表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/106

102.それぞれがすべきこと

 落ち着いたボニーが、これまでのことをポツリポツリと話し始め、ようやく全てを語り切ったところで、ボニーは母親の顔を窺った。


「そうだったの。ボニー、話してくれてありがとう」


どう思われるか不安でいっぱいだったボニーにとって、母親の反応は意外なものだった。


「あなたはどうしたいの?」

「……分からない。許せない気持ちもあるし……」


そう口に出してみて、ボニーは自分の中にアーサーに対する違う思いが生まれていることは認めざるを得ないと思った。母親は、ボニーの気持ちを後押しするかのように話し出した。



「母さんはね、子供の頃から体が弱かったせいで、たくさんの人にお世話になりながら生きてきた。でも、他人に身を預けなきゃ生きられない人生だったからこそ分かったこともあってね……」

「どんなこと?」

「その人がどんな人かは行動を見れば分かるってこと」

「行動を?」

「そ。口では心配だなんて言いながら傍観するだけの人もいれば、何も言わずに助けてくれる人もいた。あんたもそうでしょ? 何も言わずに、ずっと面倒を見てくれた」

「そんなの、家族なんだから当たり前じゃない」

「そんなことはないよ。仮にそうだとしても、それは容易いことじゃない。しかもそれを長い間,

文句ひとつ言わずに続けるなんて、家族だからってだけでできるもんじゃない。そうだろ?」


ボニーは、自分のことを分かってくれている人がいる、信じてくれている人がいる、そう思えただけで報われた気がした。と同時に、母親が、そういう人間が身近にいるのではないかと示唆してくれたことで、頑なになっていた心がほぐれた気がした。ボニーの表情が少し明るくなったのを見届けた母親は、


「父さんも母さんも、もう十分に幸せだよ。だから私たちの願いは、あんたが幸せになること! それだけよ」


と笑顔で言い、皿を棚にしまい終えると、あとの二人の輪に戻って行った。



*******



 家族の体調が良くなり、時間ができたボニーは、夜明け前に外に出た。アーサーは、ボニーが畑に現れたことに驚きながらも、姿を見せてしまったことを詫び、すぐに立ち去ろうとした。


「ま、待って! その……今までありがとう。お陰で、家族みんな元気になってきたし、私も時間ができたから、これからは自分でやっていけると思うわ」


と言うボニーの言葉に、


「そうか……ご家族が……良かった」


と心底ホッとし、喜んでいることが窺い知れた。


(本当に自分たちのことを心配してくれていたのね。この人の心に偽りはないのかもしれない。いつまでも過去を引きずっていたって自分が苦しいだけ……)



ボニーが、これで自分の気持ちに切りをつけようと思っていたとき、


「その、これからも時間はずらすようにするから、畑仕事を続けさせてもらえないだろうか」


と、アーサーから思いもよらぬ申し出を受け、ボニーは驚いた。しかし、それ以上に驚いたのは、


「……そう……でも、こんなに早く来られたんじゃ、こっちまで早起きしなくちゃならないから……もう少し遅く来てほしいわ。それなら……一緒に作業できるから」


と言った自分自身だった。アーサーは目を大きく見開い後、涙目で笑いながら、


「あぁ」


と答えたが、すぐに、


「す……すまない……」


と言って、流れ出る涙を袖口で擦った。


「あ! そんな泥だらけの袖で擦ったら……!」


ボニーにそう言われて腕をどけたアーサーの顔が泥で真っ黒になっているのを見て、ボニーがぷっと吹き出した。空がようやく明るみ始め、青々とした野菜が朝露で光る中、二人は一緒に畑作業をした。



-------



「へ~、アーサー頑張ったじゃん」


二人の馴れ初めを聞いた後、アンがにっと笑いながらアーサーを揶揄うように言った。その王族らしからぬ振舞いに、ボニーはまた目を丸くした後、クスッと笑った。和やかな雰囲気になったところで、アーサーは、


「それでは失礼する」


と言い、ボニーと共に建築中の新居の方へ戻って行った。二人が見えなくなったところで、リアムが口を開いた。



「この島で暮らすことになった者達は、お嬢様がお作りになったこの場所を、親しみを込めて「home」と呼ぶようになった。

 お嬢様は、幼き頃よりずっと、争いのない世界を作ろうと尽力されて来た。生まれつきお体の弱かった王太子殿下の代わりを務められるようにと、第二王位継承者として厳しい勉強が始まった頃とも重なるが、それよりも、お嬢様に最も大きな衝撃を与えたのは、両親を内乱で失ったアンナと出会ったことだったようだ。

 加えて、お嬢様が裁判を任せられるようになると、罪なき人が力のある者の身代わりに投獄され、重い刑を科せられてきた事実もお知りになり、過去の事件に関しても調べ直されたものの、証拠は全て隠滅されていた。そのことを不可解に思われ、以降は、全ての事案をご自身や信頼できるごく一部の者で調査されるようになった。俺も、調査に関わるようになってから、同族によくもこのような仕打ちができるものだと、はらわたが煮えたぎる思いを何度もしてきた」


ここで一旦話を切ったリアムは、ふうっと大きく息を吐き、どこか遠くを見つめながら、再び話し始めた。



「この国には、国王陛下の他に、裁判を任される者だけに与えられる権限がある。刑の確定と執行だ。お嬢様は、その権限を使うことにより、表向きは処罰せざるを得なくとも、実際には無実であったり、更生の余地のある者、また、外に出たら命を狙われる可能性が高い者たちを救いたいと、国王陛下をも説得し、この場所を作られた。ご自身が、始まりの令嬢であることなど知らぬ頃からな。

 始まりの令嬢は、この世が乱れたときに現れ、人類を正しい道へと導きながら、新たな世を作っていくお方なのだと伝え聞いていたが、今思えば、お嬢様は、幼き頃からその使命をまるでご存じであったかのようだ。

 パトリック、いや、シン。お前はどうなんだ? 勇者としてすべきことをしているか?」



リアムの言葉は、シンの胸に突き刺さった。


(勇者としてすべきこと……俺は、今まで何をしてきた? エステルを刺してしまったことが正しかったのかどうか、そんなことばかり考えていたのでは? 自分のしたことに対する責めを負う覚悟はあった。しかし、それはあくまで俺個人の問題だ。仮にその答えを見つけられたとして、それが誰の役に立つ?)


シンは、リアムの方に向き直り、そして真っ直ぐに目を見て言った。


「いや」


その答えに、リアムが挑戦的な、しかし同時に温かな目でシンを見て、にっと笑った。シンも、ようやく呪縛から解き放たれたようなスッキリとした表情で目を閉じ、ふっと笑った。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、シンの心持ちが変わったことで皆んなも……


ご感想、ブックマーク、評価、大変励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ