45.サソリ
アンナがナイフで刺したサソリよりも、一回りも二回りも大きいサソリの大群が、こちらを威嚇するように、大きなハサミを頭上に持ち上げ、カシャカシャカシャカシャと音を立てている。アンナが、
「す、すみません……私のせいで怒らせてしまったみたいで……」
と青ざめた顔で言うと、
「いや、そういうことじゃないと思うよ」
と言うアンの声に合わせ、シンが魔法を使って、サソリの奥の暗がりに明かりを灯した。よく見ると、そこには、たくさんの人骨が横たわっていた。
「むしろ、アンナちゃんが教えてくれて良かったよ。皆んながサソリの毒であぁなっちゃう前にさ」
と言って、アンがウィンクした。アンナは、引き攣った笑みを浮かべながら、
「それは……お役に立てて良かったです……」
と答えた。その横から、エステルが、
「リアム、ルビー、このサソリに聖霊の魔法は?」
と聞くと、
「かけられてないですね。エサに不自由しないから、ここに棲みついてるんでしょう」
とリアムが答えた。エサと聞いて、アンナは、再び奥にある人骨に目をやった。ブルブルっと頭を振ると、両手で自分の顔を、
パーンッ!
と叩いて気合いを入れ、
「私、責任を持ってこれらのサソリを倒します!」
と、両手にナイフをを持って構えた。その時ルビーが、
「ま、待って!」
とアンナを止めた。皆がルビーに注目すると、
「見て! あれ……」
と、シンが他の場所も見てみようと、少しずつずらしながら照らしていた明かりによって壁に浮かび上がってきた影を指差した。
そこには、今にも放たれようとしている『弓矢』の影が映し出されていた。
「サソリに向かって弓を引いてる?」
アンがそう言ったとき、皆は、いつの間にかサソリの動きが止まり、静かになっていたことに気がついた。シンは、
「蠍座に矢を向けている射手座か……」
とポツリと言うと、突然、明かりをずらした。弓矢の影が見えなくなると、再びサソリがワサワサと動き出した。アンナが、
「ひっ!」
と慄いた。シンは、
「なるほど」
と言い、再び明かりを弓矢の方に向けると、サソリは再び静かになった。シンがこれを繰り返す度にアンナはヒーヒー言っていたが、アンは、
「あぁ、そういうこと」
と納得したようだった。アンナは、
「もう! パトリック様! ご冗談はおやめ下さい!」
と叫んだ。シンは笑って、
「あぁ、すまない。でもこれでハッキリしたな」
「蠍座、射手座、その次は……」
とエステルが問うと、たった今まで泣きそうな顔をしていたアンナが、パッと表情を変え、
「……山羊座です!」
と元気よく答えた。
「山羊座か……」
シンはそう言いながら、『弓矢』の影の方に近づいて行った。いくら大人しくしているとはいえ、サソリだらけの中を歩いて行くシンを、なんとも言えない表情で見つめるアンナをよそに、シンは、
「やっぱりな……」
と言うと、おもむろにその『弓矢』に手を伸ばした。影だと思っていたそれは、本物の弓矢より一回り大きく壁に掘り込まれた、弓矢の収納庫のようだった。皆が、驚いた顔をしている中、シンが『弓矢』を取り出すと、矢の先端が赤く光り出し、そこから赤外線レーダーのような細く長い光が、洞窟の奥へと導くように伸びて行った。
「本物のサソリに、本物の弓矢と来たら、次は本物の山羊か?」
シンが苦笑すると、エステルが言った。
「いるわ……山羊」
皆がエステルを見た。
「山羊の角を持った聖霊……」
と言うと、ルビーがハッとした顔で答えた。
「土の聖霊!」
シンが、
「この光を辿って行ってみるか?」
と聞くと、エステルはシンの目をまっすぐに捉え、頷いた。シンは、ポゥッともう一つ光の玉を作り出すと、弓矢の収納庫を照らし続けるように置き、サソリが動かないことを確認したところで、
「アンナ、ピクニックバック忘れるなよ」
と笑いながら言うと、リアムが、
「大丈夫だ」
と、アンナの代わりに既にピクニックバッグを抱えている様を見せた。
「ハハ!」
シンがリアムに向かって、ニッと笑うと、リアムもニッと笑い返した。アンナが、
「二人して、私をからかってますね?」
と顔を真っ赤にして言った後、自分でも吹き出して笑い始めた。皆、アンナが元気になったことを改めて確認し、安心したところで、シンは、
「よし、行くぞ!」
と言って皆を先導して歩き始めた。
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次回、土の聖霊に会える?!
毎日一話投稿していこうと思っています。
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