのね! どれだけ魔法を使っても、まだまだ燃え足りない!」


 モイが袖を振るように腕を払えば、炎の剣が現れる。

 全ての矛先は秋山に向いており、秋山はゴクリと唾を飲み込んだ。

 指を構えたモイからは焼け付くような殺気が放たれていた。

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